万年初心者のための世界史ブックガイド

2017年8月22日

鷹木恵子 編著 『チュニジアを知るための60章』 (明石書店)

Filed under: イスラム・中東 — 万年初心者 @ 03:42

このシリーズで引き続きアフリカ史を強化するつもりで手に取ったが、考えたらこの国はカテゴリとしてはイスラム・中東か。

 

北アフリカで、東はリビア、西はアルジェリアに挟まれた国。

地図で見ると、本当に「挟まれた」感が強いです。

首都はチュニス、古代都市カルタゴの遺跡があることでも有名。

他の主要都市はカイラワーンなど。

もちろんスンナ派イスラム教徒が98%と圧倒的多数。

民族的にもアラブ人が98%。

ベルベル人は1%のみ。

私は勘違いしていたが、他のマグリブ諸国(アルジェリア、モロッコなど)でもベルベル人は2~4割ほどらしい。

 

イスラム化以後の歴史としては、まず800年アグラブ朝がアッバース朝から自立。

909年にアグラブ朝を滅ぼし、有名なシーア派政権ファーティマ朝が建国。

ファーティマ朝がエジプトを征服した後、スンナ派のズィール朝がカイラワーンに成立、ファーティマ朝と戦い、11世紀から分裂割拠の情勢となる。

1149年西からムワッヒド朝が侵入・占領。

1228年その総督が自立、ハフス朝成立。

1270年ルイ9世率いる十字軍が侵攻。

ハフス朝はイスラム世界最大の歴史家イブン・ハルドゥーンを生んだことでも有名。

1574年ハフス朝滅亡、チュニジアはオスマン帝国支配下に入る。

その軍長官が自立して1705年フサイン朝が成立。

これが形式的には独立後の1957年まで続くことになる。

1830年フランスがアルジェリアを占領すると、それに脅威を感じたフサイン朝はオスマン朝との関係を強化するようになる。

タンジマートに倣って、1861年には憲法(ドゥストゥール)も制定。

しかし、1881年フランスが外交・財政権を握り、83年正式に保護領化(教科書的には81年が保護国化の年とされているようだ)。

20世紀に入り、独立運動が活発化、1920年チュニジア立憲自由(ドゥストゥール)党結成。

党内対立を経て、ハビーブ・ブルギバがネオ・ドゥストゥール(新立憲)党を主導。

このブルギバという人名だけは要記憶。

結局、1956年独立達成、初代首相ブルギバ。

翌57年フサイン朝を廃し、共和制移行、ブルギバが初代大統領に就任、この政権が30年続く。

ブルギバ政権は世俗的近代化政策を進め、アラブ世界で唯一の、一夫多妻制禁止の家族法などを制定。

対外的には、一時フランスとの緊張もあったが、資源の乏しさもあり西側諸国との全面対立は避け、東西等距離・全方位外交を展開。

国家主導の統制経済が行き詰まると、逆に経済開放・自由化政策へと揺れ動き、国民の不満が高まる中、70年代末から80年代にかけてイスラム過激派が伸張。

1987年クーデタが勃発、ブルギバは失脚し、ベン・アリ政権樹立、イスラム主義者含む反体制派を強権体制で鎮圧。

だが、政治的抑圧の現実は紛れも無くあるものの、とりあえずは社会の安定と経済の成長をベン・アリ政権はもたらした、と本書では評されている。

 

私が読んだ本書の初版が出たのは2010年と、いわゆる「アラブの春」の直前である。

このベン・アリ政権の打倒こそが「アラブの春」の契機になった。

アラブ諸国の、その後の経緯を見ると、やはり手放しで礼賛するような動きでは無かったのではないか?という思いを禁じ得ない。

無秩序と宗派・党派対立が内戦の危機すらもたらし、それを収拾するために以前の政権よりも強権的な体制が生まれる、という世界史上全ての急進的改革がはまり込む隘路に陥っている。

チュニジアはまだ踏み止まっている方らしいが、リビアなんてあの異常なカダフィ体制の崩壊すら惜しむ人々が出るほどの状況のようだ。

そして何よりシリアの惨状。

ああいう結果になることが分かっていたとして、それでも反体制の蜂起を選択する国民が果たしていただろうか。

もちろんバッシャール・アサド政権の抑圧性は、内戦の前でも後でも歴然としている。

だが、確たる成功の見通しも無しに、それへの反抗を外部の人間が称揚し支援するのは、やはり無責任であると思う。

もちろんカダフィ政権含め、既存の体制がそのまま何の変化も無く続いていれば良かったんだと言うつもりはさすがにありません。

しかし、激情的な民意に基づく急激な変化をとにかく礼賛するような態度は、歴史について何も学んでいないに等しいです。

数年前、湾岸産油国についてのメモという記事で書いたような懸念が当たってしまっている。

 

ネット上のSNSが民意を可視化し、より善き民主主義をもたらす、というような能天気な楽観論(と情報技術産業の利益擁護という隠された意図)を見ると、心底うんざりして、もう人類も長くないなと思います。

民意なり、民主主義なり、自由なりを根本から疑わない限り、近現代の世界史から何一つ学んでいないことになりますよ、と無駄を承知で言わずにおれません。

 

 

このシリーズの使用法は全て同じ。

1.アフリカ、(メキシコ以外の)中米、(キューバ以外の)カリブ海諸国など、通史がまず出ないような国の巻を選ぶ。

2.歴史と現代政治の部分だけを集中して読む。

3.民俗、生活、経済、言語、文化、宗教などの章は興味のあるものだけ読み、後は軽く流すか、全く飛ばしても可。

通読する必要は無し。

それより数をこなすことが大事。

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