万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年10月29日

田中芳樹 『奔流』 (祥伝社)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

『蘭陵王』『海嘯』に続く田中氏の歴史小説。

今回の舞台は6世紀初頭の中国南北朝時代。

華北を統一して久しい北魏と建国間もない南朝梁との間で起こった「鍾離の戦い」を主に記す。

登場人物はまず、梁の初代皇帝・武帝(蕭衍)。

その下の若き将軍陳慶之が主人公。

梁側では他に韋叡、曹景宗など。

北魏は孝文帝死後の宣武帝時代。

帝室の一員である中山王・元英、猛将・楊大眼、梁の前王朝斉の元皇弟だった蕭宝寅などが北魏側登場人物。

以上のうち高校世界史では、孝文帝を除けば、梁の武帝がまあ何とか出てくるかなといった感じで、他は主人公含め完全に高校教科書範囲外。

こういうマイナーな時代と人物を題材にしながら、初心者が読んでも十分面白い歴史物語を本書でも展開してくれている。

以下魏晋南北朝時代についての復習。

常に重要年代を意識して、時代の大まかな長さを把握しながら基礎事項をチェック。

後漢滅亡が220年、隋の統一が589年。

西晋の統一が280年、八王の乱がそのちょうど十年後、290年。

西晋の統一崩壊から数えて約300年、黄巾の乱(184年)から数えると約400年間、中国がぐちゃぐちゃだった時代ということをまずイメージ。

(なお八王の乱は教科書では290~306年とあるが、『世界史年代ワンフレーズnew』ではその勃発を300年としている。最中の何かの史実をその基点としているのだろうが、教科書と合わない年代はやはりまずい気がしないでもない。)

西方でローマ帝国が崩壊するより少し早い4世紀初めから中国は大混乱に陥り、304~439年間が五胡十六国時代。

江南に逃れた東晋が317~420年と、およそ百年存続。

前秦・苻堅の一時的華北統一が破れた後、鮮卑・拓跋氏の北魏が439年華北再統一。

北魏の存続年代は386~534年だが、五胡十六国時代の終わりを画す439年華北統一の年代を憶えた方が良いか。

うまい具合にこの少し前420年に東晋が滅んでいて、中国の南北で時代の転換点を迎える。

よってこれ以後隋の統一まで南北朝時代となる。

南朝の王朝名順序、「宋・斉・梁・陳」は高校生もそれ以外の人も、とにかく理屈抜きで憶えるしかない。

声を出して、「そう、せい、りょう、ちん」「そう、せい、りょう、ちん」・・・・・と20回くらい繰り返したら暗記できるでしょう(病院に連れて行かれないように、周囲に誰もいないことを確かめた上で)。

(五代の後梁・後唐・後晋・後漢・後周、デリー・スルタン朝の奴隷王朝・ハルジー朝・トゥグルク朝・サイイド朝・ロディー朝も同様。)

宋(420~479) 劉裕が建国  吉川忠夫『劉裕』(中公文庫)があり。

斉(479~502) 蕭道成

梁(502~557) 蕭衍(武帝)

陳(557~589) 陳覇先

上記の通り、斉と梁の帝室は同姓(武帝は斉帝室と血縁あり)、陳は国号と国姓が同じことに注意。

梁の武帝時代が南朝最盛期。

梁は一応6代続くが、最初の武帝時代が502~549年と在位半世紀に近く、以後は反乱でガタガタになりますから実質一代か。

次に北朝について。

北魏の孝文帝は南北朝時代通じて、高校教科書で唯一太字で載せられている重要人物だが、幼少で即位し33歳で死去したため在位29年のうち親政は最後の10年間のみ。

(死が499年なので、孝文帝時代が終わって、斉滅亡→梁の武帝となることを少しイメージしておきますか。)

即位後かなりの期間は祖母の馮太后が執政。

史上有名な均田制・三長制の実施などは、実はこの馮太后の政策であって、孝文帝自身の治績は衣服・言語・習俗・帝室改姓(拓跋→元)などの漢化政策のみと見るべきだと、宮崎市定『中国史』(岩波書店)などには書いてあります。

以後北魏は国運衰退、爾朱栄が朝廷の内紛を利用して専権を振るう。

帝室は爾朱栄暗殺に成功したものの、求心力の回復に至らず、爾朱栄配下の武将高歓と宇文泰が対峙する情勢となり、両者がそれぞれ北魏帝室の一員を担いで、534年高歓が東魏建国、翌535年宇文泰が西魏建国。

以後の話は、最初にリンクした田中氏の『蘭陵王』の記事参照。

高歓の部下だった侯景が梁に亡命した後、反乱を起こし仏教文化の華を誇った江南は荒廃、80代半ばに達していた老いた武帝は幽閉され餓死同然の悲惨な最期を遂げる。

侯景は結局滅んだが、梁の屋台骨は大きく揺らぎ、(東魏を継いだ)北斉と西魏およびそれに続く北周の圧迫を受けたのを機に、侯景討伐に活躍した陳覇先が簒奪、陳を建国。

北斉が550~577年、北周が556~581年、陳が557~589年だから三者とも6世紀半ばに成立と大掴みしておく。

なお本書では爾朱栄による混乱時代、主人公の陳慶之が一時洛陽を占領したことを記している。

他には「源氏」の起源・由来や、倭王「武」(雄略天皇)の梁武帝への朝貢など、意外な史実や逸話も紹介されているのが興味深い。

これも十分面白い。

歴史小説といっても、固有名詞のある人物は一部を除き、すべて実在とのこと。

自由奔放に見える登場人物の性格描写も、実は正史の記述にきちんと典拠を求めているところに感心させられた。

話のテンポが速く、快適なのも同じく。

今までのところ、田中氏の小説はどれもハズレじゃないです。

特に嫌いでなければ、初心者が読んで関連事項を復習するのも良いでしょう。

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