万年初心者のための世界史ブックガイド

2017年9月13日

ストリンドベリ 『恋の火遊び 令嬢ジュリー』 (中央公論事業出版)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 01:24

高校教科書ではゾラ、モーパッサン、イプセンと並んで自然主義文学者として名前が出てくるストリンドベリだが、文学全集への収録を除けば古い訳本しか無いと思っていた。

だが、調べてみると、2005年にこの本が出ていたことを知る。

ストリンドベリはスウェーデンの作家で、19世紀末から20世紀初頭にかけて活動。

本書の訳者は文学関係の人ではなく、元駐スウェーデン大使とのことで、ちょっと「うん?」となったが、訳文自体は極端に不自然だったり、全く意味の通らないところは無かった(たぶん)。

収録作のうち、「恋の火遊び」は、ある夫婦と友人を中心とするいくつかの三角関係の連鎖を描いたもので、特にどうと言うこともない。

だが、「令嬢ジュリー」の方は、極めて印象深い。

伯爵令嬢と使用人、料理女という、たった三人の登場人物で、男女の愛憎、身分・階級をめぐる葛藤を、これでもかというくらい鮮やかに描き出している。

さすが高校教科書にも代表作として載っているだけのことはある。

二作あわせても150ページ足らずなので、あっという間に読める。

「令嬢ジュリー」単独の新しい翻訳が見当たらないので、この本の価値は十分ある。

これだけでも読んで、著名文学者の名を読了リストに増やすのもいいでしょう。

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2017年9月2日

アルベール・カミュ 『ペスト』 (新潮文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 05:40

アルジェリアのオラン市がペストの流行に襲われ、市全体が閉鎖・隔離される。

次々と病魔に斃れる市民を前に、奮闘する医師とその仲間たちを描く。

その事態を、かつてのように神による懲罰として受動的に受け入れるのはもはや不適切であり、信仰の有無に関わらず、狭いイデオロギーに拘ることもなく、全ての人々の連帯によって立ち向かわなければならないことを示した作品。

「ペスト」というのは様々な社会悪の象徴なんでしょうが、それが外部からもたらされた害悪という印象を受けるのがやや不満だなと思っていたら、医師の盟友がそれに関することを話すシーンが出てきた。

私ごときが思いつくことを、この偉大な作家が考えない訳がない、とやや赤面しました。

登場人物の思想についてよくわからない部分もあったが、解説を読むと、ああそういうことか、と思えないでもない。

これは『異邦人』に比べて、まだ初心者でも分かりやすいか。

少なくとも私はそう感じた。

もちろん私の能力では十分にその真価を理解したとは言えないが。

まあ、教科書にも載っている代表作を読めて良かった。

しかし、カミュもこれで「打ち止め」です。

『転落』『追放と王国』『シーシュポスの神話』等、他の作品を読むことは、この先まず無いでしょう。

でも戯曲の『カリギュラ』はひょっとしたら読むかなあ。

2017年8月27日

O・ヘンリー 『1ドルの価値 賢者の贈り物  他21編』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 00:58

岩波文庫の作品集を読んだのが学生時代で、かなり記憶も薄れていると思ったので、これを読んだ。

しかし、読んでいてすぐ筋を思い出す作品もあるし、オチが予想できるものもある。

ではあるが、やはり「千ドル」や「甦った改心」はしみじみと来るし、「赤い族長の身代金」は楽しい。

文学的価値云々を言うのは野暮でしょう。

しかし、私にとっては、こうした作品が心から楽しめるものであることに間違いないです。

2017年8月20日

モーパッサン 『脂肪のかたまり』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 04:21

モーパッサンの処女作。

ゾラを中心とする自然主義作家たちが、1880年に刊行した小説集に載せられたもの。

師のフロベールに激賞されたという(フロベールは同年死去)。

普仏戦争中、プロイセン軍占領下で、「脂肪のかたまり」と綽名される娼婦と馬車に居合わせた人々を題材に、人間の卑小極まりないエゴイズムを痛烈に描いた短編小説。

楽に読めて、面白い。

と言っても、後味はかなり悪いが。

モーパッサンは短編小説の名手と言われているが、とりあえずデビュー作のこれを読むだけにしておきます。

2017年8月8日

サマセット・モーム 『読書案内  世界文学』 (岩波文庫)

