万年初心者のための世界史ブックガイド

2014年4月28日

ツルゲーネフ 『父と子』 (新潮文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 07:23

学生時代、岩波文庫で一読済みだが、もうひとつ印象に残らなかった記憶がある。

世界史教科書で、ロシアのナロードニキ運動挫折後に生まれた、ニヒリストの典型を描いた作品だ、という記述から得た先入観で、何か政治的意図を読み取ろうという気持ちが強すぎたためかとも思う。

この度、十数年振りに再読し、まず筋を追うことの楽しみを第一にしたら、非常に面白く、ページを手繰るのが止まらず、わずか2日で読めた(私にしては非常に速い)。

アルカージイ・キルサーノフとその友人でニヒリストのバザーロフ(実質彼が主人公)、アルカージイの父ニコライ、伯父パーヴェルという、前二者の新世代と後二者の旧世代の対立を中心にストーリーが展開する。

本書は、旧体制の悪しき面の告発と、新世代への戯画的批判の両面が描かれており、刊行当初から論壇で喧々諤々の議論が巻き起こったそうであるが、個人的にはやはりバザーロフへの好意は持てない。

ある人が言ったように、相対主義は自らも相対化しなければならないというパラドクスを解決できないし、虚無主義はまず自分自身を滅ぼさなければ偽物だ。

ある恋愛をきっかけにシニカルな態度を貫くことができなくなり、アルカージイとも違う道に別れて、最期を迎えるバザーロフに少々の同情と共感を持たないでもないが・・・・・・。

これは再読して大正解。

分量もちょうどいい。

ロシア小説にありがちの大長編ではない。

やはり名作。

それでいて、比較わかりやすい作品。

素人が読んでも、その良さは十分感じ取れる。

強くお勧めしておきます。

2014年4月26日

モリエール 『人間ぎらい』 (新潮文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 09:28

高校世界史でほぼ必ず憶えさせられる、古代ギリシアの劇作家は、悲劇がアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス、喜劇がアリストファネス。

これとよく似た感じでまとめて教えられるのが、17世紀ルイ14世時代のフランス絶対王政を飾る、古典主義劇作家たち。

人数が一人減って、悲劇がコルネイユとラシーヌ、喜劇がモリエール。

高校世界史レベルでも著名な存在ですから、まあできるだけ実際の作品に触れてみますか。

まず選んだのが、これ。

謹厳実直な硬骨漢の主人公と、虚飾に満ちた社交界を嫌悪しつつ、その中にいる未亡人との恋愛を軸にした話。

一本気の主人公の言動からは、虚偽の言葉に満ちた社会への皮肉と現代社会にも通じる批判的視点が感じられる。

喜劇とは言え、やや苦い感じを残す佳作。

だが、古典主義戯曲に最初に触れる作品としてはいいかもしれない。

2014年4月24日

チェーホフ 『かわいい女・犬を連れた奥さん』 (新潮文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 06:32

チェーホフの代表的な短編小説を収録。

どれも著者独特のユーモアやペーソスを感じさせる。

その中でも、高坂正堯『国際政治』(中公新書)で知った、「往診中の出来事」は素晴らしい。

チェーホフの短編集は、他の出版社からも実に多く出されているので、気に入ったものを一つ通読しておくといいでしょう。

2014年4月22日

ワイルド 『サロメ』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 07:06

イエスの露払いみたいな存在の、洗礼者ヨハネをめぐる伝説をテーマに取った作品。

短い。

すぐ読める。

だが、特に強い印象無し。

同性愛をほのめかす記述などは、著者の経歴を考えると興味深い。

耽美主義とはこんなもんかと、感じ取れれば良しとします。

2014年4月20日

ロンゴス 『ダフニスとクロエー』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 06:08

学生時代に既読。

これは何で読んだのかな?

もちろん高校教科書に出てくる程の知名度は無い。

三島由紀夫『潮騒』(これも学生の頃一応読んだ)の種本とも言われているが、それで読んだわけでもないはず。

古典作品にしては露骨なエロ描写に惹かれたのか。

(馬鹿丸出しですな。)

