万年初心者のための世界史ブックガイド

2011年2月7日

ルイ16世についてのメモ その6

Filed under: おしらせ・雑記, フランス — 万年初心者 @ 06:00

その5に続き、ベルナール・ヴァンサン『ルイ16世』(祥伝社)より。

1793年1月、ルイ16世の最期についての描写。

処刑判決を告げられた際。

王は判決を告げられても微動だにせず、その冷静さはエベールを含めてその場にいた者たち全員に感銘を与えた。エベールはほんの数日前、別名「裏切り者ルイ」のルイ・カペーの死刑を要求し、元国王を「夜は糞尿まみれの寝藁の上の豚のように鼾をかく」酔漢と呼び、「オーストリアの雌虎」であるマリー・アントワネットを「雌猿」に、その子供たちを「尾巻き猿の子供」に譬えて憚らなかった。きわめて過激な主張と野卑な言葉遣いで有名なあの「デュシェーヌ親爺」紙の創設者であり、王に対する好意があるなどと誰からも疑われるはずもないエベールは、判決告知の場面を称賛と感動をこめて伝えている。

「王は稀に見る沈着な様子で判決の言い渡しに耳を傾けた。その態度と言葉には敬虔、尊厳、気高さ、威信が満ちていたので私は堪え切れなかった。狂おしい涙が私の瞼を濡らした。王の眼差しと物腰には明らかに、人間を超えた何かがあった。止めようと思っても流れ落ちる涙をぬぐうため、私はその場を立ち去った。この職務はこれまでにしようと、と覚悟した」

この証言は貴重だが、しかしこう決意したはずのエベールが、数ヵ月後のマリー・アントワネットの裁判では、王太子との近親相姦疑惑まででっち上げて卑劣の限りを尽くすのだから呆れる。

下劣な誹謗中傷マニアの心性は、やはり死んでも直らないと言うべきか。

こいつが1794年3月に死刑に処された時の見苦しい取り乱し方は、威厳に満ちた態度で従容と死を迎えたルイ16世とマリー・アントワネットとは完全に対照的であり、失笑を禁じえない。

同じジャコバン派指導者でも、奔放で非教条的側面を持つダントンや、残忍・冷酷であると同時に高潔・清廉であったことも間違いないロベスピエールに一種妖しい魅力があることは認めるが、このエベールに対しては心底からの嫌悪と軽蔑以外の何物も感じない。

国民公会よりの使者が退出した後、監視の役人たちにルイ16世はこう述べたという。

「私は恐れることなく死を迎える。私の死がフランス国民に幸福をもたらし、不幸を遠ざけてくれることを願う。民衆がさまざまな徒党の犠牲者となり無政府状態に苦しめられ、犯罪が相次ぎ、フランスを引き裂く対立が続くことを私は予感している」

この予言は、その後第三共和政の安定まで100年間、フランスで的中し続けたとしか言うほかないし(引用文(トクヴィル1))、見方によっては現在に至るまで、フランスだけでなく他の民主主義国家すべてで的を射ているとも言える。

やっと終わりました。

プティフィスの伝記の縮刷版みたいな内容。

より短く、分量的に適切。

訳文がよくこなれていて、流れるように読める。

巻末にある年表もちょうどよい詳しさ。

眺めることで本文の復習ができる。

なお、私が書いた記事では、やたら「反革命的」傾向が読み取れるかと思いますが、これは私の関心と解釈から他の本の記述も引用してまとめたものですので、その点お含み置き下さい。

著者はフランス革命の意義を全面否定することはしていませんし、ある時期以降のフランスで共和政以外の政体の選択肢があったとは考えていないようです。

(これは現在のフランス人としては当然だと思います。プティフィスの本も同じく。)

よってこのブログの記述から本書についてある種の先入見は持たれない方が宜しいかと思われます。

(ただし、本書の叙述と全く相反し、関係無いことを記事で書き連ねたつもりもございません。)

かなり良く出来た伝記だと思いますんで、機会があればお手に取って下さい。

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