万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年7月31日

佐竹靖彦 『項羽』 (中央公論新社)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

2010年刊。

同じ著者と出版社で、先に『劉邦』も出ているが未読。

とりあえずこれだけ読む。

通説を常に再検討し訂正しながら話を進めていく伝記。

劉邦の臣下であった陸賈の『新語』とそこから生まれた『楚漢春秋』、およびそれらを史料にした司馬遷『史記』の記述と実際の史実とのズレを考察し、さらに班固『漢書』に至ってより大胆な歴史の再編が行なわれたことを指摘している。

その例としては、項羽が天下を取った際の称号は「西楚の覇王」ではなく「楚王」だったはずだとか、項羽の最期においては「四面楚歌」ではなく「四面斉歌」という状況だったとか、「垓下の戦い」ではなく「陳下の戦い」だったとか、項羽は恐らく陳下で戦死したはずで烏江のほとりで自刃したのは史実ではない、等々。

叙述範囲は、前210年始皇帝の死から前209年陳勝・呉広の乱を経て、前202年項羽敗死と漢王朝成立まで。

なお、本書では陳勝は字(あざな)を取って、常に「陳渉」と表記。

『史記世家』でも「陳渉世家」で立てられている。)

秦末動乱と楚漢戦争の過程は、説明が丁寧なのと地図が豊富なので、類書の中ではたぶん一番わかりやすいと思います。

読んでいく上で、人名では、項羽の配下にいた范増、鍾離昧、黥布、司馬龍且、周殷、曹咎、呉芮(ごぜい)、陳嬰、呂臣など、独立的勢力としては張耳、陳余、田儋(でんたん)、田栄、秦嘉(と景駒)などをチェックするとよいでしょう。

(項羽の臣で後に劉邦に降った季布が出てこないのがやや不思議。)

上記のうち、田儋・田栄は斉の実力者ですが、斉には他にも田姓の人物がやたら出てきて、その政治的立場も様々なのでややこしいことこの上無い。

概括的記述としては、初めの方に出てくる以下の文章が非常に面白かったので引用。

周王朝が成立してから、本書で問題にする漢王朝の成立まで、一千年近い歴史を通観すれば、そこには周秦王朝の継続的成立に示されるように、そのときどきの歴史の波動を含みながらも、巨視的には一貫した西方の優位、かつて毛沢東が現代はアジアがヨーロッパを圧倒する時期であるとして、これを「東風が西風を圧倒する」と表現した言葉をもじっていえば、「西風が東風を圧倒する」という状況が存在した。

歴史的に見たときに、項羽が果した最大の功績は、この一千年にわたる西高東低の地政学的状況に終止符を打ったことであろう。かれ自身は、新しい状況をふまえた継続的な政治体制を樹立することはできなかったが、東西の統合あるいは融合の形勢はいっそう深化するとともに、地政学的な重心もまたこれに対応して東遷した。項羽の奮闘は一千年来の中国の基本的な政治状況に、最終的な変化をもたらしたのである。

この周秦一千年の東西関係の地政学は、前漢、後漢の約四百年のあいだに進行した東西の統合あるいは融合の形勢のなかで、その歴史的役割を終えた。この間に徐々に姿を現してきたのが、南北関係の地政学である。この南北関係の地政学は、前漢、後漢の約四百年の萌芽期をへて、徐々に力を増してくる北方遊牧民勢力の伸張によって、南北朝期にははっきりとその北高南低の姿を現した。

中華三千年の歴史を概観すれば、周王朝の成立以来、項羽の秦王朝打倒までの約一千年弱が西高東低の地政学の時期であり、前漢、後漢あわせて約四百年の東西融合と南北関係の確立の時期をへて、魏晋南北朝隋唐五代のこれまた一千年弱が第一次の北高南低期となる。この時期の北高南低の気象は、さまざまに入り組んだ動乱のなかで進行するが、この巨視的に見たときの過渡期をへて、宋代から清代にいたる一千年弱の北高南低の安定的な地政学的気象が確立する。ただし興味深いのは、ここで西高東低といい、北高南低というのは、政治的・軍事的優位を基準とした呼称であり、すべての時期を通じて、経済的・文化的には正反対の状況が出現していることである。

元々好きな時代を詳細に論じている本なので、私にとっては面白い。

ただし、そもそも漢楚争覇のあらましを知らない人にはあまり興味が持てないかも。

とりあえず、これまで何度勧めたか分からないくらいですが、司馬遼太郎『項羽と劉邦』(新潮文庫)をお読み下さい。

さらに気軽なものとして横山光輝の漫画『項羽と劉邦』(潮出版社)もあります。

横山氏の漫画では、有名な『三国志』よりも私はこちらの方が好きです。

これらの本で準備作業をすると、司馬遷『史記列伝』で関連する人物の伝を読むのが楽しくてしょうがなくなります。

本日までの記事数が998です。

年末の記事で申し上げた通り、1000記事目までいったら、当分更新を停止します。

残り2回は少し毛色の変わった記事を上げようかと考えています。

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