初めに言っときますが、通読はしていません。
極めて粗く飛ばし読みしただけ。
日米戦争の主要海戦を、多くの図版と共に叙述した本だが、とてもじゃないが、作戦上のチマチマ細かな記述を全て読んでいられない。
事実関係の記述よりも、著者による考察と評価に重点を置いて、目を通した。
以下、要点をメモ。
真珠湾攻撃について。
もし第二撃を加えて、燃料および修理施設を破壊しておれば、ミッドウェーを含む以後の戦闘の結果が大きく変わっていた可能性があり、是非実行すべきではあったが、その責任は南雲忠一中将ら機動部隊指揮官よりも、明確な命令を断固として下しておかなかった後方の山本五十六大将ら連合艦隊司令部が負うべきであること。
珊瑚海海戦について。
日本側の損失が軽空母1隻で、他方米側が正規空母「レキシントン」を失ったことから、この海戦の勝者を日本とする見解があるが、ポートモレスビー攻略という戦略目標を達成できず、以後の作戦で日本軍が大きな被害を蒙ったことを考えれば、そうした見方は謬論である。
敗因としては、索敵の不備・失敗とそれを分析する艦隊司令部の情報処理能力不足、機動部隊の指揮不統一と上級指揮官の敢闘精神の欠如、「見敵必殺」の言葉の虜になり、不充分な偵察情報に基づき攻撃隊を発進させたような形式的部隊運用を挙げている。
そのうち、空母に相当の艦載機を残しながら、撤退を命令した南洋部隊指揮官井上成美中将について、基地航空隊を基幹とした「新海軍軍備論」の提唱者であることから、持論に自縛され、空母の脆弱性への過度の懸念から、不適切な命令を下したのではないかとされている。
ミッドウェー海戦について。
米側の大勝利の原因として幸運の要素が大きいことは間違いない。
燃料の限界に近付いていた米爆撃機隊が、引き返す直前に、まさに艦載機に補給中の日本空母を発見できたこと、米雷撃隊が先行して日本の零戦隊を低空に引き付けて上空がガラ空きだったこと、などは偶然の産物ではある。
しかし、空母の緊急集結、急速出撃という大局的作戦指導、ミッドウェー基地の存在という地理的利点を最大限活用したこと、日本艦隊発見後、極力距離を詰めた上で攻撃隊を発進させたことなどが、その幸運を引き寄せたことを見逃すべきではない。
日本側の敗因として、米側による暗号解読と作戦計画の察知、索敵の失敗、敵空母発見の報を受けて即座の攻撃隊発進を主張する山口多聞少将の意見具申を、米艦隊の位置を実際よりも遠くに誤認していた南雲忠一中将が退けたこと、などが挙げられるが、著者はいずれも決定的なものとは見ず。
以上のうち、「索敵の失敗」と言っても、偵察機搭乗員のミスは、通常想定すべきもので、その上で二段索敵など、より慎重かつ重厚な偵察を行うべきであった。
それを可能にする為に、偵察用水上機を搭載した巡洋艦の、機動部隊への随伴を増すべきであったのであり、この空母を護衛する直衛艦の不足こそが、ミッドウェー海戦の決定的敗因である、と著者は主張している。
またそれは、米戦艦群が真珠湾で壊滅し、主力艦同士の水上戦がほぼありえない状況下では、後方の主力艦隊から巡洋艦を引き抜き、機動部隊に編入することによって、当時の日本海軍にも充分可能な方策だった。
ガダルカナルをめぐる第二次ソロモン海戦および南太平洋海戦について。
第二次ソロモン海戦で、日本海軍が総力を挙げて支援した、陸軍の輸送船団が潰えた以上、この海戦後はガダルカナルを諦め、ラバウルのみを固守し、攻勢に出た米軍に出血戦を強いることが賢明だったが、残念ながら山本連合艦隊司令長官にもそこまでの明断は無かった。
南太平洋海戦では、日本側機動部隊の行動が全般的に周到で、パイロットが優秀さと勇敢さを発揮し、米側の基地航空機の活動が粗雑であったことにも助けられ、戦術的勝利は収めたが、日本軍は多数の熟練パイロットを失い、米軍が自らの航空威力圏内に撤退した為、戦果を拡大できず。
マリアナ沖海戦について。
ミッドウェーの戦訓による固定観念に囚われ、空母戦の優位は先制攻撃にのみあるとして採用された、長距離攻撃であるアウトレンジ戦法が、慎重な守勢戦術を採ったスプルーアンス大将率いる米艦隊の前に完膚なきまでに破綻したこと、米側の陽動作戦に引っかかり、基地航空隊を無意味に移動・消耗させ、機動部隊と基地航空隊の連携による集中攻撃という、わずかながらあった日本軍唯一の勝機を逃したことを指摘。
レイテ沖海戦について。
彼我の戦力差を考えれば完敗は当然だが、それでも劣弱な残存空母艦隊をおとりにして米空母を引き付け、戦艦部隊が米輸送艦隊に突入するという作戦は途中までは成功しかけている。
それが結局失敗したのは、各艦隊の連絡とタイミングの調整、敵軍艦ではなく輸送船団を目標とするという最重要作戦目的の徹底が欠けていたからだ、豊田副武司令長官が陣頭指揮に立たなかったことがそれを招いた、とされている。
そこそこ興味深い文章が散見されるので、ざっと目を通しておくのも良い。
戦史ものでは、清水政彦『零式艦上戦闘機』(新潮選書)と並んで薦める。