Filed under: 読書論, 文学 — 万年初心者 @ 03:58

モームが1940年に出した短いエッセイの翻訳。

最初岩波新書で出て、その後文庫入り。

イギリス文学、ヨーロッパ文学、アメリカ文学の三部構成。

 

まず「はしがき」で、楽しく読める作品を選んだ、文学史上、研究者や批評家にとっていかに重要でも、今日ではもう読む必要の無い書物はたくさんある、ただし「楽しく読める」と言っても、注意力や想像力を働かせることはもちろん必要だ、と述べている。

 

 

第一部イギリス文学。

読書は楽しくあらねばならないという主張。

ところで、だれにせよ、楽しみは不道徳なものだと考えてはならない。楽しみそれ自体は、大きな善である。すべての楽しみがそうなのである。ただ、それからおこる結果を考え、思慮深いひとはある種の楽しみを避けようとする。また、楽しみはすべて下品で官能的であるとはかぎらない。知的な楽しみほど、長持ちがし、また満足がえられる楽しみはほかにないことを悟った者は、英知にとんだひとだといえよう。読書の習慣を身につけるがよい。人生の盛りをすぎてから、それをこころみて、しかも満足のえられるスポーツといっては、読書をおいてそうたくさんはない。トランプの独り占い、詰将棋、クロスワード・パズルをのぞいて、読書のように、相手がなくても楽しめる遊びはほかに何もない。読書には、ほかのスポーツや遊びに見られる不都合は、少しもない。いつでも気の向いたときにはじめ、好きなだけつづけ、他の用事がおこったら、直ちにやめることのできる仕事は、ただ読書だけである。あるいは針仕事がそうであるかもしれない。だが、この針仕事という奴は、手先ばかりはたらいて、落着きのない精神のほうはさらに束縛をうけない。公共図書館が利用でき、廉価版が手にはいる、今日のようなめぐまれた時代に、読書くらい、わずかな元手で楽しめる娯楽はほかにない。読書の習慣を身につけることは、人生のほとんどすべての不幸からあなたを守る、避難所ができることである。いまわたくしは、「ほとんどすべての」といったが、それは、書物をよめば、飢えの苦しみがいやされるとか、失恋の悲しみを忘れるとか、そこまでは主張しようと思わないからである。もっともよみごたえのある探偵小説五、六冊と、それに湯たんぽの用意がありさえすれば、どんな悪性の鼻かぜにかかっても、わたくしたちは、鼻かぜくらいなんだといって、平然としていることができるだろう。だが、もし退屈な書物までもよめというのであると、読書のための読書の習慣など、はたしてだれが身につけようとするであろうか。

 

以下、取り上げられている作品。

デフォー『モル・フランダーズ』

スウィフト『ガリヴァー旅行記』

フィールディング『トム・ジョーンズ』

スターン『トリストラム・シャンディー』

ボズウェル『サミュエル・ジョンソン伝』

ジョンソン『詩人伝』

ギボン『自叙伝』

ディケンズ『デイヴィッド・コパーフィールド』

バトラー『万人の道』

オースティン『マンスフィールド・パーク』

ハズリット『卓上閑話』

サッカレー『虚栄の市』

エミリー・ブロンテ『嵐が丘』

あと、詩人選に加え、もちろんシェイクスピアの偉大な悲劇を読まねばならない、として終えている。

自国文学だけあって、ここでは、一般の日本人にはあまり馴染みの無い作品がいくつか挙げられている。

 

 

 

第二部ヨーロッパ文学。

セルバンテス『ドン・キホーテ』

(なお、この作品中の挿話を、「ミルトンの『失楽園』をよんだジョンソン博士と同様、楽しんでというよりは、むしろ義務の気持からよんだ」と書かれている。同国人の著名文士にしてそうなのだから、やはり『失楽園』は、特に文学好きでもない普通の日本人読者が無理して読むようなものではない、と改めて思った。)

モンテーニュ『エセー』(特に第三巻)

ゲーテ『ヴィルヘルム・マイステルの徒弟(修行)時代』

ツルゲーネフ『父と子』

トルストイ『戦争と平和』

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

ラ・ファイエット夫人『クレーヴの奥方』

プレヴォー『マノン・レスコー』

ヴォルテール『カンディード』

ルソー『懺悔録(告白)』

バルザック『ゴリオ爺さん』

スタンダール『赤と黒』『パルムの僧院』

フローベール『ボヴァリー夫人』

コンスタン『アドルフ』

デュマ『三銃士』

アナトール・フランス『螺鈿の手箱』(短篇集)

