万年初心者のための世界史ブックガイド

2017年10月16日

10冊で読む政治思想

Filed under: おしらせ・雑記, 思想・哲学 — 万年初心者 @ 01:10

はじめにの記事で書いたように、私は抽象的思考力が無いに等しいので、このブログでも難解な哲学書、思想書は全く紹介していません。

ただ漠然とした政治思想についてなら、多少は書くこともあり、この記事を上げることにしました。

思想・哲学カテゴリから、私にとって必読と思えるものを抽出(日本人著者を除く)。

世界史全般近代日本史はもちろん、世界文学の各暫定必読書リストに比べても、網羅性にはそれほど配慮しなくてもいいと考え、思い切って10冊に絞ります。

そのデメリットは間違いなくあるでしょうが、この手のリストは冊数があまり多いと最初から嫌気が差して読書意欲を削ぐことがあるし、「とりあえずこれだけ読めばいい」とされると気が楽になって、指定された書を手に取りやすいものと思います(少なくとも私はそうです)。

 

 

高校世界史レベルで触れられる政治思想と言えば、古代ギリシアの政治哲学と近世の社会契約説がメインで、後は断片的に幾人かの学者名を挙げるだけかと思います。

このリストでは三つの柱を想定することにします。

「プラトンを中心とする古代ギリシア政治哲学」。

「バークを始めとする近代保守主義」。

「オルテガに代表される20世紀大衆社会論」。

 

 

 

では、まず古代の政治思想から。

これに関しては、結局プラトンの対話篇を出来るだけ多く読む、ということに尽きる。

『ソークラテースの弁明 クリトーン パイドーン』(新潮文庫)から、『プロタゴラス』(光文社古典新訳文庫)『メノン』(光文社古典新訳文庫)ときて、『饗宴』(光文社古典新訳文庫)といった具合に。

そしてここでリストの第一冊目を採用。

(1)プラトン『ゴルギアス』(岩波文庫)

議論の面白さに一驚した。

遥か古代の哲学書がこれほどの魅力をもって現代人の目に映ることは、真に驚きである。

必読書として確信を持って薦めることができる。

続いて、もうこれを挙げてしまおう。

(2)プラトン『国家 上』(ワイド版岩波文庫) 『同 下』

記事は上下巻に分かれているが、ここは1冊とカウント。

言うまでも無くプラトンの主著だが、これも読んだ際に、初心者が普通に面白く読めることに非常に驚いた記憶がある。

分量と内容はもちろん重厚だが、古代政治哲学の頂点と見なして、これをこなしたら他の本はそれほどフォローしなくてもいいと考えれば、楽なもんです。

プラトンの最後の大著『法律』が未読だが、これは今後の宿題として勘弁してもらいます。

古代はこの2冊だけでいいか。

アリストテレス『政治学』(中公クラシックス)は予想していたものと内容がズレているような感想を持ったので、岩波文庫の全訳も読もう読もうと思いながら未読だし、ここに挙げるのはやめておきます。

素人がやることだし、それでいいでしょう。

 

 

で、中世の政治思想は、高校教科書的には全く空白です。

しかし、個人的にはトマス・アクィナス『君主の統治について』(岩波文庫)は興味深かったことを記しておきます。

近世初頭に入ると、政治学を確立したと言われるマキアヴェッリ『君主論』(岩波文庫)がある。

これなあ・・・・・。

ネームバリューから言って読んだ方がいいんでしょう。

そうなんだけど、はっきり言って全然面白くない。

内容も頭に全然入ってこない。

読み手の私の問題である可能性が高いので、皆様は一読をお薦めしますが、このリストからは外させて下さい。

 

 

