万年初心者のための世界史ブックガイド

2016年10月17日

ウィリアム・シェイクスピア 『ヘンリー四世 第一部・第二部』 (白水社uブックス)

Filed under: イギリス, 文学 — 万年初心者 @ 04:47

この版では、一部・二部がそれぞれ一巻本になっているが、話は完全に繋がっているので一つの記事にした。

エドワード黒太子の子リチャード2世から王位を奪って、ランカスター朝を創始したのがいとこのヘンリ4世で、その簒奪行為に協力しつつも、やがて疎んじられたノーサンバランド伯パーシー家の反乱と鎮圧、ヘンリ4世の死去までを描いた史劇。

もっともヘンリ4世が主人公とは言いがたく、実質的にはその息子で皇太子のハル(ヘンリ)が物語の中心。

放蕩無頼の限りを尽くすドラ息子といった感じのハルが突如その英雄的資質を表わし、反乱を鎮定、父王死後ヘンリ5世として即位、後に百年戦争を再開して最も英国優位の情勢を作り出すことになる。

またこの作品では、ハルの取り巻きの一人で、道化じみた悪徳騎士フォールスタッフのキャラクターも極めて有名。

フォールスタッフらの毒舌・雑言の中に潜むウィットは、現代人が読んでも笑いを誘う。

権力の栄枯盛衰を背後から操る世論の問題というテーマが中心となっているように思える作品だが、その重苦しさを笑いで中和してくれている。

なかなか良い。

シェイクスピア史劇では、少なくとも『ヘンリー五世』よりは印象に残るし、『リチャード二世』と並んで良い。

 

「噂」登場、一面に舌の模様を描いた服をつけている。

さあ、耳を開いて聞きな、それがし、「噂」が大声で

しゃべろうってんだ、耳に蓋するわけにはいくまい?

日の昇る東のかたより日の沈む西の涯まで、

風を早馬に仕立てて乗りまわし、この地上に起こる

あらゆる出来事を伝えひろめるのがおれの役目だ。

悪口、中傷をひっきりなしにこの舌先にのせ、

それを世界各国のことばでしゃべりまくり、

人々の耳に偽情報を詰めこむのがおれの商売だ。

たとえばおれが天下泰平だと言うのは、かくれた敵意が

平和の微笑のかげに刃を秘めてこの世を傷つけてるときだ。

また、大きくふくれあがった世界の胎内から

いまにも暴虐な戦争が生み落とされると思わせ、

兵隊集めや防衛準備に狂奔させておいて、実は

なにごともなし、なんて騒ぎを起すのも、このおれ、

「噂」の仕業でなくてなんだ?「噂」とは

疑心暗鬼、揣摩憶測が吹き鳴らす笛だ、それも

穴をおさえて吹くだけでいとも簡単に音が出るので、

あっちへふらふらこっちへふらふらする大衆ってやつでも、

むやみに吹き立てることができるんだ。いや、いまさら

天下衆知のおれの実体をご説明する必要はなかったな、

あんたがたはおれの身内なんだから。・・・・・・

 

大司教

・・・・・・わが国民はいまやみずから選んだ王にいやけがさしている、

あまりにもむさぼるように愛したため食傷している。

うつろいやすい民衆の心を土台にして家を建てるものは、

ぐらついてあぶなっかしい住居に身をおくことになる。

ああ、愚かな大衆どもめ、おまえたちはかつて、

おまえたちの望みどおりボリングブルック[ヘンリ4世]が王座につく前は、

天を拍つ歓呼の声をもって彼に祝福を与えたものだった!

ところがいま、彼がおまえたちの望んだ栄光に包まれると、

なんという食い意地の汚さだ、もう彼に食い飽いて、

みずから胸をむかつかせて彼を吐き出そうとしている。

そう言えば、おまえたち野良犬は、その貪欲な胸から

故王リチャード二世を吐き出したくせに、いままた

その反吐の死体をもう一度食いたがり、捜し求めて

うるさく吠え立てている。こういう連中が信じられるか?

リチャード王在位中はその死を願っていたやつらが、

いま、その墓に熱い恋心を捧げているのだ。故王が、

世の賞賛を一身に集めたボリングブルックのあとに従い、

傲然とかまえたロンドン市中を溜息ながらに引きまわされた

あのとき、その頭上に汚物を投げつけたおまえたちが、

いま、「大地よ、あの王を返し、この王をのんでくれ!」

とわめいているのだ。人の心の、なんと呪わしいことか!

過去と未来は美しく見え、現在はもっとも醜いと思うのだ。

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