プルースト『失われた時を求めて』

 

 

 

第三部アメリカ文学。

フランクリン『自叙伝』

ホーソーン『緋文字』

ソーロー『ウォールデン』

エマソン『エセイ集』

エドガー・アラン・ポー『黄金虫』などの短篇小説集

ヘンリー・ジェイムズ『アメリカ人』

メルヴィル『モービー・ディック(白鯨)』

マーク・トウェイン『ハックルベリ・フィン』

パークマン『オレゴン街道』

ディキンソンの詩

ホイットマン『草の葉』

パークマンやディキンソンなんて名前は聞いたこともない。

それ以外は定番の著者が並んでます。

 

 

 

なお本書の付録で触れられているように、モームは『世界の十大小説』という本も書いていて、これも岩波文庫に収録されているが、その10作品は以下の通りである。

バルザック『ゴリオ爺さん』

フィールディング『トム・ジョーンズ』

ディケンズ『デイヴィッド・コパフィールド』

トルストイ『戦争と平和』

メルヴィル『白鯨』

エミリー・ブロンテ『嵐が丘』

スタンダール『赤と黒』

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』

フローベール『ボヴァリー夫人』

オースティン『高慢と偏見』

私は、一応8冊は読んでますね。

 

 

 

文学専門家や研究者でもない、普通の日本人読者からすると、ちょっと知名度が無さ過ぎる本が紹介されているところもあるが、たまに手に取って読書意欲をかき立てるのには役立つ本。

ここに載せられている作品を最優先に読む、というのでもいいでしょう。

2017年8月2日

ジョージ・オーウェル 『動物農場』 (岩波文庫)

Filed under: 思想・哲学, 文学 — 万年初心者 @ 06:17

角川文庫版を読んで以来、20年振りの再読。

この翻訳は2009年初版だが、これが岩波文庫に収録されるんだから、やはり時代は変わりました。

鮮やかな読後感は全く変わらず。

真の傑作だ。

未読の方には強く薦める。

2017年7月23日

アーネスト・ヘミングウェイ 『武器よさらば 上・下』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 02:15

『老人と海』に追加して、ヘミングウェイを打ち止めにするために、これを読む。

第一次世界大戦のイタリア戦線が舞台。

イタリア軍に志願して負傷兵移送任務に従事するアメリカ人とイギリス人看護婦の悲恋を描く。

雰囲気的にハッピーエンドではないなと思ってはいたが、こういうラストになるとは予想外だった。

厭戦的なメッセージはよくわかる。

また、ヘミングウェイの簡潔な文体が日本語でも感じ取れる翻訳だった。

だが、特に面白いわけでもなく、まあ普通です。

 

あと、強いてこの記事で言わなければならないことでもないんですが、以前から思っていたことを書きます。

本来なら30冊で読む世界文学の記事で述べておくべきことなのですが、忘れていました。

私を含め、初心者がこの手の古典文学を読む際、「偉大な文学作品では、何気ない描写にも、実は深遠な意味が込められているはずだ」と気負って、一字一句にこだわりながら読むというのは、絶対止めた方がいいです。

間違いなく挫折して、多くの本を途中で放り出すことになると思います。

文学に中心的な関心を置いて、なおかつ読書力のある方はもちろんそうしたらいいと思いますが、文学初心者はむしろ意識し過ぎず、主人公と主要登場人物と大まかな粗筋を確認できればいい、くらいに気軽に構えて、どんどん読み進んだ方がいいでしょう。

