万年初心者のための世界史ブックガイド

2015年2月3日

セルバンテス 『ドン・キホーテ  前篇 全3巻』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 05:24

タイトルは誰もが知っているが、実際読んだ人は極めて少ない古典の一つ。

騎士道物語の読み過ぎで頭のおかしくなった50歳近い郷士のおっさんが自身をドン・キホーテと名乗って(つまりこの名は自称である)、やせ馬ロシナンテに乗り農夫のサンチョ・パンサを従士に引き連れて旅に出、ありとあらゆる現実を妄想的に解釈して、七転八倒、抱腹絶倒の騒ぎを繰り広げる。

無学・単純の一方欲深で計算高く、主人公とは逆に現実的という人物造型のサンチョ・パンサだが、実はこの男も相当おかしいですよ。

なお途中で、実質別の話である挿話が何回か挟まれる。

不実な貴族の息子に翻弄される男女、妻の貞淑を試そうとしてかえってそれを損なってしまった愚かな男の話に加えて、北アフリカでイスラム教徒の捕虜になっていた男が脱走する話が語られる。

最後のものは、レパントの海戦に参加し、その数年後退役して帰国する途上の船をイスラム教徒に襲われ、数年間自由を失ったセルバンテス自身の体験も含まれている模様。

ドン・キホーテ自身の活躍が途中から薄れるが、読み通すのに困難はほとんど無い。

実際、思っていたよりもはるかに読みやすく、すらすらページが手繰れる。

400年以上前の作品とは到底思えない。

このユーモアは現代人でも十分わかる。

近所の粗野でガタイのでかい田舎娘を「ドゥルシネーア姫」などと呼んで崇拝するドン・キホーテには思わず笑ってしまう。

このおっさん、面白過ぎます。

素晴らしい。

予想に反して古典的作品が面白く感じられるというのは、文学初心者にとって最高の喜びだが、本書はそれに最も当てはまる。

これは嬉しい誤算であった。

こういうキャラクターを最初に創造したのはやはり天才的だと思える。

この翻訳のタイトルは「前篇」および「後篇」だが、実質的に「正篇」「続篇」というべき関係のようですので、初心者は「前篇」だけで十分でしょう。

あまり難しいことは考えず、ニヤニヤ笑いながら読み通すだけでよい。

すべてのものが欲得ずくで動く社会で、中世的な美徳と正義を貫く主人公を表面的には嘲笑しながら、同時に秘かな共感を持って描いて周囲の偽善と欺瞞を浮き彫りにし、胎動を始めた近代という時代への批判を込めた、なんてテーマを読み取るのも不可能ではないが、それは気に入った作品には何でも近代批判を見ようとする私の悪い癖でしょうね。

とにかく素人でも十分読める古典。

是非お勧めします。

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