万年初心者のための世界史ブックガイド

2014年12月17日

笹川裕史 『中華人民共和国誕生の社会史』 (講談社選書メチエ)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 16:28

最終的に中国共産党の勝利と中華人民共和国成立に到ってしまった、日中戦争当時の社会変動について、主に四川省を中心に定点観測した著作。

四川省は国民政府の臨時首都重慶の存在地(ただし省都は成都)。

日本軍の空襲は受けたが、直接的地上戦の戦火は免れた。

だが、日中戦争と国共内戦という二つの総力戦による社会的激動に晒される。

通常、近代的総力戦においては、国家統制の深化による「強制的均質化」が進み、社会階層が平準化する傾向があるが、国民国家が未成熟な中国では逆に、国家が社会を全く統制できず、私的な不法行為や暴力行為が蔓延し、貧富の格差がむしろ異常に拡大されていった。

戦争によって生まれた、当時の一部富裕層の利己的行動は、共産党が宣伝する「土豪劣紳」そのものと言わざるを得ない様相だったという。

こうした状況下では、当然富裕層への敵意の高まりが見られ、それがマスメディアによって(一部過剰に)増幅され、共産党にとって有利に働くことになる。

ただ最近の研究では、平時の地主制に一定の評価を与え、それとあくまで戦時下の過酷な状況での地主制を区別する見解があるそうです。

1949年人民共和国成立後行われた土地改革については、『共産主義黒書 コミンテルン・アジア篇』で以下のように記されている。

土地改革という広汎な運動の真の目的は、実際には、何よりもまず政治的次元のものであり、次に経済的次元のものであり、最後に初めて社会的次元のものであった。土地の40%は再分配されたが、農村の特権層の数が少ないのと、とりわけ、大部分の農村における人口密度が極度に高いために、貧農がさほどの裕福さを手に入れる結果にはならなかった。改革後も、彼らの平均経営面積はわずか0.8ヘクタールにすぎなかったのである。アジア地域の他の諸国(日本、台湾、韓国)は、同じ時期に、中国よりも不平等性の大きかった農村において、中国と同様に徹底的な農地改革を成功裡に実現した。われわれの知るかぎり、そこにはただ一人の死者も出なかったし、土地を没収された者には多少とも納得のいく補償が与えられた。

中国の土地改革に見られた恐るべき暴力は、したがって、改革そのものを目的としたのではなく、共産党機関による権力の全面的な奪取をめざしていたのである。言葉を換えれば、党員または幹部になるはずの少数の活動家の選別と、処刑にかかわった多数の村民との「血盟」が狙いであり、最後に、これ以上ないほど極端なテロルを操る共産党の能力を反抗分子や軟弱分子に見せつけることこそが目標だったのだ。

著者はこうした側面を認めつつ、しかし戦中の敵意と怨恨感情を昇華させるために、あえて生産性の低い小農・失業者・難民に土地を分配した戦後処理の面もあると指摘。

(日本では実際的経営能力を持った小作人に土地を与えて社会政策と生産性向上が両立できた。)

こうした共産党政権による農村支配に対して、屈従した「開明地主」がいる一方、自暴自棄の反抗に走った地主もおり、これが共産党に以後の極端で過激な政策を正当化する口実を与えた。

共産体制下では、戦時とは逆に国家が社会を押しつぶす状況となり、多くの悲劇が生まれる。

 

すぐ読めてなかなか有益。

エピローグで要領良く要旨をまとめてくれているのも親切。

一昔前の革命史観でも、最近の反中史観でもないのが良い。

私自身、本書で描かれたような中国を見下すような心境は、十数年前と違ってもはやありません。

中国(と韓国)に対して「不幸な国だな」と昔も今も思ってはいますが、ここ十二、三年ほどの日本を省みると、そんな優越感もどんどん薄れてきます。

ますます彼我が、伝統も慣習も信仰も捨て去り、拝金主義を軸に「大衆ヒステリーとその煽動者が支配する国」という意味で類似した存在になりつつあります。

こんな状況下で、隣国を口を極めて罵り、無邪気にナショナリズムを謳歌できる人間は幸せだなあと思う一方、心底からの嫌悪と軽蔑も覚えます。

昨今の日中関係について私が思うことについては服部龍二『日中国交正常化』(中公新書)の記事後半をご覧下さい。

広告

WordPress.com Blog.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。