熟読・遅読の価値は間違いなくあるでしょうが、やはり数をこなすのも大事。

読んだ本の数が自信になるし、次の本への読書意欲もかき立ててくれる。

完全に飛ばして読むのはお勧めしませんが、心に引っかからない日常情景描写はざっと目に流す感じで軽く読めばいいと思います。

読了した作品が増えてくれば、「コレクター感情」が湧いてきて、雪ダルマ式に読書量を増やすことも可能になってきます(鹿島茂『成功する読書日記』)。

古典と言っても、あまり気負わず、気軽に読んで行きましょう。

2017年7月6日

カフカ 『審判』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 01:21

有能な銀行員ヨーゼフ・Kが、ある日全く理由もわからずに逮捕され、不可解で不明瞭な訴訟手順に巻き込まれるという話。

ナチスのような全体主義国家の到来を予言したかのような作品として有名。

だが、読んだ限りでは、本書の描写は全体主義国家と言うには、(最後を除いて)やや曖昧である。

少なくとも表面上は平凡な社会生活が続いており、主人公も投獄されるでもなく仕事を続ける。

だが突如強いられた訴訟手続きは、被告にはルールが全く不明であり、少しでも自身の有利を図ろうと、あれこれ非公式的な伝手に頼ろうとするが、弁護士を含めそれらの人間すべてが、主人公を告発した裁判所の手先にすら思えてくる。

この訴訟の主体である、悪の主体は匿名の闇に紛れて、全く正体を掴まれないまま、物語は終わる。

これはわかりやすい全体主義社会ではなく、現在の先進国のような「自由社会」での「世論の専制」を描いた作品なのではないか、と感じた。

 

 

そんなに長くはないし、初心者でも読めないことはない。

だが、さして面白いわけでもないし、何かをすっきりとした形で感得させてくれる本でもない。

まあ私の鈍い感性ではそれが限界です。

カフカも、もうこれでいいでしょう。

一番有名な『変身』が短編なんで、長編作品からこれを選んだが、残りの『城』『アメリカ』などを読む余裕は無い。

私独自の仮想「世界文学全集」で、カフカの巻の収録作品はこれでおしまいです。

2017年6月18日

ダンテ・アリギエリ 『神曲  地獄篇』 (講談社学術文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 01:22

誰もが知っている世界文学の名作だが、詩ということもあり、手に取るつもりも全く無く、最近まで放置していた。

だがたまたまこの版が目に入ったので、「地獄篇」「煉獄篇」「天国篇」のうち、最初だけ読むことにしました。

内容は周知の通り。

ダンテが古代ローマ最高の詩人ウェルギリウスに導かれて、死後の世界を訪れるという設定の詩。

翻訳が新しく、詳細な註が同ページに置かれていることもあって、この版でならすらすら普通に読める。

地獄の第一層では、現世で罪を犯さずに死んだが、洗礼を受けていないために天国に行けなかった乳幼児と、ソクラテスやプラトンなど、キリスト教誕生以前に世を去った哲人が存在しているが、さらに下の階層に行くに従って、歴史上の著名人物や、ダンテと同時代の教皇・聖職者・統治者・市民などがその犯した罪に応じて苦しみを受ける姿が、様々に描写されている。

その叙述は、まあ全く面白くないこともない。

私は、モンタネッリ『ルネサンスの歴史』上巻を読んで、ダンテの政治的立場は当時のイタリアでの皇帝党(ギベリン)だと考えていたが、本書の解説によると、そう単純なものでもないようだ。

そもそもフィレンツェが教皇党(ゲルフ)優位の状況となり、1300年頃その教皇党内部で、大銀行家など都市貴族を中心とする黒派と職人・小市民・農民層を中心とする白派が分裂し、ダンテは白派の中の穏健派に属するとのこと。

市政に関わったダンテは、黒白両派の調停を試みたが、教皇庁の支持を得た黒派のクーデタでダンテは追放・亡命、しばらく白派亡命勢力と行動を共にするが、やがてそれとも袂を分かったという。

よって、この『地獄篇』では、当時の教皇ボニファティウス8世が地獄に落とされているし、ダンテは教皇の世俗権を一切認めず、ルクセンブルク朝皇帝のハインリヒ7世に捧げた『帝政論』という著作も残している。

 

 

散文調の訳なので、普通には読める。

だが『煉獄篇』『天国篇』を続けて読む気には、やはりなれない。

私レベルではこの一冊で十分でしょう。

ちょうど三篇にきっちり分かれていることだし、その内の一つを選んでも恣意的とは言えんでしょう。

内容的には、私がどうこう言えることは無いが、やはりどんな宗教でも「死後の裁き」という観念は重要だとは感じた。

この世だけじゃ、どうしたって帳尻の合わないことってありますから。

現世でどれほど驕り高ぶり、好き放題している連中がいても、死だけは誰にも平等に訪れる。

今の「自由社会」の卑しい支配者も、何時かはそれを思い知ることになるでしょう。

 

