万年初心者のための世界史ブックガイド

2013年10月8日

仁木英之 『李嗣源  上』 (朝日文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 08:52

著者については全く知らない。

『僕僕先生』シリーズ著者とのこと。

同じ朝日文庫に『朱温』が収録されていて、そちらの方が明らかに有名人を描いているが、本書の方が短いので選んだ。

タイトル見て、「こんな人物、知らんなあ・・・・・」と思う方が大多数でしょう。

唐滅亡後の五代、二つ目の王朝、後唐の皇帝。

唐末、875~884年黄巣の乱で、突厥が唐側の援軍として参戦。

その突厥沙陀族の長が朱邪赤心(李国昌)で、その子が李克用。

乱鎮圧後の華北では朱温(朱全忠)と李克用が対立する情勢となり、江南は楊行密らが割拠。

907年唐滅亡、同年李克用死去、朱全忠が後梁を建国するが、息子朱友珪に殺され、さらに弟朱友貞が帝位を奪う。

李克用の実子李存勗(りそんきょく)が、契丹の耶律阿保機の圧力を受けながらも勢力を拡大して、後梁を打倒、後唐の荘宗として即位。

五代のうち、真ん中三つの後唐・後晋・後漢は突厥沙陀部の王朝だというのは、高校世界史で習った通りです。

本書主人公の李嗣源は李克用の仮子(養子・義子)であって、荘宗に代わって明宗として即位することとなる。

五代では、最後の後周も太祖郭威、世宗柴栄が養子継承。

本巻の最後の方では、若き馮道が顔を出す。

ここでちょっと話を戻して、北アジア史の復習。

高校世界史で覚えさせられたこととして、755~763年安史の乱では唐朝にウイグルの援軍、875~884年黄巣の乱では同様に突厥の援軍がそれぞれあった、というのがあります。

しかし、北アジアでの遊牧国家興亡の順番は、まずモンゴル系かトルコ系か不明の匈奴・鮮卑・柔然、その次がトルコ系の突厥・ウイグル・キルギス、以後はモンゴル系の契丹・元とツングース系女真族の金・清の覇権交替となる。

つまり、突厥とウイグルは、唐の援軍として来た順序と遊牧国家として台頭した順序が逆になってる。

年代をチェックすると、552年突厥建国、583年早くも東西分裂、630年東突厥が唐に服属、7世紀末西突厥滅亡、744年東突厥も滅亡、以後のモンゴル高原はウイグルの支配下に入っている。

つまり、黄巣の乱で唐を援助した時の「突厥」は、西突厥系統の末裔としての沙陀部であり、すでに北アジアを支配する統一遊牧国家ではなくなっている。

ウイグルも840年にはキルギスによって滅ぼされ、西走してイラン系住民が多数派だった中央アジアに定住してトルキスタンが成立、イスラムに改宗して10世紀半ばにカラ・ハン朝建国、999年イラン系サーマーン朝を滅ぼす、という流れになります。

以上、本書の内容と直接関係無いことをあれこれ書きましたが、実際どうもこの小説から得るところは少ないです。

後半の三分の一くらいからやたら細かい戦況の描写が延々続き、まるで正史の抜き書きを読まされているようで、砂を噛む思いがする。

江南の十国の記述なんかはほとんど不要なんじゃないでしょうか?

読み進めていっても、少しも史実の概略や人物像が頭に入ってこず、歴史小説の役割を果たしていない。

下巻を読むのはやめました。

いくらなんでも中途半端かとも思うが、読むべき本は他に山ほどあるし、古典的著作でもないのに、自分に向いていない本を嫌々読むことに時間を費やせないと判断。

主人公の動向にのみ焦点を絞った叙述で、頭に深く印象付けることにより、基礎事項を着実に記憶に留めてくれるようにしてもらいたい。

田中芳樹氏の中国歴史小説と比べると、技巧的に雲泥の差がある。

私に忍耐力が無さ過ぎるのは事実でしょうが、少なくともどんな初心者にも勧められるという本ではないです。

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