万年初心者のための世界史ブックガイド

2018年4月15日

10冊で読む国際政治学

Filed under: おしらせ・雑記, 国際関係・外交 — 万年初心者 @ 03:38

 

伝統的な外交史から国際政治学、そして経済や文化をも含む現在の国際関係論にまで発達した学問分野であるが、自分の関心領域から言って、やや古い印象があるが、国際政治学の名称が最もしっくりくるので、この記事でもそれを表題にします。

国際関係・外交(と近現代概説)カテゴリを中心にして、そこから必読と思われる10冊を抽出。

花井等『名著に学ぶ国際関係論』中嶋嶺雄『国際関係論』の記事で引用したブックガイドをそのまま示すのも芸が無さ過ぎるので、一応自分自身が読んだ本の中から、読破が容易な全10冊という数で選ぶことにします。

 

 

この分野では、自分にとって二人の導き手がいます。

戦後日本を代表する国際政治学者である高坂正堯(1934~96年)と、アメリカの著名な外交官であるジョージ・ケナン(1904~2005年)です。

以下のリストでも、この二人の作品を多く取り上げることになると思います。

 

 

レベルとしては、国際政治に関心があって、高校で世界史や政経が得意だった人が、大学1・2年生で読むくらいの本を想定しています(それ以上のことは私にはわかりません)。

そして、複雑で抽象的な理論的著作は読んでも分からないので、主に歴史的アプローチの作品だけを取り上げます。

 

 

 

では、具体的に書名を挙げていきましょう。

ここで、国際政治のパワー・ポリティクスを叙述した最古の文献としてトゥキュディデス『戦史』を冒頭に掲げるというのは、なかなか渋いとは思うが、まあ止めておくか。

でも、表面上の唐突さにも関わらず、そうしてもおかしくはない著作だとしておきます。

国際政治学の標準的なブックリストで最初によく挙げられるのはE・H・カー『危機の二十年 理想と現実』(岩波文庫)か。

この学問分野を確立した書と言われているので、それも当然である。

でも、残念ながら、さして面白くない。

分野に限らず、こういう「ネームバリュー抜群で読まないわけにはいかないんだが、実際通読すると面白味が無い」という本が一番困るんだよなあ。

一読は薦めるが、リストに入れるのは止めておきます。

 

 

で、実際に第一冊目に選ぶのはこれだ。

(1)ポール・ケネディ『大国の興亡 上・下』(草思社)

16世紀以降の主要国の政治・経済と覇権闘争を叙述した重厚な歴史書。

(このブログでのカテゴリは近現代概説にしている。)

1980年代末、冷戦時代および昭和時代の末期に刊行されベストセラーになった。

解説で高坂正堯氏が言うように、本書が示す一般原則よりも、細々とした史実の描写とよく考えて作られた図表が、読者にとっては有益である。

結局、国際政治学において、近現代の世界史が全ての思考における基本的材料となるが、一冊でその概観を学べる適切な本。

そして、分野を外交に絞り、その近現代全般の推移を叙述した本として、以下を採用。

(2)ヘンリー・キッシンジャー『外交 上・下』(日本経済新聞社)

著者は、米国のニクソンおよびフォード政権で大統領補佐官、国務長官を務め、学者出身の外交実務担当者としては恐らく最高の成功を収めた人物。

その回顧録である『キッシンジャー秘録 全5巻』(小学館)『キッシンジャー激動の時代』(小学館)は、初心者には極めて通読困難だが、現在の大国の政策決定の実態や、リアル・ポリティクスの外交手法について、飛ばし読みするだけで多くを学ぶことができる。

頭の切れることは間違いないし、ずば抜けた交渉能力を持った外交家でもあろうが、率直に言って、ケナンに比して人間的には好感の持てる人物では無い。

それもあって、リストに挙げるのはこの1冊のみにします。

 

 

そして、いよいよ三冊目にケナンの本を挙げる。

(3)ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)

30冊で読む世界史と重複するが、これを選ばないのはあり得ない。

20世紀のアメリカ外交を概観し、それに明確かつ冷静な評価を下す本で、本書の読み易さと有益さは只事ではない。

封じ込め政策を提唱した「X論文」を含む後半部はやや難易度が上がるが、読みこなせない程ではない。

外交に関する本では真っ先に挙げるべき名著中の名著。

続けてこれも選ぶ。

(4)『ジョージ・F・ケナン回顧録 上・下』(読売新聞社[現在は中公文庫])