そして、現在の民主主義の「欽定学説」である社会契約説が来る。

これも同じなんですよ。

下手したら中学教科書でも書名が出るくらいだから、無視するのは難しい。

しかし、得たものはどれも少ない。

ロック『市民政府論』(光文社古典新訳文庫)ルソー『社会契約論』(光文社古典新訳文庫)は、初心者でも読める難易度と分量である。

ホッブズ『リヴァイアサン 1・2』(中公クラシックス)は抄訳でもちょっと苦しいが。

これらも読んだ方がいいでしょうが、リストに挙げるのは止めます。

むしろ、ヒューム『人性論』(中公クラシックス)収録の「原始契約について」のように社会契約説への批判の方が自分にとっては面白かった。

同様の知名度を誇る、モンテスキュー『法の精神』(中公クラシックス)は、社会契約説の著作に比べれば、読後有益なところもあったが、これもわずか全10冊のリストに加えるほどではない。

 

 

カント、ヘーゲル辺りについては何一つ語る資格が無い。

ただ、カント『永遠平和のために』(光文社古典新訳文庫)ヘーゲル『歴史哲学講義 上・下』(ワイド版岩波文庫)は初心者でもとりあえず読める本だと書いておきます。

 

 

「民主主義の総本山」アメリカ合衆国の建国の父たちの思想について、ハミルトン『ザ・フェデラリスト』(岩波文庫)はその「非民主的」側面について知ることができる本で、やや貴重ではあるが、これも全巻すべてが素晴らしいとは思えず、外す。

 

 

で、ここで、これが来た。

(3)バーク『フランス革命の省察』(みすず書房)

近代保守主義の起源となった記念碑的名著。

これも予想していたよりも遥かに容易に読めて、ありとあらゆる政治的叡智の泉であるという感想を持った。

読みつつ、深く嘆息して、感心するところが極めて多かった。

素晴らしいレトリックと論理に圧倒される。

絶対必読の名著。

そして次がこれ。

(4)トクヴィル『アメリカのデモクラシー 全4巻』(岩波文庫)

実はかなり迷いました。

一番最初この記事を考えた時は、絶対入れるつもりだったんです。

しかし、書名を埋めていくと1冊分空きが足りないなと思えて、これは分量も多いし、全訳を読んだはいいが、もう一つしっくりこない部分も多かったので、一旦は外すかと考えました。

しかし、思い直して復活させます。

ただ文庫本全四冊の分量がキツければ、本書に関しては中公クラシックスの抄訳版(「世界の名著」版の翻訳を収録したもの)でもいいです。

民主主義国の「多数の専制」がどれほど始末におえないものかを理解させてくれる。

 

 

マルクス主義については、一般常識として『共産党宣言』(岩波文庫)でも読めば十分だが、エンゲルス『イギリスにおける労働者階級の状態 上・下』(岩波文庫)は、共産主義が人類史上最悪の被害をもたらした後崩壊した現在でも読むに値する本ではある。

ローレンツ・シュタイン『平等原理と社会主義』(法政大学出版局)は、一部読んだところは興味深いものがあったが、通読は出来なかったので、他人に薦める資格が無い。

『ショーペンハウアー全集 13』(白水社)の中の政治論は非常に面白いのだが、後述のリストに挙げるトーマス・マンの本の中にもその引用が出て来るし、適切に編纂された新訳が出ることを期待して、今回はパス。

自由主義思想を代表するジョン・スチュアート・ミル『自由論』(日経BP社)は、内容的には(私にとっては)つまらないです。

むしろ、反自由主義的なカーライル『過去と現在』(日本教文社)の方が、今読むのなら、新鮮で有益でしょう。

カーライルの書も、リストアップを迷ったが、泣く泣く止めとくか。

 

 

一方、これは外せない。

(5)ル・ボン『群衆心理』(講談社学術文庫)

集団としての人間がどれほど悪逆かつ非理性的になるかという真実を直視した本。

近現代史の病理の原因をいやというほど教えてくれる。

類書のガブリエル・タルド『世論と群集』(未来社)も悪くないが、ル・ボンに比べればやや落ちる。

しかし、読めるものなら読んで下さい。

 