確か、帝政ローマ時代のギリシア語作品のはず。

高校世界史レベルではタイトル自体出てきませんが、それなりに有名な作品のようですから、まあ読んで無駄ということは決してないでしょう。

2014年4月17日

ゾラ 『居酒屋』 (新潮文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 08:57

「ルーゴン・マッカール叢書」という連作小説の中の一巻。

第二共和政から第二帝政時代のパリ下層階級の悲惨さを描いた作品として、教科書的な知名度も高い。

洗濯女ジェルヴェーズが主人公。

情人ランチエに捨てられた後、ブリキ職人クーポーと結婚、娘ナナをもうける。

最初気のいい男だったクーポーだが、怪我をきっかけに酒で身を持ち崩す。

堅実な暮らしを送る鍛冶屋グージェにも好意を寄せられるが、ジェルヴェーズは自身の自堕落さもあり、徐々に零落していく。

その中での、身内との軋轢、悪意の噂話や陰口、虚栄心と見栄の描写は、非常にリアルだ。

印象的なシーンも多数あるが、中盤辺り、誕生日宴会での食事シーンは生命力の爆発といった感じで、迫力に満ちている。

それ以後の転落の描写はすごい。

ゾッとするほど恐ろしい。

モーパッサン『女の一生』で、「自然主義ならではのいやーな感じ」に触れたが、そんなもの目じゃない。

ラストも含め、こっちの方がはるかに悲惨。

他の面では、周囲を不幸にするだけの、文字通り寄生虫のような存在であるランチエがしたり顔で進歩的政治論をぶつ場面があり、読んでいて、そこで嫌悪感が絶頂に達した。

それに限らず、民衆の醜悪な一面を容赦無く描いており、これが著者の進歩的政治姿勢とどう繋がるのかなと、やや不審に思った。

ジェルヴェーズを地獄の苦しみに追い込んだのは、もちろん社会の矛盾が主因ではあろう。

それは、作中で最も堅実で好人物のグージェすら、産業革命の進展の中、質素な暮らしをしてようやく生計を維持している描写からも窺われる。

しかし、本人の自堕落や、そして何より親族を含む周囲の民衆の酷薄さも、あまりに明白である。

巻末の訳者解説によると、やはり発表当時、左右両派からの複雑で入り混じった批判と賛美があったそうで、ゾラ自身は、自分を民主主義・社会主義作家ではなくただの小説家あるいは自然主義作家と呼んでくれ、と言っており、また、自分は上流階級だけでなく下層民衆の悪も容赦無く描くと述べたそうである。

700ページとかなりの分量があり、序盤はややページを手繰る手が止まり気味になったが、後半はかなりのスピードで通読できた。

やはりすごい作品だ。

名作と言われるだけのことはある。

素人でも十分そのすごさはわかる。

やはり必ず読了しておくべき作品と言えるでしょう。

2014年4月13日

スタンダール 『赤と黒  上・下』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 01:55

学生時代読んだものの再読。

主人公ジュリアン・ソレルの名は、ハムレット、ドン・キホーテに次ぎ、ジャン・ヴァルジャンやラスコーリニコフと並んで有名。

フランス王政復古期が舞台。

立身出世を熱望するナポレオン崇拝者の青年の成功と破滅を描く。

作者自身、ナポレオン戦争に従軍したという。

表題の赤は軍人、黒は僧侶を表すというのが通説。

ナポレオン没落後、前者の途を閉ざされた主人公が後者によってのし上がろうとする。

平民の子が少々の学問を得て、家庭教師、神学校、大貴族の秘書と社会的身分を上昇させていく。

当初は面白く、読みやすい。

それから中だるみの印象の後、急転直下の結末を迎える。

ストーリーの流れからして、極めて唐突な大事件が起きて、ラストの急展開。

構成が少し変に思えるくらい。

なるほど、そういう感じで終わりますか、という感じ。

恋愛心理小説と政治社会小説の両面があるが、そのうち前者は価値があまりわからず、後者にはあまり感心せず。

本作の行間から読み取れる、当時の上層階級への皮肉と批判は、彼らが下層階級と同じ虚栄心と金銭欲の虜となって真の上層階級では無くなったからこそ、生まれたものではないかと感じた。

上層階級に敵意を燃やし、下層から成り上がろうとする主人公にも大した共感は持てない。

学生時代、岩波文庫の古い訳で読んだ時よりは、相当読みやすく感じた。

しかし、全般的感想はあまり芳しくない。

教科書的なネームバリューから言って、これを読まないというのはありえないが、巻置くあたわずという気はしない。

まあ、絶対にこなしておくべき古典でしょうから、読了できただけで良しとします。

2014年4月11日

モーパッサン 『女の一生』 (光文社古典新訳文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 04:21

