万年初心者のための世界史ブックガイド

2016年12月11日

15冊で読む近代日本史

Filed under: おしらせ・雑記, 近代日本 — 万年初心者 @ 02:51

のっけから大変失礼な質問をすることをお許し下さい。

まず以下の歴史用語をご覧下さい。

 

 

「日中戦争」と「満州事変」。

 

「二・二六事件」と「五・一五事件」。

 

「太平洋戦争」と「第二次世界大戦」。

 

「日独伊三国同盟」と「独ソ戦」。

 

「ヒトラー政権成立」と「世界恐慌」。

 

「日本降伏」と「ドイツ降伏」。

 

 

以上、戦前における12個の史実を挙げました。

さすがに、これらの史実を「知らない」「聞いたこともない」という方はおられないと思います。

 

では、これらの史実を起こった順番に、年代順に並べることが出来ますか?

 

しばらくお考え下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「1929年世界恐慌、31年満州事変、32年五・一五事件、33年ヒトラー政権成立、36年二・二六事件、37年日中戦争、39年第二次世界大戦勃発、40年日独伊三国同盟、41年(6月)独ソ戦、(12月)太平洋戦争、45年(春)ドイツ降伏、(8月)日本降伏、それがどうした?」と何も見ずに言えた方は、以下の数行は無視して下さい。

答えられなかった方は、まず自宅近くの公共図書館に行って下さい。

その際、もし小学校3・4年生くらいのお子さんがいらっしゃる方は一緒に連れて行くといいでしょう。

図書館に着いたら、児童書のコーナーに向かいます。

で、そこに置いてある学習漫画「日本の歴史」の類いを見つけて、その明治時代から現代までの巻を取り出し、子供に見せて「これでいいのか?」みたいな顔をしてから、貸出手続きをします。

そして自宅に持ち帰ったら、子供ではなく、自分が読み耽ります。

それから、『もういちど読む山川日本史』『石川日本史B講義の実況中継』などを買い求め、高校日本史レベルの事項を、ごく粗くでもいいから頭に入れます。

 

 

以上のことを概ね済ませたのを前提として、近代日本史に関する15冊の読書ガイドを作ってみようというのが、この記事の主旨です。

このブログ全体で紹介冊数が1100冊を超えているので、後はいたずらに個々の本の記事を増やすより、この手のリストを作った方が、読者の役に立つかと思います。

(ただし、このリストは「近代日本」カテゴリの120冊余りしか読んでいない中からの選択ですから、当然限界はあります。[記事数は130余りだが、一つの本で複数の記事を書いているので、冊数は120冊ほど])

 

 

「何で15冊なのか?」は実はかなり適当です。

最初は20冊程度のリストを考えていたのですが、世界史の暫定必読書リストが30冊なのを思えば、ちょっと多いし、なかなかうまく書名も埋まらなかったので、半分の10冊にしようとしたら、逆にどうしてもオーバーしてしまうので、その間でキリのいい15冊になりました。

そして、私の関心領域からして、当然政治史と外交史がほぼ全てです。

 

 

便宜上、「明治前期」「明治中期」「明治後期」「大正」「昭和戦前期」「昭和戦後期」「通史」に分けて紹介していきます。

ただし、何しろ全部で15冊のみですから、1冊だけしか挙げない時代もあります。

 

 

その前に「幕末」をどうするかという問題があるんですが・・・・・。

苦手分野だし・・・・・やめます。

ここで紹介するのは、あくまで明治以降ということで。

今まで読んだ本で、すぐ思いつくのは、半藤一利『幕末史』(新潮社)で、特に悪い本ではないが、これをリストに入れるのはひとまず止めておきます。

 

 

まず「明治前期」から。

この分野では、やはり

(1)坂野潤治 大野健一『明治維新 1858―1881』(講談社現代新書)

がベスト。

「富国」「強兵」「憲法」「議会」という四つの国家目標を掲げる政治勢力の合従連衡の有様から、明治初期の政治を分析する手法の鋭さには、目が覚めるような思いがした。

幕末雄藩の状況にも触れられているのも便利。

薄い本で非常に読みやすいが、内容はとことん濃い。

頭の中がすっきり整理される。

 

 

続いて「明治中期」。

ここで通読難易度が急に高くなるが、

(2)坂本一登『伊藤博文と明治国家形成』(講談社学術文庫)

