万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年3月2日

山本紀夫 『ジャガイモのきた道  ―文明・飢饉・戦争』 (岩波新書)

Filed under: 近現代概説 — 万年初心者 @ 06:00

私にしては珍しい分野の本。

2008年刊。

確かほぼ同時期に中公新書から『ジャガイモの世界史』も出たはずだが、こちらしか図書館の開架コーナーに無かった。

ジャガイモはトウモロコシ・トマト・タバコと共に、新大陸原産の作物で、大航海時代以降ヨーロッパなど旧大陸に伝えられたことは高校教科書にも出てきます。

現在世界で栽培面積が、小麦、トウモロコシ、稲に次いで第四位の重要な作物。

ジャガイモはもともとアンデス高地に自生していた雑草のひとつ。

(ラテン・アメリカ文明でジャガイモが知られていたのはインカ帝国が繁栄したアンデス地域のみ。トウモロコシはメキシコからアンデスまで広範囲で栽培。)

ただしこの「雑草」とは、人間が恒常的に利用し変化した環境(森林伐採や排泄物処理による)で生育する植物の意で、自然そのままの環境で生える草ではない。

前5000年頃、有毒成分を含むイモ類を人間が品種選択や毒抜き作業によって栽培化。

通説では、文明成立には小麦・米・トウモロコシなど穀物栽培が必要とされ、イモ類栽培は過小評価されてきた。

アンデス文明もトウモロコシを主要作物とする文明と言われてきたが、著者はこれに疑問を呈する。

アンデスのような寒冷・高地ではジャガイモが主食であり、トウモロコシはチチャ酒などの原料になる儀礼的作物だったのではないかとしている。

イモ類は水分が多く、重いので、貯蔵性が低く輸送も困難なのは事実だが、水分(と毒成分)を抜いたチューニョという乾燥イモに加工することにより、その問題も解決することができる。

トウモロコシはコロンブス来航時からヨーロッパ人に知られていたこともあり、ラテン・アメリカ文明はすべてトウモロコシが主作物だったようなイメージがあるが、アステカ帝国はトウモロコシ栽培の上に立つ文明である一方、インカ帝国はジャガイモ栽培によって成り立っていたとしている。

(ヨーロッパ人侵入以前のラテン・アメリカで、ジャガイモの栽培地域がアンデスに限られるということは高校世界史では出てこないはず。)

トウモロコシに比べて、ヨーロッパへのジャガイモの普及は遅れ、本格化したのは18世紀末頃。

例外的にアイルランドでは18世紀には主食の地位を占める。

しかし過度の依存が禍して、19世紀中頃に疫病による「ジャガイモ飢饉」発生。

多数の死者が出て、移民も急増。

この時アメリカに移住した中にはケネディ一家も含まれる。

あと、他の地域への栽培伝播とその影響について。

ネパール東部、エベレスト南のシェルパの例が挙げられている。

この「シェルパ」は登山ガイドの意味かと思ったら、民族名だそうです。

続いて日本では江戸時代半ばから後期に普及したことが述べられて、インカの末裔である現在のアンデスに住む人々の農耕・牧畜について論じてお仕舞い。

楽に読めて、結構実のある知識を仕入れることができる。

悪くない本です。

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