万年初心者のための世界史ブックガイド

2013年11月10日

戸部良一 他 『失敗の本質  日本軍の組織論的研究』 (中公文庫)

Filed under: 近代日本 — 万年初心者 @ 13:44

戸部氏は『外務省革新派』という著作を紹介済み。

他の著者は、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎の各氏。

著者紹介で見ると、現職は防衛大学の先生が多い。

単行本は1984年ダイヤモンド社刊、文庫化は1991年。

かなり著名な本で、私も書名だけはかなり前から知っていた。

ちょっと前にビジネス戦略書みたいな扱いで、再ブームになって売れてましたかね?

(個人的にはそういう読み方は趣味に合わないが。)

たまたま手に入ったので、いい機会だと思い読んでみた。

まず序章で、日米戦争に至るまでの外交的大戦略は問題にせず、開戦後の戦い方を組織論から考察するという狙いを説明。

政府・大本営レベルではなく、上級司令部・艦隊レベルの行動に焦点を絞る。

第一章で具体的戦史からの事例、素材としてノモンハン事件・ミッドウェー海戦・ガダルカナル攻防戦・インパール作戦・レイテ海戦・沖縄戦の六つを挙げ、事実経過の叙述の後、アナリシスという講評を述べる。

第二章で戦略・組織における先の事例での失敗の分析。

第三章で組織理論と教訓、今日的課題を記述するという構成。

通読してみた感想を言えば、全体的に見て平均的、悪く言えば平凡。

戦史の解釈もそうだし、二章以降の分析も同じく。

第二章の節名を挙げていっても、「あいまいな戦略目的」「短期決戦の戦略志向」「主観的で『帰納的』な戦略策定――空気の支配」「狭くて進化のない戦略オプション」「アンバランスな戦闘技術体系」「人的ネットワーク偏重の組織構造」「属人的な組織の統合」「学習を軽視した組織」「プロセスや動機を重視した評価」など、ごく常識的で、ほとんど予想可能なものであり、特に興味をそそられるものは全くと言っていいほど無かった。

第三章でも、日露戦の教訓へ過剰適応して自己革新的組織でなくなった日本軍といったことが書いてあり、これもごく普通。

個人的にはほとんど得たものが無い。

戦略論としてではなく、著名な戦史のおさらいとして読むにしてもあまり良いとは思えない。

例として、私にも理解できる範囲内で一点だけ。

ミッドウェー海戦について。

空母4隻を主力とする日本海軍の第一機動部隊がまずミッドウェー島基地を空襲、効果不充分との報告を得て、魚雷を搭載していた攻撃機に再度陸用爆弾を装備し直していたところ、カタパルト故障で発進が遅れていた巡洋艦搭載の水上偵察機より米空母発見の報が入電、第二航空戦隊山口多聞司令(空母「飛龍」「蒼龍」指揮)は陸用爆弾装備のまま即座に米空母に向け攻撃隊を発進させるべきと意見具申したが、機動部隊指揮官の第一航空戦隊南雲忠一司令(空母「赤城」「加賀」指揮)はそれを退け、より確実に敵空母を撃沈できると思われた魚雷への再度の兵装転換を指示、それに手間取るうちに、乾坤一擲で搭載攻撃機のほとんどを出撃させてきた米軍機が襲来、旧式機が主力の雷撃隊は零戦がほとんど撃退したものの、その間隙を縫って急降下爆撃機が攻撃、「赤城」「加賀」「蒼龍」の三空母が被弾、艦載機と二度の兵装転換で飛行甲板や格納庫に散乱していた魚雷や爆弾が誘爆して大破炎上、これで大勢が決してしまった、というミッドウェー海戦の経緯は、少しでも戦史を読んだことのある人なら常識的事実として頭に入っているでしょう。

山口司令の主張通り、即座に攻撃隊を発進させていれば、米空母を撃破し得たし、日本空母が被弾していても致命傷にはならなかった、というのはよく語られる歴史のイフではある。

しかし、最近の研究では、攻撃隊を即時発進させるとなると、そのため相当の時間、飛行甲板が塞がれ、その時点で滞空中だった艦載機のかなりの部分を水上不時着させなければならない恐れがあったこと、またその場合、護衛戦闘機無しで攻撃機を出撃させねばならない可能性が高く、その攻撃隊が敵戦闘機の防空網を突破して米空母の飛行甲板を破壊し、戦闘能力を奪うことができたか、実はかなり疑わしいとする説もあると聞いたことがある(清水政彦『零式艦上戦闘機』等)。

ミッドウェーの敗因としては様々なものが挙げられると思う。

作戦計画を事前にほぼ完全に察知された情報戦レベルでの敗北。

ミッドウェー島攻略か米空母撃滅かがあいまいだった、作戦目的の不明確さ。

同時に行われたアリューシャン作戦に中型空母1隻と小型空母1隻を割き、何より貴重な空母戦力を分散させたこと。

攻撃力低下への懸念から、偵察に空母艦載機をほぼ使用せず、巡洋艦搭載の水上機に頼ったがゆえの、偵察機の不足と索敵の不備。

不充分な護衛艦艇、空母を取り囲む重厚な輪形陣や空母自体の分散配置の欠如、前衛部隊の未設置など機動部隊運用上の経験不足。

細かな点を挙げれば、他にもいろいろあると思うが、これらの諸要因と比べて、攻撃隊を即時発進すべしという山口司令の意見具申が退けられたことについて、ミッドウェーの根本的・第一義的敗因とするほどの重要性は見いだしがたいというのが、最近の研究の結論のようです。

(本来機動部隊指揮官として山口司令の方が南雲司令よりはるかに適任であり、三空母壊滅後、「飛龍」単艦で米軍の三空母に立ち向かい、米空母「ヨークタウン」を撃破した山口司令の敢闘精神は高く称えられるべきだとしても。)

発行年代を考えれば仕方が無いのかもしれないが、本書ではそうした点は看過され、ごく平凡な筆致に留まっている。

全体的に見て、どうももう一つ。

有名な本だけに、私にはわからない長所もあるんでしょうが、自分にとってはいまいち良さがわからない本でした。

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