学生時代、岩波文庫で一読済みだが、もうひとつ印象に残らなかった記憶がある。
世界史教科書で、ロシアのナロードニキ運動挫折後に生まれた、ニヒリストの典型を描いた作品だ、という記述から得た先入観で、何か政治的意図を読み取ろうという気持ちが強すぎたためかとも思う。
この度、十数年振りに再読し、まず筋を追うことの楽しみを第一にしたら、非常に面白く、ページを手繰るのが止まらず、わずか2日で読めた(私にしては非常に速い)。
アルカージイ・キルサーノフとその友人でニヒリストのバザーロフ(実質彼が主人公)、アルカージイの父ニコライ、伯父パーヴェルという、前二者の新世代と後二者の旧世代の対立を中心にストーリーが展開する。
本書は、旧体制の悪しき面の告発と、新世代への戯画的批判の両面が描かれており、刊行当初から論壇で喧々諤々の議論が巻き起こったそうであるが、個人的にはやはりバザーロフへの好意は持てない。
ある人が言ったように、相対主義は自らも相対化しなければならないというパラドクスを解決できないし、虚無主義はまず自分自身を滅ぼさなければ偽物だ。
ある恋愛をきっかけにシニカルな態度を貫くことができなくなり、アルカージイとも違う道に別れて、最期を迎えるバザーロフに少々の同情と共感を持たないでもないが・・・・・・。
これは再読して大正解。
分量もちょうどいい。
ロシア小説にありがちの大長編ではない。
やはり名作。
それでいて、比較わかりやすい作品。
素人が読んでも、その良さは十分感じ取れる。
強くお勧めしておきます。