一外交官の回顧録に止まらない、様々な貴重な見解に満ちた、極めて格調の高い作品になっている。

共産主義国家という人類の歴史上異例な存在と対峙することを迫られた、タカ派でもハト派でもない、真に現実主義的ながら理想を手放すこともしなかった、知的で真摯で誠実な人物の軌跡を読み取ることができる。

決して省くことのできない最高の名著。

極めて入手し難いのが残念であったが、最近中公文庫に収録されたのは、本当に喜ばしい限りである。

読売傘下に入ってからの中央公論には、いろいろ申し上げたいこともあるんですが、こうした本を再刊してくれることに対しては、感謝の言葉しかないです。

ジョージ・ケナン『レーニン・スターリンと西方世界』(未来社)も、素晴らしいソヴィエト・ロシア(外交)史となっているが、迷いに迷った末に外す。

ケナンの具体的歴史叙述で日本語で読めるものでは最良の作品となっている。

外すのは単に冊数の都合ですので、未読の方は絶対に読んだ方がいい。

その他、『アメリカ外交の基本問題』(岩波書店)『危険な雲』 (朝日イブニングニュース社)も、思索的著作である『二十世紀を生きて』(同文書院インターナショナル[現在は中公クラシックス収録])も読むべきだし、死後出版された伝記であるジョン・ルカーチ『評伝ジョージ・ケナン』(法政大学出版局)も強く薦める。

 

 

それで、戦後国際政治史の著作に進みますか。

ルイス・J・ハレー『歴史としての冷戦』(サイマル出版会)猪木正道『冷戦と共存 (大世界史25)』(文芸春秋)猪木正道『現代の世界 (世界の歴史25)』(講談社)高坂正堯『現代の国際政治』(講談社学術文庫)油井大三郎『第二次世界大戦から米ソ対立へ (世界の歴史28)』(中央公論社)猪木武徳『冷戦と経済繁栄 (世界の歴史29)』(中央公論社)下斗米伸夫『新世紀の世界と日本 (世界の歴史30)』(中央公論社)などの著作をこれまで紹介しているが、近年出たものほど面白くなくなるのは気のせいだろうか。

その中で選ぶとすれば、まずやはりこれか。

(5)高坂正堯『現代の国際政治』(講談社学術文庫)

深い叡智に満ちた歴史叙述の傑作。

やはりこれが基準となるべき著作でしょう。

国際政治学のリストなんだから、戦後史概説の本が1冊では不充分に思えるので、せめてもう1冊追加が欲しい。

これにするかな。

(6)猪木正道『冷戦と共存 (大世界史25)』(文芸春秋)

叙述に迫力と一貫性がある。

1960年代末の刊行というハンデもあるが、それを補える長所があると判断しました。

猪木正道『現代の世界 (世界の歴史25)』(講談社)は70年代末まで叙述対象が広がり、内容も詳細となって参考になる部分が多いので、一読を薦めるが、リストからは外すか。

一方、中公新版「世界の歴史」の三冊は、比較的最近出たものにも関わらず、積極的に薦める気が起きず、自分の中ではあくまでサブテキスト扱いです。

むしろ、古いながらも特色のある、ルイス・J・ハレー『歴史としての冷戦』(サイマル出版会)の一読を推奨したい。

米国の冷戦研究の権威であるギャディス(ガディス)の著作『ロング・ピース』(芦書房)『冷戦』(彩流社)は必読とまでは思えず。

 

 

そしてこの重厚かつ精緻な史書を挙げる。

(7)高坂正堯『古典外交の成熟と崩壊』(中央公論社)

ウィーン体制下の平和が、民主化と産業化が深化する以前の貴族的価値観を前提として成り立っていたことを論ずる本。

叙述の華麗さ、文体の端正さに強く印象付けられる名著。

初心者が読めない本ではないが、これは一応研究書に属する本でしょう。

にも関わらず、これは挙げます。

このテーマに関するリストでは挙げずにおれない。

 

 

他に近現代史や戦略論についての個別的な本は、いちいち紹介しきれない。

国際関係・外交カテゴリを中心に、目に付いた書名だけを少数、脈絡もなく挙げるだけにします。

岡崎久彦『戦略的思考とは何か』(中公新書)は、最初全10冊の中に入れるつもりだったんです。

1980年代前半の冷戦末期に、日本の歴史的戦略環境から対ソ防衛戦略までを平易に説いた本として、昔一読した際、様々なことを教えてくれた本として記憶に残ってはいる。

しかし、21世紀に入ってから感じた岡崎氏への違和感を思うと、無条件で推奨できる本ではなくなったなというのが正直な印象である。

興味深い本ではあるので、サブテキストとしては薦めておきます。

野田宣雄『ヒトラーの時代 上・下』(講談社学術文庫[現在は文春学藝ライブラリー収録])は、ごく簡略な一般読者向けの史書ながら、第二次世界大戦に至る大国の行動について、非常に分かりやすい解説を述べている本。