著名古典では初心者が読めない部類に入る本だと思い込んでいたが、少なくともこの一部だけなら通読可能。

知的見栄のためだけでも読んでおいて良い。

ただ、末尾で訳者も触れているが、岩波文庫の文語調の訳だと挫折する可能性が極めて高いので、本書か河出文庫収録の版を用いるのが無難だと思います。

2017年6月12日

モリエール 『病は気から』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 02:09

健康ノイローゼに罹って、医術や薬に深く依存している男が、娘を医者の息子と結婚させようとするが、娘は忠実な召使の助けを借りて自らの想い人と結ばれる、という喜劇。

戯曲の中でもかなり短い方なので、楽に読める。

現代人が読んでも、普通に面白い。

いろいろなことを考えさせる重厚な内容ではないかもしれないが、著名作家の古典作品で面白さを感じさせてくれるのなら、それで十分でしょう。

読了リストの数を増やすことが出来て良かった、とします。

2017年6月3日

ディケンズ 『クリスマス・キャロル』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 07:02

1843年刊。

内容は知ってる人も多いんじゃないでしょうか。

守銭奴のスクルージが、亡霊と精霊によって過去・現在・未来の姿を見せられ、改心する話。

他愛の無いおとぎ話と言えばそれまでだが、しかし私には、人類史上初の産業革命が進行する中、このような作品が書かれて広く受け入れられたことは、拝金主義的風潮に対するイギリス社会の抵抗力を象徴しているように思える。

それに引き換え、今の日本は・・・・・と思えるが、まあやめておきましょう。

 

『二都物語』に加えてこれを読んだが、ディケンズはこれで十分、という感じはしない。

ちょっと短いか。

高校教科書にも出てくる著名文学者は、代表作に加えてもう一作読むと、「打ち止め感」が出てくるんですが。

このブログではスタンダール、フロベール、ドストエフスキー、トルストイあたりはもういいかな、とも思っています(バルザックに関しては、何かもうちょっと読みたいし、ドストエフスキーは主要著作すべてを読破したい気持ちもある)。

ディケンズについては、やはり『デイヴィッド・コパーフィールド』を読むべきか?

でも長いしなあ・・・・・。

『オリバー・ツイスト』か『大いなる遺産』で済ますか?

まあ、このまま何も読まないという可能性の方が高いですね。

2017年5月14日

セルバンテス 『ドン・キホーテ 後篇 全3巻』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 00:26

前篇の読後感が非常に良かったので、この後篇にも取り組んだ。

同様に大変素晴らしい。

ドン・キホーテと従士サンチョ・パンサの軽妙なやり取りが実に面白い。

妄想に駆られて始終滑稽な振る舞いをするドン・キホーテが、しばしば機知と良識に満ちた言動も見せる。

なお、この後篇の中では、出版された前篇が読まれているというメタフィクション的設定になっており、当時実際に出回った贋作まで登場している。

物語自体も実に楽しい。

前篇を読んでドン・キホーテを知った、いたずら好きの公爵夫妻が、ドン・キホーテ主従を招き、「ドゥルシネーア姫」(実際には粗野な田舎娘)にかけられた魔法を解くためサンチョに鞭打ちを加えないといけないと思い込ませる話や、公爵に言い含められた侍女の一人がドン・キホーテに恋焦がれた振りをするが、ドン・キホーテがどこまでもそれを真に受けて「ドゥルシネーア姫」への操を立てていい気になるのに腹を立てて、しまいに侍女が罵倒の限りを尽くすところなどは、思わず吹き出してしまう。

最後のやや哀感に満ちた場面を読み終えると、欲得ずくの世の中で、滑稽ではあってもある種のすでに失われた理想を貫こうとした主人公の生き方が尊いものに思えてくる。

翻訳が流暢なこともあって、驚くほど容易に通読できる。

知名度と文学的価値、面白さと読みやすさの四者をすべて兼ね備えた稀有な古典。

真の傑作だ。

前後篇合わせて全6巻と相当の長さだが、この作品に関しては苦にならない。

是非とも薦める。

2017年4月28日

ゴーゴリ 『死せる魂 上・中』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 05:18

タイトルに下巻が無いのは間違いじゃありません。

上・中巻が第一部で、下巻が第二部。

第二部は未完で、草稿状態に近いものらしいので、今回読んでいません。

死んだ農奴の戸籍を買い集め、金を騙し取ろうとする詐欺漢チチコフを主人公に、帝政ロシアの腐敗を暴いた作品、ということになるんでしょうが、文章に何とも言えないユーモアがある。

