万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年11月25日

マイケル・ハワード 『改訂版 ヨーロッパ史における戦争』 (中公文庫)

Filed under: ヨーロッパ — 万年初心者 @ 06:00

原著は1976年初版、2009年改訂版刊行。

著者は有名な軍事史家だが、私程度では「何度か名前を聞いたことがあるなあ」と思えるくらい。

戦争の技術的側面にだけ着目するのではなく、常に社会との関係に留意した、簡潔・明解なヨーロッパ戦争史。

本文は、「封建騎士の戦争」→「傭兵の戦争」→「商人の戦争」→「専門家の戦争」→「革命の戦争」→「民族の戦争」→「技術者の戦争」という章建てで進んでいく。

それぞれの章が大体どの年代に当たるのか、そしてその時代の戦いの大まかな様相をイメージできるようになれば良い。

個人的感想を言えば、ヨーロッパの黄金時代はやはり19世紀ではなく18世紀(上記区分で言えば「専門家の戦争」の時代)ではないかと思えた。

当時は戦争の限定的性格が最も強かった時代で、民間への被害も少なく、戦争は王朝国家間の厳格なルールに則った一種のゲームであり、戦闘の規模も小さく、徹底性にも欠けていた。

戦争は、イデオロギーや熱狂に煽られた「世論」には基づいておらず、純粋に上層階級による国益の計算によって遂行された。

近世初頭の宗教的熱狂は後退し、フランス革命以後の民衆的ナショナリズムは未だ知られていない時期。

交戦状態にある国民同士が憎悪し合うこともなく、合従連衡の同盟の組み合わせも頻繁に変化した。

こういうバランスが崩壊して19世紀を迎え、そこで人類史上最悪の20世紀の悲劇が準備されたように思える。

それほど細かな史実が取り上げられているわけではないが、全くの初心者が読むには不適当と思われる。

他の概説などを一通り読みこなした人がざっと通読してイメージをより明確にするための本というべきか。

悪い本ではないです。

・・・・・軍国主義的ナショナリズムは純然たるブルジョワ的現象ではなかった。マルクスが労働者は国家を持たないと書いたとき、彼は実は初期産業革命の労働者について語っていたのである。彼らは、田舎の安定した社会から引き離され、都市に惨めな状態で群がっていたが、都市はいまだ一体感を発展させておらず、彼らを搾取する社会からまさしく疎外されていたのである。しかし、五十年後、国家教育、合法化された強力な労働組合、そして多分最も重要であった、安価で煽情的な新聞が、この状況を一変させた。二十世紀の初めまでに、労働者階級は、社会主義の刺激と少なくとも同じように、ナショナリズムの刺激に対しても進んで反応していた。その両方の主張を混ぜ合わせられる者が、最も成功した政治指導者となった。国境を越える階級統合の訴えは、1914年に一たびラッパが鳴り始めるや、雲散霧消してしまった。

一部の歴史家が示唆したところによれば、二十世紀初頭の熱狂的で軍国主義的なナショナリズムは、革命から大衆の支持を引き離して、彼らを既定の秩序の方に引き付けるように教え込もうとする、反動的支配階級によって引き起こされたものであった。しかしこれは粗雑な機械論である。ナショナリズムを最も信じなかったのは、実は、支配階級の中の最も反動的な人々であった。ヘーゲルとマッツィーニの思想はそれ自体の価値と主張を持っていたし、デモクラシーとナショナリズムとは互いに養分を与え合っていた。国事への参加意識が大きければ大きいほど、国家は国家を生み出した唯一無比の価値体系の具現化だと見なされるようになり、国家を守り国家に奉仕する責務はいよいよ大きくなった。その上、組織宗教の力が低調になってきた時代には、民族が人びとの忠誠の焦点として現われてきたのである。奇蹟の時代は卒業したが、流行歌スターの時代にはまだ入っていなかった人々は、国家によって、目的、生彩、刺激、威厳を与えられた。

・・・・・もし本当に社会の軍国主義化が古いエリートの用意周到な計略であったのならば、彼らは非常に悪い取引をした。というのは、彼らを滅ぼすようになったのは、不可能な勝利を求めてあらゆるものを犠牲にした、他ならぬ愛国的な民衆であったからである

以上、20世紀以降君主制・貴族制が崩壊した、多くの国で同じですね。

(日本も似たようなものか。)

それに比べて民主主義国はお気楽なもんです。

例えば、不確かな根拠で予防的先制攻撃を仕掛け他国に侵攻した指導者を民衆が圧倒的に支持しておいて、それがどう頑張っても弁護しきれない程の悲惨な状況をもたらすと一転反対党の候補を指導者に押し上げ、他国の膨大な犠牲者は忘れた素振りで「私たちは過ちも犯すが、それを正す力も持っている」と更なる自己満悦に耽る、と・・・・・・。

全く結構な政治体制です。

バークのこの引用文を思い出します。

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