各国政策決定者の認識を説明し、そこから下した決断とそれに基づく行動が、他国の政策決定者の認識と言動を生み出していく連鎖作用を、非常に巧みに叙述している。

ごく初歩的な内容で、刊行年代が古いにも関わらず、各国が織り成した複雑な外交経緯を明快に理解させてくれるので、極めて有益な書物となっている。

(類書として、三宅正樹『スターリン、ヒトラーと日ソ独伊連合構想』(朝日選書)を挙げておきます。)

一方、テイラー『第二次世界大戦の起源』(中央公論社)は、やや晦渋に過ぎ、ネームバリューはあっても、初心者がその良さを汲み取るのは難しいと思われます。

曽村保信『地政学入門』(中公新書)をやたら褒める人がいるが、私にはそれほど面白いとはどうしても思えなかったし、強いて薦める気が起きない。

外交に関する古典的名著であるニコルソン『外交』(東京大学出版会)も、必読とまでは思えず。

だが、難解な本ではなく、通読はさして困難ではないので、一読しておいても良い。

マハン『海上権力史論』(原書房)も初心者には良さが分からないでしょう(もちろん私も分からない)。

著名な戦史家・戦略理論家であるリデル・ハートも、『第一次世界大戦』(原書房)はまだ読めるが、『第二次世界大戦 上・下』(中央公論新社)となると通読困難だ。

まして、クラウゼヴィッツ『戦争論』(岩波文庫)なんて、到底素人が読む本じゃないので、無視しましょう。

アダム・ウラム『膨張と共存 全3巻』(サイマル出版会)は、著名なソ連外交研究家の著書だが、入手も困難だし、ケナンの本もあるのに、強いて読まなければならない本には思えず。

ハンチントン『文明の衝突』(集英社)も、好事家的興味が無ければ、読む必要も無いように思える。

メイヨール『世界政治』(勁草書房)は、期待したほどの面白さは感じなかった。

アーネスト・メイ『歴史の教訓』(岩波現代文庫)も、ケナンの著作のような説得性は持たないと思う。

 

 

リストに戻って、国際関係論の教科書的著作として、以下を挙げる。

(8)ジョセフ・ナイ『国際紛争』(有斐閣)

これは本当に面白かった。

事前の期待を(いい意味で)大幅に裏切る本だった。

現在でも流通する一般的テキストでありながら、内容は最高レベル。

なお、増補されるごとに、細かく版数を重ねているようだが、本書の価値はその前半部にあると思われるので、入手する際には最新版にこだわる必要は無い。

 

 

そして、以下の書もやはり決して外すことは出来ない。

(9)高坂正堯『国際政治』(中公新書)

これほど感動した書物は私の人生でも滅多に無い。

刊行年代の古さを感じさせない、圧倒的な素晴らしさ。

極めて本質的で鋭い内容の叙述が全篇で繰り広げられている。

国際政治学に留まらず、広く政治や国際社会について考える際の、基礎的教養を与えてくれる。

比較的最近に出た、中西寛『国際政治とは何か』(中公新書)などの書は、それなりの良さはあっても、やはり本書に替わり得るものではない。

 

 

そして、最後はこれで締める。

(10)高坂正堯『外交感覚』(中央公論社)

この本を知っていたら、「うん?」となる方も多いと思います。

書名だけ見ると分からないでしょうが、これは1970年代末から80年代半ばに書かれた、短い時事的外交評論集です。

リストの他の本と比べると、明らかに異質ではある。

(現在では、本書の続編である『時代の終わりのとき』および『長い始まりの時代』(関連文献:高坂正堯の記事で書名だけ紹介済み)と合本となって、千倉書房から復刊されているが、最もページ数があって優れているのは第一巻の『外交感覚』なので、これだけでもよい。)

だが、時事的事件を論じた短い文章の中に、政治や外交についての極めて深い考察と叡智が含まれており、読んでいくうちに、知らず知らずその影響が身に付くようになっている。