 

キルケゴール『現代の批判』(岩波文庫)も入れようと思ったんだが、10冊にギリギリ入らない。

現在の大衆社会の世論というものの問題点をするどく抉り出したものであり、必要な本ではあるんですが・・・・・。

もし全15冊だったら絶対入る本なので、次に読む候補として頭に入れておいて下さい。

ニーチェは学生時代に『ツァラトゥストラはこう言った 上・下』(岩波文庫)を訳も分からず読んだきりで、以後再読したり、別の作品を読んだりもしていないので、無視。

ブルクハルト『世界史的諸考察』(二玄社)は、著名な歴史家が、民主化と産業化を進行させ、破滅に向かう近代社会に警告した、深慮に満ちた史論であり、記事で引用した部分などは深く考えさせられるものがあったが、心に引っかかる部分が全篇のうちで少な目だったので、悩みつつ外す。

バジョット『イギリス憲政論』(『世界の名著 バジョット ラスキ マッキーヴァー』収録 現在は単独で中公クラシックス収録)は君主制の現代的意義を説いた興味深い著作だが、冊数上これも入れるのは無理。

是非読んで欲しい本だし、惜しいんですけどねえ・・・・・。

 

 

一方、これは迷いなく挙げる。

(6)チェスタトン『正統とは何か』(春秋社)

キリスト教的正統思想の擁護を実に巧みで華麗な論理で展開しており、初読の際にはほとほと感心した。

広く保守主義の根拠ともなる作品であり、読後感は本当に素晴らしかった。

それでいて、何一つ難しいところはない。

絶対必読の本。

そして、続いてこれだ。

(7)トーマス・マン『非政治的人間の考察 上・中・下』(筑摩書房)

これ、やや微妙なところがあって、マン自身は、後に本書の内容とは全く逆に民主主義の擁護者になっている。

しかし、現在から見れば、本書の立場の方が圧倒的に興味深く、面白い。

これも、読んでいてページを手繰るのが止まらなくなるほど、素晴らしかった。

でも、入手し難い。

筑摩書房さん、是非とも、ちくま学芸文庫に一刻も早く収録して、再刊をお願いします。

 

 

そして、次はこれかな。

(8)ヤスパース『現代の精神的状況』(理想社)

これは無条件で選んだわけではない。

翻訳も古めかしいし、特に前半は相当悪戦苦闘しながら、何とか読み終えたことが上記リンク先記事からも分かる。

でも、これは現在でも読むべき本だ。

引用文1同2同3を含めて読むと、これ現代のネット世論を予言していたのではないかと思えるほど的確な描写に驚かされる。

悪質なネット世論が他のメディアを侵食し、同様に劣化させて社会を醜悪と荒廃に導きつつある全世界的傾向を見ると、この書の価値を否応なく実感させられる。

どこかの良心的な出版社が新訳を出してくれることを期待してリストに加えます。

そして、この本は絶対に外せない。

(9)ホイジンガ『朝の影のなかに』(中公文庫)

引用文1同2同3同4での文章を含めて読み返すと、近代の宿痾をこれほど鋭く抉った思想書も少ないと思える。

その実状を理解すればするほどほぼ完全に絶望するしかないが、それでもわずかながらの、宗教的というしかない希望を持ち、次の世代に良き価値を引き渡すために自らの義務を果たし続けた人間の遺言のような書。

しかし、本書が新刊として手に入らない現状は、日本の文化的醜聞である。

中央公論さん、本当に何とかして下さい。

文庫のまま復刊するか、中公クラシックスに入れて、可能な限り長期間在庫してもらわないと、本来は困る本。

頼みますから、そうして下さい。

レーデラー『大衆の国家』(創元社)ジグマンド・ノイマン『大衆国家と独裁』(みすず書房)フロム『自由からの逃走』(東京創元社)は、それぞれ特色ある大衆社会論として読む価値があるが、必読とまでは言えないか。