を採用。

自由民権運動の勃興から憲法制定に至る明治中期の政治史が詳しく語られている。

記事中でも指摘したが、当時の文章の引用が相当読みにくいので、難しければそこは飛ばしてもよい。

内容自体は非常に精緻で重厚。

じっくり読みこなせば、相当実力が付くでしょう。

そして、やや迷ったんですが、ここで政策決定者自身の著作として

(3)陸奥宗光『蹇蹇録』(ワイド版岩波文庫)

を挙げる。

この種の回顧録では、近代日本で最高の作品であることは、恐らく衆目の一致するところでしょう。

ただし、大谷正『日清戦争』(中公新書)におけるような、批判的視点も心の片隅に入れておく必要もあるでしょう。

同種の著作では、このブログでも、幣原喜重郎『外交五十年』(中公文庫)重光葵『昭和の動乱 上・下』(中公文庫)同『外交回想録』(中公文庫)石射猪太郎『外交官の一生』(中公文庫)来栖三郎『泡沫の三十五年』(中公文庫)などを紹介しています。

その内、幣原著は(やや内容が薄いものの)最も読みやすく、教科書的史実の背景を平易に知ることが出来ますし、石射著は破滅的な日中戦争に向かう日本を緊迫感を持って描き出しています。

その他の本も含め、歴史研究者の一次史料としてしか読めないであろう『原敬日記』などと異なり、いずれも一般読者が普通に読めるものですので、歴史的知識を得る為に、余裕があれば手に取ってみるのもいいでしょう。

ただ、学生の頃、その種の回顧録の代表作だと考えていた吉田茂『回想十年 全4巻』(中公文庫)はちょっと期待外れかな、という気もしました。

 

 

「明治後期」に行きます。

ちょうど、叙述範囲がぴったりの

(4)佐々木隆『明治人の力量 (日本の歴史21)』(講談社学術文庫)

がありました。

驚くほど完成度が高い著作です。

著者の透徹した史観に深く納得させられます。

叙述自体の巧みさも魅力。

で、どうしようかなと迷ったんですが、司馬遼太郎『坂の上の雲 全8巻』(文春文庫)を挙げるのは止めておきます。

この本は「近代日本」カテゴリで初めて記事にした作品です。

外国の歴史にしか興味が無かった自分が、近代日本史に向かうきっかけとなった、個人的にも重要な著作です。

最初このリストを作ろうとした時は、間違いなく入れようと考えていたのですが、(著作自体の罪では全く無いとは言え)今の時代状況ではやや陳腐に感じられる点も無いでは無いので、外しました。

未読の方が読んでみるのは、全然悪くありません。

そして、ここで複数の時期にまたがる著作だが、

(5)瀧井一博『伊藤博文』(中公新書)

を挙げる。

(2)に続いて伊藤博文関連の著作だが、何しろ近代日本最重要最優秀の政治家であることは、ほとんどの人が同意するであろうから、別にバランスを失しているわけではないと思う。

実は、これも伊藤之雄『伊藤博文』(講談社)を採用しようか、かなり迷いました。

伊藤之雄氏の著作の方が、網羅的であることは間違いなく、これを選べば、ほぼ明治全ての政治史がカバーできる。

しかし通読にはやはり相当骨が折れるし、初心者が内容をしっかりと読み取れるか疑念が残るので、あえてポイントが絞られた瀧井氏の本を選びました。

日清戦争の記述がほとんど無い点については、(3)でフォローされているということにします。

加えて、あえて付け加えれば、小林道彦『児玉源太郎』(ミネルヴァ日本評伝選)は優れた伝記であり、明治政治史全般を理解する上で有益な本です。

伊藤之雄『山県有朋』(文春新書)および井上寿一『山県有朋と明治国家』(NHKブックス)も同様。

 

 

以上、明治終わり。

続いて「大正」。

ここは1冊だけ。

(6)岡崎久彦『幣原喜重郎とその時代』(PHP文庫)

この岡崎氏の日本外交史シリーズは、「近代日本」カテゴリのごく初期の段階で紹介していることから分かるように、かつては自分の中でその種の本の決定版だと考えていました。

その後、岡崎氏の政治的見解にかなりの疑念を感じるようになって、そうした確信も相当薄れ、だからこそ残りの『陸奥宗光とその時代』『小村寿太郎とその時代』『重光・東郷とその時代』『吉田茂とその時代』は採用しないのですが、この巻だけは依然非常に優れていると思います。

