万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年7月26日

戦前昭和期についてのメモ その6

Filed under: おしらせ・雑記, 近代日本 — 万年初心者 @ 06:00

その5に続き、福田和也『昭和天皇 第四部』(文芸春秋)より。

1936(昭和11)年、二・二六事件、広田弘毅内閣、軍部大臣現役武官制復活、日独防共協定、ロンドン海軍軍縮会議脱退(ワシントン、ロンドン海軍条約失効)。

世界では、英ジョージ5世崩御、シンプソン事件でエドワード8世退位、ジョージ6世即位(~52年)、仏ブルム人民戦線内閣、独ラインラント進駐(ロカルノ条約破棄)、西人民戦線政権とスペイン内戦、ベルリン・ローマ枢軸結成、ソ連大粛清本格化(ジノヴィエフ、カーメネフ処刑)、スターリン憲法、中国では西安事件。

日本では二・二六事件の悪影響で政治的リーダーシップが一層希薄となり、定見無く強硬策を唱えるだけの軍部がますます力を得る。

ナチス・ドイツが自国内での軍配置という形ではあるが国際条約を破棄し(ラインラント進駐)、国外(スペイン)の内戦に介入し、イタリアとの関係を固めるなど、攻撃的政策を採り始める。

それに対し英仏は迅速に対応できず、ソ連ではスターリンが狂気のような弾圧に耽る始末。

この年、米国ではルーズヴェルトが再選されているが、孤立主義的世論は根強いものがあり、さらに翌37年には不用意な財政支出削減によって米経済の再崩壊が訪れる状況。

そして西安事件により、共産党を蘇生させることを悟りつつもナショナリズムに押し流された蒋介石政権が対日融和策を放棄せざるを得なくなり、これまで通りの対中政策がもたらす危険が桁違いに高まっている状況下で、よせばいいのに、日本は日独防共協定で対独接近への第一歩を踏み出す(ただし協定締結は11月、西安事件は12月とやや時期は前後する)。

二・二六事件で殺害された三人の主要人物名は、教科書にも載ってることだし、役職名と共に憶えましょう。

高橋是清蔵相、斉藤実内大臣(前首相)、渡辺錠太郎陸軍教育総監。

岡田啓介首相は、人違いで別人(義弟だったか)が襲われ無事。

鈴木貫太郎侍従長(終戦時の首相)も重傷を負う。

事件後、皇道派は排除されるが、反って統制派の政治支配に歯止めが利かなくなる。

浜田国松議員と寺内寿一陸相の割腹問答(演説)も空しく、広田内閣下、議会主義と政党政治は後退する一方となる。

たまに右寄りの人で二・二六で蜂起した青年将校に共感を示す人がいるが、私は到底同意できない。

そうした見方に何一つ真理が無いとは言わないが、後世への悪影響があまりにも大き過ぎる。

なお、この部分では著名な人物についての意外な一面を描写している。

まず、ワシントンおよびロンドン海軍軍備制限条約失効により無条約時代に入った海軍で、山本五十六が対独接近を主導したことが記されている。

もちろんドイツと結んで米英と戦うつもりは無く(実際よく知られているように後年三国同盟と対米宣戦に反対している)、米英との関係が疎遠になった分、ドイツから軍事技術を得ることのみを目的としたものだったとされているが。

山本は海軍の理性的穏健派として人口に膾炙しているが、著者の評価はあまり高くないようである。

翌37年盧溝橋事件に際して内地師団動員に賛成し、38年第2次上海事変で出兵を主張、加えて国民政府との和平交渉打ち切りを支持した近衛内閣海相の米内光政なども、次の巻では世評に反してかなり厳しく批判されそうですね。

もう一つ、広田内閣組閣時、外相候補となりながら軍部の横槍で就任できなかった吉田茂について。

駐英大使として赴任したが、不用意に日ソ戦勃発時の英国の態度に探りを入れ、英国の疑念を招き警戒され、信任が薄くなったと書かれている。

こういう普通肯定的に見られている人物でも、問題点を指摘するのは適切だと思う。

あと、メモすることと言えば・・・・・。

ヒトラー政権は1933年から1945年まで、12年間存続。

第二次世界大戦勃発が1939年だから、「平時のナチズム」と「戦時のナチズム」は奇しくもちょうど6年ずつ。

しかし区切るのなら33~37年と38~45年で分けた方がいいか。

保守派の国防相ブロムベルクと外相ノイラートを解任し完全な独裁体制を固め、オーストリアとズデーテン地方併合で国外への本格的侵略が始まったのが38年なので。

この二つはドイツ系住民の居住地であり、ナチ政権の体質に意図的に目を瞑れば、まだギリギリ「民族自決」の美名で正当化することもできたが、39年にヒトラーが、自ら英仏に強要したミュンヘン協定すら破り、チェコ(ベーメン・メーレン)を併合しスロヴァキアを保護国化することにより、さすがにチェンバレンと西側世論の堪忍袋の緒が切れ、ポーランドへの領土保証→第二次大戦勃発ということになる。

非常に読みやすく、面白い。

短い期間が叙述範囲だが、その分一年ごとに教科書や年表で復習すると、初心者には極めて効用の高い読み方ができる。

国際情勢に関する記述は他の本で補強が必要だし、35年の華北分離工作についてまとまった記述が無いのは大きな欠点だが、他には目立つ短所は無い。

年号など細部を記憶することにより、凡庸かつ通俗的な「歴史の流れ」を受け入れるのではなく、真に意味のある「歴史のイフ」を考えることができるという意味の文章を以前引用しましたが(内田樹6)、本書に関する記事ではそれを少しは実感して頂けたでしょうか?

(と言っても、ほぼすべて、本書の見解を含め他人の受け売りですが・・・・・。)

著者の福田氏は、書く媒体によって作品の玉石混交が激しいという印象を持っていますが、これは間違いなく「玉」の方です。

熟読玩味するに足る良書。

このシリーズを基本書にして、他の本で肉付けして昭和史を学んでも良い。

お勧めします。

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