とんでもない夫とろくでもない息子に苦しめられる女性の話。

冒頭のほんのわずかな部分を除いて、全編を通じて感じる嫌な感じはすごい。

例えば、主人公の召使に異変が生じるシーンにはギョッとして、おいおいそりゃないでしょうという気分になる。

夫がある事件で物語から退場した時には、正直ほっとした。

私のように、教科書レベルの文学史の知識しか無くても、「なるほど、これが自然主義というやつか」と納得できます。

ラストは格別悲惨なものではないとは言え、面白いというには暗すぎる。

だが一気に読ませる傑作であることには間違いない。

初心者でも充分読める。

極めて知名度の高い作品でもあるし、一読はしておきましょう。

2014年4月8日

インドロ・モンタネッリ 『物語 ギリシャ人の歴史』 (文化書房博文社)

Filed under: ギリシア — 万年初心者 @ 05:30

2011年刊。

このブログで、『ローマの歴史』『ルネサンスの歴史』以外の、モンタネッリのイタリア史シリーズの翻訳を、事あるごとに熱望しておきながら、マイナー出版社(すみません)とはいえ、最近まで本書の刊行に全く気付かなかった。

喜び勇んで読み始めたのだが・・・・・・。

ちょっと翻訳に難有り。

生硬で読みづらく、いくつかの誤植も目立つ。

これを刊行してくれた、眼力と尽力には感謝の他無いが・・・・・・。

『ローマ』『ルネサンス』はモンタネッリ自身の文体に加えて、訳者藤沢道郎氏の、細部に囚われず、歯切れの良い、流れるような訳を得ての面白さだったんだなとつくづく思った。

内容的には政治史よりも文化史に重点を置き(これはルネサンス時代と並んで古代ギリシア史においては妥当でしょう)、その叙述の中では、三大悲劇作家とアリストファネス、そしてソクラテスの肖像など興味深いものも多いが、期待が大き過ぎた分、どうも不完全燃焼の感が否めない。

「30冊で読む世界史」澤田典子『アテネ民主政』(講談社選書メチエ)を本書と入れ替える気持ちには、到底なれませんでした。

出口の見えない出版不況の中、これを出してくれた出版社と訳者の方にはまことに申し訳ありませんが、個人的評価は「2」くらいです。

2014年4月5日

チェーホフ 『桜の園』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 05:02

絢爛豪華で質実重厚な19世紀ロシア文学の最後の大立役者というべきチェーホフの代表作。

学生時代に旧訳で通読していたが、この度新訳で再読してみた。

最初の凡例で、「人名表記はできるだけ短く、なるべく一人一つにしている。たとえばラネーフスカヤ夫人はしばしば『リュボーフィ・アンドレーヴナ』と呼ばれるが、この呼び方にこめられる敬愛の情は、日本語の場合、全体の言葉づかいによって表現しうるからである。」と書かれている。

個人名とその愛称、「父称」の存在、姓の女性形への変化など、初心者がロシア文学を読む際にネックとなる事情がクリアされて、これはかなり良いと思った。

本作の登場人物は、没落地主貴族のラネーフスカヤ夫人と父の代までその農奴だった成り上がりの実業家ロパーヒンが中心。

チェーホフ自身は、この作品は悲劇ではないと語っていたそうだが、やはり滅びゆくものへの哀感が強く感じられる。

内容的には、いろいろな読み方があると思うが、旧体制の悪は見逃されていないまでも、個人的にはやはりロパーヒンの言動への少々の嫌悪は、どうしても抑えきれないものがある。

とてつもない感動を味わう、という印象は無いが、これは再読する価値は充分あった。

お勧めします。

2014年4月1日

バルザック 『ゴリオ爺さん 上・下』 (岩波文庫)

Filed under: 文学 — 万年初心者 @ 06:50

これも高校世界史での知名度は高い。

バルザックの壮大な小説作品集成「人間喜劇」は、ある小説の登場人物が別の小説で再登場する仕組みになっているが、その要になる作品だという。

19世紀リアリズム小説の代表作として読んでみたが・・・・・。

面白い。

もの凄く面白い。

傑作だ。

1819年パリの安下宿から物語は始まるが、二人の娘を溺愛しつつ無残に裏切られるゴリオ、貧乏学生ラスティニャック(ゴリオではなく彼が実質主人公)、逃亡犯罪人ヴォートランなどの人物造詣が実に巧み。

人間観察と社会批評も秀逸。

拝金主義という恐ろしいほど強力な渦に、貴族もブルジョワも労働者も引きずり込まれ、腐敗と堕落を極めるようになる近代社会の実像を描いて余すところがない。

古典文学でこれくらいの面白さを感じさせてくれたら、もう言うことは無いでしょう。

素晴らしい。

天才的だ。

自分に文学の愉しさを教えてくれた作品といってもいいかと思います。

皆様にも是非お勧めします。

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