他に適切な本を読んでいないこともあり、これでいきましょう。

上で触れた伊藤之雄氏の伝記作品で、『原敬 上・下』(講談社選書メチエ)があり、これを読んだ後では、ひょっとしたら入れ替えを考えるかもしれませんが、未読なのでリストには入れず、その存在だけは紹介しておきます(追記:読了したのでリンク追加。この記事のリストはそのままにしておきますが、結論を言うと、入れ替えた方がいいと思わせるほどの傑作でした)。

 

 

そしていよいよ「昭和戦前期」に入ります。

我が国が有史以来最悪の敗北を経験し、その歴史に大きな屈折を余儀なくされた時代です。

まず、これを挙げましょう。

(7)川田稔『満州事変と政党政治』(講談社選書メチエ)

昭和陸軍内部の皇道派・統制派という派閥対立についての説明が非常に詳細でしっかりしているのが長所。

初心者にとって効用が非常に高い著作です。

なお、類書の高橋正衛『二・二六事件』(中公新書)同『昭和の軍閥』(講談社学術文庫)は初心者向けとは言い難く、私としてはお勧めしません。

次にこれ。

(8)服部龍二『広田弘毅』(中公新書)

昭和戦前期の日本外交の破滅的失敗を省みる上で、外相・首相を歴任したこの広田弘毅という人物を通じて見ることはかなり有益かつ便利である。

本書はその期待に違わぬ、しっかりとした内容と読みやすい叙述形式を持っている。

類書として、これも挙げておこう。

(9)大杉一雄『日中十五年戦争史』(中公新書)[『日中戦争への道』(講談社学術文庫)]

日中戦争の通史ではなく、戦争の泥沼化に至る過程を分析し、それを回避する為に何が必要だったのかを考察する外交史の名著。

実は、再読したところ、初読の際ほどの好印象は持てなかったのだが、それでも充分勧められる本ではあります。

なお、同じ著者の『真珠湾への道』(講談社)はやや評価が落ちるので、興味のある方だけご覧下さい。

ちょっと前に話題になった、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)も悪くないが、このリストに加えるのは止めておきます。

興味のある方は一読してもいいでしょう。

昭和期の対外戦争の具体的経過についての知識を得る為の本としては、やや古いですが、臼井勝美『満州事変』(中公新書)同『日中戦争』(中公新書)児島襄『太平洋戦争 上』(中公文庫)『同 下』(中公文庫)を挙げておきます。

(知名度はあるが、戸部良一 他『失敗の本質』(中公文庫)は勧めません。)

ちょっと時代を戻して、軍部台頭前の政党政治時代については、絶対に外せない、この名著があります。

(10)筒井清忠『昭和戦前期の政党政治』(ちくま新書)

ここ最近読了した本の中では、最大の収穫でした。

史実をよく整理された形でわかりやすく叙述し、その後で穏当で説得的な史的評価を記して、歴史的教訓を明解に読者に示す、という歴史叙述のお手本のような本。

記事中に書いたように、著者の意見の全てを肯定するわけではないが、本書が卓越した傑作であることは間違いないと思います。

政党政治終焉後の政治史については、さらに同様の傑作があります。

(11)坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)

驚くほどの独創性と面白さをもった歴史叙述です。

これも絶対に外せません。

私も含め、ほとんどの方は、著者による史実の整理と評価の鮮やかさに感嘆を禁じ得ないでしょう。

そして、戦前・戦後を通じて在位した昭和天皇の伝記を通じて、時代を理解するのも有益です。

最初、古川隆久『昭和天皇』(中公新書)が適切かなと思っていたのですが、再考してこれにします。

(12)伊藤之雄『昭和天皇伝』(文芸春秋)

練達の歴史家の手に成る、非常に信頼性が高い著作。

昭和史全般の概説としても使用可能。

福田和也『昭和天皇』(文芸春秋)は、上記の著作などを含む様々な本を参考にして、著者独自の情景描写で読ませるが、巻が進むほど内容が粗くなる気がする。

 

 

「昭和戦後期」に行きます。

まず、以下の概説を選択。

(13)高坂正堯『一億の日本人 (大世界史26)』(文芸春秋)

刊行は1960年代末で、相当古い上に、入手困難。

終戦から20年余りしか経っていない頃の作品で、戦後政治史としては、終戦後70年を超えた現在までの、半分もカバーしていない。

当然多くの限界はある。

しかし、まだしも入手し易い、同じ高坂氏の『宰相吉田茂』(中央公論社)をあえて避けて、これを選んだのは、初心者がより読み易い叙述形式が採られているのと、左右のイデオロギー対立の中、何とか歴史的共通認識を形成しようとする著者の真摯さ故です。

