万年初心者のための世界史ブックガイド

2013年9月17日

桜井万里子 『古代ギリシアの女たち  アテナイの現実と夢』 (中公文庫)

Filed under: ギリシア — 万年初心者 @ 16:05

1992年出た本に補章を加えて、2010年刊行したもの。

著者は中公新版世界史全集の古典古代の巻の執筆者(の一人)。

古代ギリシア、アテネにおける女性の地位と生活実態を考察した本。

神話、哲学書、文学作品、法廷弁論、碑文、図像、彫刻など、その多くが断片的なものにとどまる史料から分析を行っているのだが、それが実に緻密で感心してしまう(それらの史料で、女性自身の手に成るものは、ほとんど無いにもかかわらず)。

よく知られているように、古代民主政においては、男性成人市民のみが政治を運営し、女性・奴隷・メトイコイ(=在留外国人、ただし解放奴隷を含む)は排除されていた。

本編では、後見人制度、祭祀という公共活動への参加、結婚と婚資(これが妻の地位をある程度保障)、「家付き娘」(息子が得られなかった家の娘)と近親婚制度、離婚と姦通、家庭内労働、女性神官、ヘタイラ(遊女・娼婦)とポルネ(下級娼婦・ポルノグラフィーの語源)、等々が述べられていく。

非市民の女性が従事した職業は、乳母・小売業・助産師・医師・ヘタイラ・ポルネなど。

これら女性たちのネットワークとカウンターカルチャーについても記述あり。

なお、史上有名なヘタイラとしては、ペリクレスの愛人アスパシアが挙げられる。

政治に関してペリクレスにも助言するほどの存在で、彼女とペリクレスとの間の子は特例で市民権を与えられたが、この小ペリクレスはペロポネソス戦争末期の衆愚政治によって、理不尽な形で処刑されてしまった(アテネについてのメモ参照)。

全般的に言って、女性の地位は貴族政時代の方がむしろ高く(民主政時代にも、公共活動中、祭儀にだけ参加できたのはこのなごり)、民主政が確立し市民団の結束が固まる一方で同時にその閉鎖性も強まるにつれ、低くなる傾向にあった。

本書で触れられている具体的エピソードのうち、以下一点だけ紹介。

前440~439年サモスでの反乱鎮圧後、帰国したペリクレスが戦死者葬送演説で民衆に感銘を与え、称賛されている中、ミルティアデスの娘で貴族派の領袖キモンの姉エルピニケが、

「ペリクレス様、今度のことは誠に御立派で花冠ものですわ。でも私の兄弟キモンのようにフェニキア人やペルシア人と戦うのではなくて、盟友しかも同族の国をお滅ぼしになったのですね」

と堂々と述べたという、プルタルコスが伝える逸話が非常に印象的。

(ただしキモンが異民族とのみ戦ったというのは事実ではないとのこと。)

他には、法廷弁論から再現される女性の人生が2例ほど紹介されているのだが、それも滅法面白い。

全体的にみて、非常に良い。

予備知識の無い高校レベルの初心者でも十分楽しめる。

読みやすく2、3日で通読可能。

こういう社会史関連の本は面白くても「評価3」にすることが多いが、これはあえて「4」を付けます。

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