読みやすくて、十分面白い。

名作と言われる理由がわかる。

初心者でも十分通読できる古典として、推奨します。

2017年4月18日

マーク・トウェイン 『アダムとイヴの日記』 (福武文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 06:48

神に造られた最初の人類、アダムとイヴの象形文字で書かれた日記を、著者が解読して記した、という設定の短編。

他愛もないユーモア、パロディ小説と言えばそれまでだが、最後は哀感を誘う。

挿絵が毎ページ入っているので、あっという間に読める。

『王子と乞食』と同じく、大いに薦めます。

2017年4月10日

ロマン・ロラン 『ピエールとリュース』 (みすず書房)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 03:13

『ジャン・クリストフ』を読む気がどうしてもしない。

一度決心はしたんですが、やはり岩波文庫の分厚い分冊を見ると、手に取る気が失せました。

『戦争と平和』だって読んだんだろ、サボるんじゃないよ」という声が心の中から聞こえてきますが、いややっぱり19世紀の大長編小説と20世紀のそれとは違うんですよ。

文学全集でも『ジャン・クリストフ』や『魅せられたる魂』が、『戦争と平和』と同じ巻数を費やして収録されているのを見ると、「何かアンバランスだなあ」という気持ちを禁じ得ない。

しかしロランの作品が『愛と死との戯れ』だけなのも格好付かないと思ったので、短編のこれを選びました。

第一次世界大戦末期のパリを舞台に、偶然出会った若い男女の悲恋を描く。

ほんの小品だが、いかなる特権階級も存在しないはずの民主的共和国において、世論が絶対的な専制者となり、無力な個人が戦争の地獄に放り込まれていくメカニズムが読み取れる。

 

著名文学者の穴埋めのつもりで読んだが、悪くは無かったです。

私の感性では、それ以上の感想は持てません。

2017年4月2日

ブレヒト 『三文オペラ』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 00:58

ロンドンを舞台にした、職業的物乞い団の「社長」の娘と窃盗団の首領の恋を主題にした演劇。

ワイマール共和国時代の1928年に初演され、大成功を収めたそうだが、表面的に読めば、訳のわからないドタバタ劇にしか見えない。

ブルジョワ社会の俗悪さへの批判などということが読み取れなくはないが。

これをブレヒトの代表作として高校教科書に載せるのは不適切に思える。

『肝っ玉おっ母とその子どもたち』の方が、はるかに心に染み入るものがあった。

 

まあ、つまらないです。

高校生の頃から名前を知っている名作が、私にとっては面白くなく、理解もできないと、わかったことが収穫です。

2017年3月23日

ゴンチャロフ 『オブローモフ 上・中・下』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 16:16

原著は1859年刊。

高校世界史では影も形も無い、少々詳しい文学史ではないと出てこない著者と作品名である。

ただ、非常にユニークな作品であるということは、仄聞していた。

あらゆることに無気力で、両親より受け継いだ領地から上がる年貢を糧に、従僕のザハールと共に無為徒食の日々を送る主人公オブローモフを描いた、「元祖ひきこもり小説」。

主人公唯一の親友であり、活発で有能なシュトルツは、オブローモフを社会活動に連れ出そうと、知的で清純な美少女オリガを彼に紹介する。

すると、彼もオリガも互いに愛し合うようになる、という都合の良すぎる展開に。

だが、オブローモフの生活上の無能力さに、さすがのオリガも愛想を尽かし、二人は別れる。

その後、オブローモフは性質の悪い知り合いに騙され、あやうく食い物にされそうになるが、再登場したシュトルツに救われる。

シュトルツとオリガは、オブローモフを何とか無気力な生活から連れ出そうとするが、それも実を結ぶことなく、彼はこの世を去る。

ほとんどの人は、主人公のあまりの駄目人間振りにあきれ果てるでしょうが、私自身は、間違いなく自分にも同様の性質があることがわかっているので、何とも言えない同情と共感の念を抱いてしまう。