じっくり読みかえすと、非常に多くのものが得られた著作でした。

しかしさすがに戦後史がこの1冊というわけにもいかないので、網羅性に配慮して、

(14)五百旗頭真 編『戦後日本外交史』(有斐閣)

を採用。

「傑作」というほど、心には残らなかったが、それなりに有益な本であることは間違いない。

戦後外交史の概説としては、充分使える。

なお、日米関係と並んで、戦後日本の最重要の外交課題であった日中関係については、服部龍二『日中国交正常化』(中公新書)が非常に良質なテキストになります。

 

 

時代別の紹介は一応終わりました。

最後に「通史」として、この1冊を挙げて、ラストを飾る。

(15)坂野潤治『日本近代史』(ちくま新書)

当然、同じ著者の(1)や(11)と内容が重複する部分はあるが、それ以外の時代の叙述は貴重極まりないし、同時代の章でも新たに付け加えられた見識がある。

通史としては、現時点では、やはりこれがベストでしょう。

正村公宏『日本の近代と現代』(NTT出版)は、ありきたりの教科書的著作ではなく、著者独自の見解がにじみ出た作品だが、強いて選択するほどではない。

 

 

 

まあ、こんなもんですかね。

以下、全15冊のリストです。

 

(1)坂野潤治 大野健一『明治維新 1858―1881』(講談社現代新書)

(2)坂本一登『伊藤博文と明治国家形成』(講談社学術文庫)

(3)陸奥宗光『蹇蹇録』(ワイド版岩波文庫)

(4)佐々木隆『明治人の力量 (日本の歴史21)』(講談社学術文庫)

(5)瀧井一博『伊藤博文』(中公新書)

(6)岡崎久彦『幣原喜重郎とその時代』(PHP文庫)

(7)川田稔『満州事変と政党政治』(講談社選書メチエ)

(8)服部龍二『広田弘毅』(中公新書)

(9)大杉一雄『日中十五年戦争史』(中公新書)[『日中戦争への道』(講談社学術文庫)]

(10)筒井清忠『昭和戦前期の政党政治』(ちくま新書)

(11)坂野潤治『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)

(12)伊藤之雄『昭和天皇伝』(文芸春秋)

(13)高坂正堯『一億の日本人 (大世界史26)』(文芸春秋)

(14)五百旗頭真 編『戦後日本外交史』(有斐閣)

(15)坂野潤治『日本近代史』(ちくま新書)

 

 

自分では近代日本史についても、そこそこは読んできたつもりなんですが、やはりちょっと厚味に欠けるかもしれない。

以上のリストを見ると、そう思う。

もう少し、より良いものになる可能性もあったかもしれませんが、これが私の限界です。

初心者が無理なく読める範囲内で、一定の冊数制限の下で選ぶ、ということなら、このリストの意義も多少はあるかもしれません。

少しでも参考にして頂ければ幸いです。

 

 

全10冊、とはいきませんでしたが、15冊とかなり絞り込んだんで、読了するのは比較的難しくないかと思います。

ただ、その代わり、漫然と読まない方がいいです。

あえてアドバイスすると、常に年代を意識しながら読んで下さい。

このブログでも何度か触れていますが、とにかく歴史を学ぶ上では、年号を記憶することが絶対に必要です。

「また面倒で嫌なことを言い出しやがったな」と思われること必定でしょうが、これに関しては一切妥協できません。

重要な史実と史実の前後関係もわからずに、史観がどうのこうの言っても意味が無い。

そんな史観自体が皮相で安易なものである可能性が大きい(引用文(内田樹6)、 高坂正堯『大国日本の世渡り学』(PHP文庫))。

自分自身を振り返っても、少し違う分野の諸史実の年号を暗記して、それをツールとして利用することによって、視野が啓け、全体的な歴史理解が容易になったという経験を何度もしています。

 

 

ただし、最初に皆さんにした質問の件ですが、別にあれを答えられなくても、何も恥ずかしくありません。

そんなことを知らなくても、立派で良識のある社会人でいることは充分可能です。

ただ、最重要史実の、あの程度の順番も答えられないのに、近代日本の歴史認識について、匿名のネット上で、党派心の虜になって、反対者を口汚く罵倒・嘲笑・中傷するような真似だけは、絶対止めて下さい。

国と社会にとって有害無益です。

そんなのは言論の自由の範囲内には入りません。

ネット上で他者に罵詈雑言を浴びせかける前に、1冊でも多く本を読んで、自分の知識と見識を高める努力をして下さい。

自戒を込めて、そう記して終わりにします。

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