万年初心者のための世界史ブックガイド

2015年11月30日

大澤武男 『ヒトラーの側近たち』 (ちくま新書)

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2011年11月刊。

『ユダヤ人とドイツ』『ヒトラーとユダヤ人』(講談社現代新書)などの著書あり。

冒頭、ヒトラーの生い立ちなどは省略して、いきなり第一次大戦従軍時の描写から入る。

表題の側近たちのうち、ゲーリング、ゲッベルス、ヒムラーなどを除き、あまり知られていない人名をメモする。

ヘルマン・エッサー(1900~81年)=最初期の従者的側近。

ディートリヒ・エッカルト(1868~1923年)=父親的存在の右翼思想家。

エルンスト・ハンフシュテングル(1887~1975年)=上層階級との人脈づくりに貢献した協力者、のちにヒトラーと対立し1937年イギリスに亡命。

女性では、パトロン的存在のベッヒシュタイン夫人とブリュックマン夫人、リヒャルト・ワーグナー未亡人コージマ、長男ジークフリートと結婚していたヴィニフレットなど。

人種主義思想家H・S・チェンバレンはワーグナーの女婿、元イギリス人のコージマはジークフリート死後ナチに急接近する。

フォン・エップ=中将の右翼軍人、ナチに入党、その最初期の国会議員になる。

ヴィルヘルム・フリック=ヒトラー内閣成立時の内相。無任所相兼プロイセン内相のゲーリングと並んで数少ないナチ閣僚。授権法など法的正当性の外面的形式的維持に努めるが、のちの完全なテロ支配に抵抗できず、法務官僚は後退する。

ナチ政権初期の旧体制出身協力者として、国防相のブロムベルクと外相のノイラートはチェックしておく。

経済政策成功に貢献したシャハトも(本書91ページに「自由民主党[DDP]創立者の一人と書かれているが、ドイツ民主党では? 自由民主党だと戦後の政党になってしまう)。

帝国銀行総裁と経済相を兼任。

36年四ヵ年計画に反対し37年経済相、39年総裁辞任、1944年7月20日事件(ヒトラー暗殺未遂)で逮捕、1970年没。

1938年ズデーテン危機に際して、保守派のクーデタが計画され、陸軍参謀総長ベック、後任のハルダー、陸軍最高司令官ブラウヒッチュ、外務次官ヴァイツゼッカー(戦後大統領の父)が加わるが、ミュンヘン会談後腰砕けになる。

とは言え、カイテル、ヨードルらの盲従にも関わらず、軍から反ヒトラーの動きが生まれた。

ナチの恐るべき所業としてホロコーストのほかに、身体・精神障害者と遺伝病保持者に対する安楽死政策が挙げられるが、それを39年戦時突入後実行したのはボウラー総統官房長官。

41年8月ミュンスター司教ジョン・ガーレンがこれに勇気ある糾弾を加え、停止させる。

「ユダヤ人問題の最終解決」としての大量虐殺の実行者としてヒムラー→ハイドリヒ→アイヒマンの系統は憶えておくべき。

42年6月のハイドリヒ暗殺後の後任はカルテンブルンナー。

シュペー(ア)=軍需相。統制経済組織者としては極めて有能で、41年生産の戦闘機9540機、戦車2900台を44年には35350機と17300台に高めたが、燃料の不足からその効果も減殺され敗北に繋がる。

経済恐慌で国民の不満が異常に高まり、最も大衆に受け入れられ易いデマゴギーを駆使できた極右過激派が進出。

特に目立つのが若年層の暴走。

自身の経験や歴史を参照する姿勢に乏しく、易々とナチの宣伝活動の餌食となる。

またナチス自体も、政権獲得時の側近たちの平均年齢が40歳を少し上回る程度だった。

 

 

山ほどあるナチ、ヒトラー関連本の一つで、ありきたりの著作だろうと全く期待していなかったが、そこそこ良かった。

教科書レベルの次に読むのならコンパクトで適切。

『ヒトラーの共犯者』などを読む前の準備としてはいいかも。

ただし、あとがきで東日本大震災以後の日本について、ドイツは迅速な政策決定を行っているとしつつ、日本の政治家と官僚の無能をかなり一方的に非難しているのが気になる。

確かに見方によってはそういう面もあると言えるんでしょうが、よりによってナチについての本で、群衆心理に基く「決断主義」を煽りかねない文章を書くのはどうかと・・・・・・。

それ以外では特に違和感無し。

ごく普通の出来の入門的啓蒙書です。

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