万年初心者のための世界史ブックガイド

2018年4月26日

今井宏平 『トルコ現代史  オスマン帝国崩壊からエルドアンの時代まで』 (中公新書)

Filed under: イスラム・中東 — 万年初心者 @ 05:16

分野的に類書が極めて少ない、ケマル・アタテュルク以後のトルコ現代史の本。

第一次大戦敗北後、1920年のセーヴル条約に反対し、抵抗運動を組織したムスタファ・ケマルが勝利、1922年スルタン制を廃止、23年トルコ共和国建国、ローザンヌ条約締結、24年カリフ制も廃止。

以後、ケマルの独裁的指導と与党共和人民党(昔はトルコ国民党と訳されてましたね)の一党支配体制が続く。

政教分離(世俗主義)、民族主義、国家資本主義を指針として、イスラム圏では稀有な急進的西洋化・近代化政策を推進。

1938年ケマルが死去(まだ57歳だったことにやや驚く)、イノニュが後継大統領に就任。

第二次大戦では慎重な中立政策を採り、最末期まで連合国に加わらず。

戦後、複数政党制を認め、民主党が結成。

1950年選挙で民主党が圧勝、政権交代し、メンデレスが首相に就任。

同時にイノニュも大統領職から退くが、ここから行政権の主体が大統領から首相に移行した模様。

このメンデレス政権がちょうど10年続く。

米ソ冷戦が始まり、トルコはトルーマン宣言の支援対象国とされ、西側陣営に加わり、1952年NATO加盟。

メンデレス民主党政権は、経済的門戸開放政策と地方の利益増進などで成果も挙げたが、世俗主義の部分的見直しが波紋を呼び、また民主党自身が権威主義化し、共和人民党を圧迫。

これに反発する軍部が1960年クーデタを実行、建国以来の第一共和政は終焉。

ギュルセル主導の短期の軍政の後、第二共和政成立。

主要政治勢力は四つ。

イノニュおよびエジェヴィト率いる中道左派的な共和人民党。

デミレル率いる中道右派的な公正党(民主党の後身)。

エルバカン率いる親イスラム系の国民救済党。

右派的トルコ民族主義を掲げる民族主義者行動党。

これらの勢力で政権が運営されるが、60年代末から左翼的学生・労働運動の勃興で治安が悪化、71年には軍部の圧力で内閣が総辞職するという「書簡クーデタ」が起こり、74年にはトルコ系住民保護の為、キプロスに軍事介入、西側諸国との関係が悪化。

石油ショックによる経済危機も加わり、結局1980年再度軍事クーデタ発生、第二共和政は崩壊。

それ以後、現在までが第三共和政である。

その前半をリードしたのが、多様な勢力を糾合した祖国党とそのカリスマ的指導者オザルである。

オザルは1983~89年まで首相、89~93年大統領を務め、新自由主義的政策を採用、経済成長を遂げるが、その代償として格差と腐敗も広がる。

共和人民党、(そこから生まれた)民主左派党、(公正党の後身)正道党は、祖国党への明確な対立軸を打ち出すことが出来ず、国民の不満が高まる中、主要政党は没落、第三共和政後半では、その間隙を縫って、親イスラム政党である福祉党および後身の美徳党が台頭する展開となる。

革命以来の世俗主義の守り手を自任する軍部は、96年連立政権の首相となったエルバカンに圧力をかけ翌年辞任に追い込むが、EU加盟交渉での外圧や軍による謀略の暴露などで、その影響力は低下していく。

2000~01年の金融危機を経て、01年美徳党の若手・革新グループであるギュルとエルドアンを中心に結成された公正発展党が02年総選挙で大勝、単独政権を樹立、ギュルが首相就任。

2003~14年にはエルドアンが首相として長期政権を実現、2007年には大統領にもギュルが就任、その後継として14年大統領に転じたエルドアンは、行政権の主体を首相から強大な権限を持つ大統領に移すことを主張。

国内の対立が深まる中、2016年軍部のクーデタが発生するが失敗、かえってエルドアン体制が盤石になる形勢となっている。

 

 

この国は、1789年以来君主制を放棄した国々の中では、ブラジルと並んでひとまず破滅的な結果をもたらさなかった国として、個人的には評価していたのだが、本書の叙述によって内実を見ていくと、必ずしもそうとは言えない模様。

ケマリズムと西洋化政策の恩恵を受けたエリート層とそこから取り残された大衆層との深い断絶が革命以来続き、その矛盾が親イスラム勢力の台頭という形でじわじわ表面化してきた感がある。

しかし、国内の緊張と対立が深まる中、ポピュリスト的指導者が台頭し、これまで象徴的役割だった国家元首に実質的権限が集中していく、という展開は不吉だなあと思わざるを得ない。

スルタン制はともかく、カリフ制だけは温存し、伝統的な制度と信仰を保存し、より漸進的な形での近代化政策を進める展開になっていれば・・・・・というのは都合が良すぎるか。

そんな状況では全くなかったんでしょうねえ。

世の中のことは大抵どうしようもないんでしょう。

人間というのは本当にやっかいな生き物です。

 

 

 

手軽に読める類書がほぼ無いはずなので、極めて貴重な本。

こういう知識の隙間を埋めてくれる本は非常に有り難いです。

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