万年初心者のための世界史ブックガイド

2015年5月16日

ウィリアム・シェイクスピア 『コリオレーナス』 (白水社uブックス)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 16:05

あまり知名度は高くない作品。

ローマ史劇。

初期共和政時代のグナエウス・マルキウス・コリオラヌスが主人公。

『古代ローマ人名事典』によると、コリオリ(コリオライ)の戦いで活躍するが、平民の反感を買って前491年に追放、間もなく敵であるウォルスキ(ヴォルサイ)人(コリオライの住人)を率いて祖国ローマに弓を引いたが、母に嘆願されてローマへの進軍を思い止まったという伝説に基づく話。

シェイクスピア自身が元ネタにしたのはプルタルコス

本書で描かれるコリオレーナスは、あまりに強情・剛直で妥協を知らず、挑発的であり、結果責任を問われる政治家としては大きな欠点を持っていると感じられる。

しかしデマゴーグ的な護民官に煽動され、愚かな行動に走る民衆の醜悪さも十分描写されている。

以下、コリオレーナスの台詞。

 

ギリシアでは民衆がもっと大きな権力をもっていた、だがおれに言わせればそれが不服従を育て、ついには国を滅ぼすもととなったのだ。

 

「おれたちは要求した、おれたちは多数だ、だから元老院は恐怖心からおれたちの要求を飲んだのだ」こうしてわれわれは権威の座をみずから汚し、愚民どもにわれわれの心づかいを恐怖心と呼ばせることになるのだ。

 

身分、栄誉、分別が、衆愚の賛成、反対によらざればなにごとにおいても決定をくだすことができぬありさまだ

 

あの大衆の代弁者の舌を引っこ抜くがいい。やつらに甘い権力の味をなめさせるな、やつらには毒だ。諸卿が堕落すれば元老院の判断力は麻痺し、国家に必要不可欠な統一が失われることになる。悪がいっさいを支配し、善をなそうとしてもその力をもてなくなる。

 

塩野七生『ローマ世界の終焉』の記事で書いたような思いに再び駆られる。

古代ローマから現代日本にまで共通する(そしてますます酷くなる)宿痾を眼前に晒される思いがする。

この白水社uブックスのシェイクスピア作品の解説は上演史を主にした簡略なものであまり参考になった気はしないのだが(ただ訳文は読みやすくてとても良い)、この劇についてはファッショ的な、あるいは逆に左翼的人民劇のような脚色が1930年代になされていたなどの記述があって面白かった。

貴族と民衆双方の欠点を照らし出す普遍的な政治劇との評価は当たっていると思われる。

 

非常に良い。

素晴らしい。

シェイクスピア作品にしてはあまり知られていないが、是非勧める。

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