万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年6月18日

『世界史B 新訂版』 (実教出版)

Filed under: 教科書・年表・事典 — 万年初心者 @ 06:00

久しぶりに高校教科書の記事。

たまたま県庁所在地まで出かける用事があったので、ついでに教科書販売所に立ち寄り買いました。

奥付の執筆者を見ると、『フランス革命 歴史における劇薬』(岩波ジュニア新書)の著者である遅塚忠躬氏がまず目に付く。

あと松本宣郎氏は確かギボン『ローマ帝国衰亡史』(ちくま学芸文庫)の訳者あとがきで協力者として名前が挙げられていた人だったか?

全体的特徴を一言で言うと、詳しいです。

ものすごく。

太字(ゴチック体)になっている用語がやたら多い。

受験という観点からはいいでしょうが、やや消化不良気味になってしまうのではないかという懸念もある。

以下、例によってあれが太字だ、あれが太字じゃない、あれが載ってない、などということを適当に書き連ねます。

古代ギリシアのポリス、テーベがテーバイと表記されている。

エジプト中・新王国首都のテーベと区別するためか。

ただしアテネはアテナイとはなっていない。

シュリーマン、エヴァンズ、ヴェントリス、ローリンソンなど発掘者・解読者の名前も太字。

文化史では抒情詩のサッフォーだけでなく、アナクレオン、ピンダロスも太字。

ローマ史で、カエサルをユリウス・カエサルと氏族名を含めて太字。

451年カルケドン公会議で異端とされた単性説がエジプトのコプト派キリスト教徒の源流であると書いている。

背教者ユリアヌス帝が太字の教科書ははじめて見た。

インド史、マウリヤ朝首都パータリプトラ(現パトナ)は通常活字で、クシャーナ朝首都プルシャプラ(現ペシャーワル)が太字なのはなぜ?

東南アジア最初期の港市国家は「インド化した国家」で、林邑も「中国化」から「インド化」に方向転換し、国名もチャンパーにしたとの記述は面白く、注目に値する。

シャイレーンドラは国名ではなく王家の名であり、スマトラのシュリーヴィジャヤを支配したと書いてある。

それについて、7~8世紀にシュリーヴィジャヤからジャワに進出したという説と、8世紀にジャワからシュリーヴィジャヤに進出したという説を両方紹介している。

たとえ煩雑でも、こうしたことをしっかり述べてくれるのには好感。

北魏・唐の均田制と日本の班田制、および租庸調制の比較図が載っている。

史料集並みの詳しさだ。

同時期、門閥貴族による政界支配に関して、貴族の拒否権行使機関という門下省の役割を明記しているのは渋い。

近代以前のアフリカ、ラテンアメリカ、オセアニアが独立した章で扱われている。

アフリカをイスラム史、ラテンアメリカを大航海時代の章に押し込めるのは、やはりこれからは止めた方がいいでしょうね。

アッバース朝初代カリフ、アブー・アルアッバースは有るが、二代目のマンスールは無し。

ウマイヤ朝創始者のムアーウィヤは大抵の教科書に載っているのに、アッバース朝の両者があまり載っていないのは不思議。

後ウマイヤ朝がカール大帝治下のフランクと対決、フランクは778年イスラム教徒のサラゴサ侵攻を撃退したが9世紀初めバルセロナを奪われた、って細か過ぎますよ・・・・・。

そのイベリア半島にあり、ローマ・イェルサレムと並んで三大巡礼地とされたサンチャゴ・デ・コンポステラが載ってる。

サンチャゴ(サンティアゴ)というと「チリの首都?」としか思い浮かばない人が多いでしょうが、「聖ヤコブ」の意味で、もちろんこちらの方が先に付いたんでしょう。

第3回十字軍の独帝フリードリヒ1世が太字、1282年「シチリアの晩鐘」も。

実在論と唯名論の対立である普遍論争の説明が、わずか2、3行ながら極めてわかりやすい。

コロンブスが出港したパロスという地名を出し、到着したサンサルバドル島を太字にする意味はあるんでしょうか?

またマガリャンイスは慣用でマゼランだけでいいような気が・・・・・。

シーザー→カエサル、ジンギスカン→チンギス・ハンと違って、定着しないですよ、これは。

「近代世界システム」、「中核と周辺」という概念の説明があり、新大陸アメリカだけでなく、東欧も再版農奴制によって「周辺」となったが、ただしアジアは従来の貿易システムを19世紀まで維持したと書いてある。

こういうやや詳しい経済史の記述は良いと思います。

その16世紀以降の東南アジア交易圏にあった「南スラウェシのマカッサル」という国名が太字。

知らんなあ・・・・・。

ルターをかくまったザクセン選帝侯フリードリヒの名前を出すのはいいですが、太字にするのはどうかと・・・・・。

イグナティウス・ロヨラではなく、単にロヨラ。

イグナティウスはファーストネームだから他の人名と同じく省略しても可ということでしょうか?