学生時代に最も頻繁にページを手繰った本でもあるし、いろいろ考えた結果、これはやはり外せないと判断しました。

自分にとって、高坂氏は、歴史と政治を学ぶ上で、他の様々な著者と書物を知る切っ掛けとなる極めて重要な方でした。

史論・評論カテゴリ、近代日本カテゴリにも、『文明が衰亡するとき』(新潮社)『世界地図の中で考える』(新潮社)『世界史の中から考える』(新潮社)『現代史の中で考える』(新潮社)『大国日本の世渡り学』(PHP文庫)『宰相吉田茂』(中央公論社)『一億の日本人 (大世界史26)』(文芸春秋)などの著作を紹介していますが、どれもこれも良書なので、とにかくできる限り多数の著書をお読みになることをお勧めします。

 

 

なお、戦後の国際政治史について、戦後世界史の時代区分 その1 と 同 その2 で、

1943~47年【冷戦前段階期】

1947~53年【冷戦高揚期】

1953~57年【緊張緩和期】

1957~63年【再対決期】

1963~71年【多極化期】

1971~79年【デタント期】

1979~85年【最終対決期】

1985~89年【冷戦終結期】

1989~2001年【ポスト冷戦期】

2001年~【混乱期】

というような時代区分を示しましたが、別にこの通りでなくてもいいので、大まかな国際政治上の傾向はつかめるようにして下さい。

結局、そのためには出来る限り多くの年号を正確に記憶するしかない。

例えば、「1965年」という年号を見れば、ああ、この年の最大の事件はアメリカの北爆開始とヴェトナム戦争本格介入だな、大統領は民主党のジョンソンだ、近隣のインドネシアでは九・三〇事件が起こって容共的なスカルノ政権が実質崩壊した年だ、シンガポール独立もこの年でしたっけ、さらに第二次印パ戦争も起こってるよなあ、中国では翌66年に始まる文化大革命の切っ掛けになった文芸批判に火がついてるはずだ、これで毛沢東が劉少奇・鄧小平ら実権派を引きずり下ろすんだよなあ、アジアではいろいろキナ臭い事件が多いなあ、でも日韓基本条約が結ばれたのもこの年だ、韓国は61年クーデタで成立した朴正熙政権で、日本の首相は前年池田勇人から交替した佐藤栄作だ、北アフリカではクーデタでアルジェリアのベン・ベラ政権が倒れている、これは九・三〇事件と同じく、中国による第三世界での急進的革命外交の失敗を示す出来事だな、ヨーロッパでは特に大事件は無いか、第五共和政のフランスでは対米自主外交を掲げるド・ゴール政権がもちろん続いてる、イギリスの首相は確か64年から労働党のウィルソンだったはず、西ドイツは63年にアデナウアーが引退してて、キージンガー大連立内閣成立が確か66年だったはずだから、首相はエアハルトか、イタリア首相はさすがに思い浮かばないが、ソ連がブレジネフ政権だってことはもちろん憶えてますよ、64年にフルシチョフが失脚してますからね、といった具合に、この程度の史実は、何も見ずに頭に即浮かぶようにならないといけない。

基本的史実と年号がしっかり組み合わさって、頭の中に記憶されている場合とそうでない場合では、同じ史書を読んでいても、理解力に極めて大きな差が出てくる。

こうした基礎的学習を疎かにしたまま、報道に表れる事件に条件反射的に対応して、匿名のネット上で素人の床屋政談をやっても、実りのある結果には何一つならないでしょう。

 

 

 

終わりです。

以下、全10冊のリストです。

 

 

(1)ポール・ケネディ『大国の興亡 上・下』(草思社)

(2)ヘンリー・キッシンジャー『外交 上・下』(日本経済新聞社)

(3)ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)

(4)『ジョージ・F・ケナン回顧録 上・下』(読売新聞社・中公文庫)

(5)高坂正堯『現代の国際政治』(講談社学術文庫)

(6)猪木正道『冷戦と共存 (大世界史25)』(文芸春秋)

(7)高坂正堯『古典外交の成熟と崩壊』(中央公論社)

(8)ジョセフ・ナイ『国際紛争』(有斐閣)

(9)高坂正堯『国際政治』(中公新書)

(10)高坂正堯『外交感覚』(中央公論社)

 

 

個人的な偏りはもちろんあるでしょうが、そうそう変な本も入れていないつもりです。

ですが、中には入手しにくいものもありますし、どうしても合わないという本も人によってはあると思います。

この「〇〇冊で読む△△」の記事は、全て必読書リストの叩き台だけを提供するつもりでやっているので、一応の目安と考えてもらって、後はご自身に合うよう、適当に取捨選択して下さい。

学生の方はともかく、社会人の方は仕事をしながら読書の時間を割くのも大変でしょうし、10冊に絞ったのは我ながら悪くないとは思います。

仮の読書予定リストにでもして頂ければ幸いです。

広告

WordPress.com Blog.