万年初心者のための世界史ブックガイド

2015年9月3日

姜在彦 『朝鮮儒教の二千年』 (講談社学術文庫)

Filed under: 朝鮮 — 万年初心者 @ 06:43

2001年朝日選書で出たものを2012年文庫化。

『歴史物語朝鮮半島』と同じ著者。

かなり分厚いので迷ったが、思い切って手に取ってみる。

古朝鮮・三国・統一新羅・高麗までは比較的簡略で、李氏朝鮮以後は割と詳しい。

一般的史実に触れながら叙述が進むので、「文化史が詳しい李朝史」といった趣きになっている。

適当に内容をピックアップすると、高麗は仏教立国と言われるが、儒教が排斥されたわけではなく、6代目成宗の頃から儒教を主とするような修正の動きが見られ、高麗末期には朱子学が流入する。

なお、本書では崔氏武臣政権への評価が高いのが印象的。

崔氏によるモンゴルへの抵抗が無ければこの時点で王朝自体が消滅していたとする。

確かに、西夏・ホラズム・アッバース朝・カラ=キタイ(間接的に)・金・南宋・大理国・パガン朝、と屍体累々といった感があるのに、高麗は属国化されたものの曲がりなりにも存続したのが不思議である。

後世の儒者によって「暗黒時代」と評された武臣政権だが、著者の評価は逆。

朱子学廃仏派として二人の学者を紹介。

鄭夢周と鄭道伝。

鄭夢周は李朝の易姓革命に反対し殺されるが、後に士林派によって追悼・崇拝の対象となる。

鄭道伝は対照的に李朝に仕え、現実的経世思想に立った宰相中心政治を進めたが、これも結局太宗によって殺害された。

太祖李成桂は生前に譲位、王子の叛乱が起り、定宗が引退し太宗即位。

同時期、明でも靖難の変あり。

永楽帝の冊封を受けるが、著者は「事大」は実質的な従属ではないと強調する。

訓民正音制定で有名な4代目世宗の後、文宗が短い在位で死去、端宗が位を継ぐが、叔父の首陽大君が簒奪を行い、世祖として即位。

これに反対した成三問ら「死六臣」が士林派の源流。

それに対し、世祖支持派は勲旧派と呼ばれる。

勲旧派は儒教一辺倒と事大主義の行き過ぎ是正を目指す現実派であり、経世済民志向の実用主義を特徴とする。

その意味で、あくまで君主中心政治を主張する点以外では、鄭道伝との共通性もある。

一方、士林派は性理学と道学政治を絶対視し、仏教を極端に排斥し、儒教でも朱子学以外の陽明学・考証学を弾圧し、実学を軽視・抑圧するといった具合で、著者の評価は甚だ低い。

四大士禍(士林派への弾圧)を経て、宣祖(1567~1608年)の頃には士林派政治が確立。

朱子学大家として有名な李滉(李退渓)と李珥(李栗谷)が現われるが、それぞれが東人派と西人派の祖となる。

しかしこの対立はあくまで党人が両者を担いだものであり、李珥は国の分裂を戒め、回避しようとしていた。

だが不幸にして、以後党争に歯止めがかからない状態となってしまう。

東人派が北人と南人に分かれ、北人が大北・小北に、西人が老論派と少論派に分裂、老論派が僻派と時派に分かれるという具合で、それぞれの分裂に具体的政治情勢が絡まるが、とてもじゃないがいちいち記憶できないでしょう。

清に服属した際、北京で李朝の使者とアダム・シャールとの交流が持たれるが、それが実際的思考を生むことは無かった。

それどころか、よりによって康熙帝治世の清朝全盛期に、宋時烈の「北伐論」のような非現実的考えが広がる。

18世紀英祖(1724~76年)、正祖(1776~1800年)時代の党争緩和策も成功せず。

一方、実学派がこの時期形成。

李瀷(李星湖)、丁若鏞、朴趾源ら。

キリスト教に入信し、弾圧された者もいる。

19世紀に入ると、外戚による「勢道政治」が蔓延り国政が乱れる。

面白いのが、これを断ち切った大院君に対する著者の評価が悪くないこと。

党派均衡策の巧みさも指摘されており、大院君が開化派と協力できていれば、とのifが語られている。

しかし、崔益鉉らの「衛正斥邪派」は反侵略的ではあるが、未来への展望はなく、「武」の欠落した攘夷思想であるとされて、やや評価が低い。

結局1884年甲申事変から1894年甲午改革までの改革事業不発があまりに重大で、朝鮮にとって致命的結果をもたらしたとされている。

なお、それ以前の福沢諭吉の李朝改革派支援も正当に評価されている。

最後の方で、崔益鉉の「棄信背義」という日本批判を引用しているが、これをより広く、近代化への警告として個人的には読みたいと思う。

本書の全体的感想を言うと、著者の実学志向がやや平板に感じられ、あまり説得的ではない。

では他の評価の仕方があるのかと問われると言葉に詰まるが、何かしっくりいかないものを感じる。

形式的にも、570ページ超の分量はきつい。

読みやすくはあるし、通史として使えないこともないが・・・・・。

評価しにくい本。

強いては薦めない。

気になる方は、一度図書館でご覧下さい。

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