主権国家の諸段階で、社団国家から国民国家への移行が書かれており、それはいいんですが、この変化が必ずしも肯定的なものでは無かったことを触れて頂けるともっと良かったと思うのですが、それは教科書に望みすぎか。

16世紀を大航海時代およびヨーロッパの膨張と特徴付け、それに対して17世紀は全般的危機の時代と定義。

初心者にとってはこうした大まかな傾向を提示してくれるのはわかりやすい。

フランス革命の意義という節で、社会的不平等を是正しようとする民主主義の理念が以後の世界に大きな影響をおよぼすことになったと認めつつも、社会各層の利害対立から反対派を暴力で排除しようとする恐怖政治が生まれ、それが20世紀のロシア革命でもくり返されたと書いているのは、いかにも遅塚氏らしい含蓄に富んだ叙述だと思いました。

1806年、プロイセンがナポレオンに大敗したイエナの戦いが太字。

これは前年のトラファルガーの海戦、アウステルリッツの戦いと同列に扱うということか。

英国の自由主義改革で、定番の史実の他、1833年ウィルバーフォースらの運動で英植民地での奴隷制が廃止されたことを記している。

1832年第1回選挙法改正でグレイ首相の名前を出すのなら、1846年穀物法廃止時のピール首相も載せて欲しかったところではある。

ドイツ帝国の「外見的立憲主義」に触れていますが、これはあまり断定的に書かないほうが宜しいのではないでしょうか?(ニッパーダイ『ドイツ史を考える』(山川出版社)参照)。

タイのラーマ5世(チュラロンコン大王)は通常活字ではなく太字でいいのでは?

壬午軍乱が太字じゃなく、甲申事変が太字なのは清水書院の教科書と逆ですね。

実質李朝最後の国王である高宗、この人昔は「李太王」なんて書かれてましたが、最近は全くこの表記を見なくなりましたね。

これは日韓併合後に日本が付けた名でしたっけ?

帝国主義時代の「公式帝国」と「非公式帝国」という区別を述べ、後者の例として英国の経済支配下にあったアルゼンチンを挙げている。

そんな用語、はじめて見ました。

1916年、第一次大戦中、アイルランドの対英イースター蜂起が有り。

こんな細かいのよく載せますね・・・・・。

スペイン人民戦線内閣首相のアサーニャが太字。

仏のブルムと違ってこれはやや?マークが付く。

第二次世界大戦の部分では、インド国民会議派の対英協力拒否の「インドを立ち去れ」運動と、アフリカでのケニア・アフリカ人同盟などの運動が載せられているのが目を引く。

戦後史、アフリカ独立の項、省略されがちな、北アフリカのリビア(1951年)、チュニジア・モロッコ・スーダン(56年)に触れている。

カストロだけでなくゲバラも太字。

ゲバラは載せるだけでいいんじゃ・・・・・。

ガーナのエンクルマはともかくギニアのセク・トゥーレが太字なのも同様。

ポルトガル体制変革に伴い、他のアフリカ諸国から大幅に遅れて独立した国として、よく挙げられるアンゴラ、モザンビークだけでなく、かなりマイナーなギニア・ビサウが太字で載せられている。

これも細かい。

それでいて80年独立のジンバブエ、90年ナミビアは普通活字なので、基準がやや不可解と感じる。

1989年就任の米大統領ブッシュの息子で、2001年就任大統領をブッシュJr.と表記。

この親子ねえ。

ファーストネームが同じ「ジョージ」なんですよ。

じゃあミドルネームで区別しようと思ったら、父親が「ハーバート・ウォーカー」で息子が「ウォーカー」ですって。

つまり、ジョージ・H・W・ブッシュとジョージ・W・ブッシュ。

ややこしいんだよ!!!

少し締まらない感じても本書のようにブッシュ・ジュニアと書いた方がいいか。

近現代史で君主以外の政治家が世襲した場合、(慣習的に姓名共に記述する中韓両国以外では)普通の名前に加えてファーストネームを憶える負担が加わるのが面倒ですね。

シリアを長年統治した大統領は「アサド」と憶えておけばよかったのが、今は父親がハフェズ・アサド、息子の現大統領がバッシャール・アサドと記憶しないといけない。

政権崩壊前、世襲が噂されていたエジプトのムバラク大統領ですが、息子が確か「ガマル」だったはずだが、肝心の父親のファーストネームって何だったか?(追記:外務省各国地域情勢で確認したらモハメッド・ホスニと書いてあった。)

エジプトで思い出したが、本書ではサダト大統領はなぜ太字でないのか理解に苦しむ。

エジプトを急進派諸国陣営から穏健派諸国陣営に移行させ、イスラエルと平和条約を結び、中東和平を大きく前進させた大政治家なのに。

ダライ・ラマ14世が太字。

これは、まあ最近よくニュースに出るから適切でしょう。

終わりです。

いつもの通り、全く脈絡無く、埒も無いことをあーだこーだと書きました。

とにかく詳しい。

歴史用語がぎっしり詰まっている。

個人的感覚では、山川の『詳説世界史』東京書籍教科書を上回る詳細さを感じた。

私はこういうタイプの教科書が好きだし、結構楽しめたが、苦手意識を持つ人が読むとアレルギーを起こすかも。

まあ、そういう感じの本です。

ただ、機会があれば手に取ってみるのも悪くないでしょう。

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