T・S・エリオット『文化の定義のための覚書』(中公クラシックス)は、階級社会の擁護という反時代的姿勢が興味深く、有益な書であるが、これも泣く泣く外すか・・・・・。

オークショット『政治における合理主義』(勁草書房)は、読んだ部分は面白く、心に残る文章があったが、難易度が高く、自分でも通読出来ていないので、当然リストには加えられない。

で、最後の10冊目はこれ。

(10)オルテガ『大衆の反逆』(白水社)

思想・哲学カテゴリの一番最初に紹介していることからも分かるように、ものすごい衝撃を受けた本。

これを読まないというのはありえないでしょう。

本書で批判されているような意味での「大衆」は、本書を読んでも自省するどころか、本書のレトリックを用いて他者を攻撃するような救いの無さを持っているんでしょうが(私自身にもそういうところはあるでしょう)、それでも読まないわけにはいかない。

 

 

 

以上で全10冊をリストアップしました。

古典的な思想家と言えるのは、以上に挙げた人々くらいですか。

以下、追加。

まず挙げないといけないのは、コーンハウザー『大衆社会の政治』(東京創元社)です。

大衆社会論全般の見取り図を与えてくれる本として非常に重要。

これ、何とか10冊の中に入らないかなあと検討したんですが、他の思想家と並ぶとさすがに著者名が見劣りするし、本書の「貴族主義的大衆批判」と「民主主義的大衆批判」という整理の仕方が適切ではないとの意見もあるしで、結局外しました。

ただ、リストの準候補には間違いなく入っている著作です。

でも、これも入手しにくいんだよなあ・・・・・。

馬鹿みたいなネトウヨ本を粗製濫造するくらいなら、こういう本を復刊してくれないかなあ・・・・・。

クイントン『不完全性の政治学』(東信堂)ニスベット『保守主義』(昭和堂)は、比較的最近出た保守主義の名著として、コーンハウザーのように入れようかと思ったんですが・・・・・止めときます。

 

 

さらに、番外として、現在大きな問題になっている新自由主義とリバタリアニズムについて。

フリードリヒ・ハイエク『隷従への道』(東京創元社)は、今となっては読むべき本に思えない。

むしろ、カール・ポラニー『大転換』(東洋経済新報社)マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)同『公共哲学』(ちくま学芸文庫)同『それをお金で買いますか』(早川書房)などを読んで、市場主義的考えに対する抵抗感を養った方がよい。

 

 

 

 

終わりです。

以下が10冊のリストです。

 

(1)プラトン『ゴルギアス』(岩波文庫)

(2)プラトン『国家 上』(ワイド版岩波文庫) 『同 下』

(3)バーク『フランス革命の省察』(みすず書房)

(4)トクヴィル『アメリカのデモクラシー 全4巻』(岩波文庫)

(5)ル・ボン『群衆心理』(講談社学術文庫)

(6)チェスタトン『正統とは何か』(春秋社)

(7)トーマス・マン『非政治的人間の考察 上・中・下』(筑摩書房)

(8)ヤスパース『現代の精神的状況』(理想社)

(9)ホイジンガ『朝の影のなかに』(中公文庫)

(10)オルテガ『大衆の反逆』(白水社)

 

 

うーん、どうかなあ・・・・・・。

やっぱり全15冊くらいにした方が良かったかなあ。

まあ、これでいいか。

キリもいいし、読むのも楽だし。

自分が、世界の歴史、特に近現代史を読む上で、基本となる考え方を養ってくれた書物です。

当然、個人的偏りが大きくあるので、一部を取捨選択したり、あるいは全く別のリストを作って、それを読むことにしても全然結構です。

普段思想・哲学関係の本など一切読まなかった、という私と変わらないレベルの方に、選書の切っ掛けにでもして頂けたら幸いです。

 

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