それにオブローモフにも否定的な面しか無いわけでもなく、後半でシュトルツの身の上に起こったある事実を知って心から彼を祝福したり、自分を害そうとした人物に対し、自分以外の人への侮辱について激怒したり、と時には感動的なまでの振る舞いをすることもある。

シュトルツが作中で言うように、オブローモフはこれ以上ない駄目男ではあるが、善良で潔白な魂も持っている。

 

 

これは凄い・・・・・。

とんでもない怪作だ。

感想に窮するが、非常に印象的な作品であることに間違いはない。

普段あまり文学など読まないという方にも十分薦められる。

機会があれば、是非お読み下さい。

2016年12月3日

フランソワ・ラブレー 『ラブレー第一之書 ガルガンチュワ物語』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 06:23

巨人王ガルガンチュワとパンタグリュエルの親子を描いた物語の一巻。

全編、言葉遊びと糞尿譚と性的下ネタで埋め尽くされている。

「何だ、こりゃ」と言うのが正直な感想。

今となっては、この面白さは分からない。

教会を中心とする社会的権威への風刺も、それらの権威が粉々になってしまった現代においては、何の新鮮味も無い。

この一巻だけなら楽に読めるが、とてもじゃないが全巻通読する気にはなれない。

本格的な文学好きの人か、余程の好事家でない限り、その必要も無い。

ただ「ラブレーを読んだことがある」という箔が付く。

それだけ。

2016年11月25日

ドストエフスキー 『罪と罰 全3巻』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 01:22

およそ20年振りの再読だが、初読の際と同様の感動がよみがえってきた。

今回気付いたのは、圧倒的な読みやすさ。

分量が全く気にならず、次から次へとページを手繰らせる力をこの作品は持っている。

表現法とストーリーの構成力、登場人物の個性描写など、小説技法の面がとにかく素晴らしい。

内容面の充実とあわせて、とにかく完璧な作品だと言うしかない。

以前読んだ時は今よりも大長編への耐性が乏しかったはずで、それでもほぼ一気に読んだ記憶があるが、その印象は間違ってなかった。

「30冊で読む世界文学」でこれを選んだのはやはり正解だった。

登場人物も極めて印象的。

自己犠牲を貫く気高いソーニャ、ラスコーリニコフの妹で美しく聡明なドゥーニャ、ドゥーニャの婚約者で低劣な俗物ルージン、主人公唯一の友人で高潔な好漢ラズミーヒン、主人公を追い詰める怜悧で鋭敏な予審判事ポルフィーリー、皮相で愚かな進歩派で戯画的に描かれてはいるがルージンの卑劣な行為に対して高潔な行動を採るレベジャートニコフなど。

ただ、得体の知れない奇怪な悪の化身という感じの人物、スヴィドリガイロフについては、初読の際ほど強い印象は受けなかった。

 

とにかくすごい。

世界文学に少しでも関心があって、これを読まないのはあり得ない。

再読の評価は「5」。

それ以外にあり得ない。

しかも通読難易度は、この長さにも関わらず、「易」を付けることができる。

どんな初心者にも勧めることができる稀有な古典。

2016年10月25日

チョーサー 『カンタベリー物語』 (角川文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 02:06

岩波文庫で全3巻の全訳が出ている。

中身を見ると、読めないことはないかと感じるが、ボッカチオ『デカメロン』を抄訳で済ませているのに、これの全訳を読むのは、ちょっとバランスに欠けるかとも考えた。

それでいろいろ検索すると、昔角川文庫でこの抄訳が出ていたことを知る。

序章を含め9章を訳出し、200ページ弱の文庫本にまとめてある。

だから省略部分はかなり多いと思われるが、初心者が雰囲気を感じ取るだけなら、これくらいでいいでしょう。

末尾の解説含め、本書でどこにも抄訳であることを明言していないのは、少し気にかかるが。

内容は取り立てて言うことは無い。

14世紀イギリス、カンタベリに巡礼に向かう29人の、様々な職業・社会階層の人々が、道中の徒然にそれぞれ物語を披露する、という『デカメロン』とよく似た形式。

話の中身も、やや卑猥なところを含む滑稽譚で、似ている。

初心者でも十分読める難易度。

古典的書名を読了リストに追加できただけでも良かった。

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