万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年6月3日

ジャレド・ダイアモンド 『銃・病原菌・鉄  一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎  下』 (草思社)

Filed under: アジア — 万年初心者 @ 06:00

上巻記事の続き。

この下巻は、第3部、文字と技術の発明と伝播、および集権的社会への発展の章より。

後者については、その発展を小規模血縁集団(バンド)→部族社会(トライブ)→首長社会(チーフダム)→国家(ステイト)の四段階に分類。

第4部に入り、個々の地域別の考察。

まずオーストラリアとニューギニア、中国文明圏があり、続いて太平洋地域とオーストロネシア人の拡散について。

ここで語族を中心にメモ。

オーストロネシア語族は、教科書では括弧してマレー・ポリネシア語族と書いてあり、マレー語・インドネシア語・タガログ(フィリピン)語・マオリ語・タヒチ語などが属するとされている。

しかし本書によると、オーストロネシア語族は四つのサブグループに分かれ、マレー・ポリネシア語族はその中の一つに過ぎない。

なぜ教科書が厳密に言えば不正確とも言い得るような書き方をしているのかというと、残り三つのオーストロネシア語は台湾先住民の中にしか残っていないから。

著者はオーストロネシア語族の祖先は元々中国南部におり、それが台湾に渡ってのち、さらに海を渡った一派が驚くほど広範囲に移住したと推定している。

マレー・ポリネシア語族は東南アジアで、ニューギニア高地人などを除く先住民を駆逐・同化し太平洋を東進しポリネシアの島々に広がると共に、一部は西に向かい、遥か遠くマダガスカル島まで達している。

ここでついでに、ユーラシア東部の語族の復習。

最大グループはもちろんシナ・チベット語族。

名前通りの中国語・チベット語に加えて、タイ語・ミャンマー語も含まれることをチェック。

続いて、さっき出たオーストロネシア語族。

上記の通り、東南アジア島嶼部と太平洋の島々に居住している。

次によく似た名前のオーストロアジア(南アジア)語族。

ここにはヴェトナム語・クメール(カンボジア)語、モン語が含まれる。

東南アジアの国々は、その宗教・旧宗主国・政治体制などを中学・高校の社会科授業で憶えさせられてすっかりお馴染みですが、語族は盲点ですね。

島嶼部はオーストロネシア、大陸部西部はシナ・チベット、大陸部東部インドシナ半島はオーストロアジア、ただしラオスはタイ語に近く、シナ・チベット語族ということになる(上東輝夫『ラオスの歴史』参照)。

三つの語族が混在していることに注意。

なお、宗教についてはマレーシア・インドネシアがイスラム、ミャンマー・タイ・カンボジアが上座部仏教、フィリピンがキリスト教なんかは比較的憶えやすいが、ヴェトナムは確か大乗仏教だったはず。

南伝仏教がカンボジアまでは広まったが、中国の影響の強いヴェトナムは大乗、とイメージしておくか。

話を戻すと、残りはアルタイ語族。

トルコ・モンゴル・ツングースと北方遊牧民族の言葉。

場合によっては韓国語・日本語も入るという説もあるが、これははっきりしない。

次に、過去1万3000年で最も劇的な人口入れ替えであった、コロンブス到達以後の、新旧両大陸世界の遭遇についてもう一度述べている。

次がアフリカ。

「アフリカはいかにして黒人の世界になったか」と題されている。

アフリカの人種分布を述べると、北部は白人(これはアラブ系など)、サハラ以南に黒人、中央アフリカにピグミー族、その南にまた黒人、最南部にコイサン族がいて、東に浮かぶマダガスカル島には黒人とインドネシアから来たマレー・ポリネシア系の混血が在住。

語族については、中央公論「世界の歴史24」『アフリカの民族と社会』でもメモしたが、もう一度復習。

教科書では一括してアフリカ諸語と書かれているだけだが、それを分類。

まずアフロ・アジア語族が北部に広く分布。

これは普通セム・ハム語族と呼ばれている。

シュメールに続いて登場するアッカドがまず属し、以後バビロニア(アムル人・カルデア人)、アッシリアなどが続き、今ではアラブ人とユダヤ人の言葉なので、セム語族=中東・西アジアというイメージがあるが、しかし本書によると正確にはアフロ・アジア語族がまず北アフリカで成立、セム・ハム語族はそこから生れた6つの分派のうちの一つでアフリカから西アジアに広がったとしている。

(ハム語族は古代エジプト語。)

セム・ハム以外のアフロ・アジア語は上記リンク先によればベルベル語群とアムハラ(エチオピア)語などか。

そのアフロ・アジア語の海の中にナイル・サハラ語族(マサイ語・サヌリ語など)が残されている。

西アフリカ以南の黒人世界にニジェール・コンゴ語族が分布。

その中で最も大きなサブカテゴリがバンツー(バントゥー)語。

このバンツー語を話す黒人農耕民がピグミー族とコイサン族を駆逐して広範囲に移住、アフリカの多くを黒人世界にした。

コイサン語族は最南部に逃れ、ピグミー族は独自言語を失いバンツー語を話すようになる。

なお、高校世界史でも触れられるスワヒリ語は、バンツー語がアラビア語の影響を受けて成立したもの。

アフリカ諸語→ニジェール・コンゴ語族→バンツー語→スワヒリ語という四段階のカテゴリがあることを大体でも頭に入れておく。

マダガスカルでは移住者由来のオーストロネシア語が使用されている。

最後にエピローグ。

ユーラシア大陸内部でヨーロッパが占めた優位の説明。

古くから食料生産が始まり、ヨーロッパに先行していた地域のうち、西アジアの肥沃三日月地帯は森林伐採・土壌浸食・灌漑農業による地表塩化など(産業革命前の)環境破壊により衰退、中国は政治的統一が強固過ぎて新技術の放棄が政治レベルの決断で容易になされたことが理由として挙げられている。

ユーラシアの各文明圏で地理的結びつきの強いのは中国→欧州→インドの順だが、結局中程度の結合を保ち、近隣諸国が切磋琢磨して社会の発展を導いたヨーロッパが優位を占めることになったと述べている。

そこそこ面白く、読むのに難儀することもないが、目から鱗が落ちたという感じでもない。

損をしたとは思わないが、読む手間に比べて得られた面白さはさほど大きくもない。

主要な論旨は上巻で言い尽くされているので、下巻がややたるい。

まあ普通じゃないですか。

上巻の記事で興味を持たれた方は図書館で借りて下さい。

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