万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年9月4日

前田護郎 責任編集 『世界の名著13 聖書』 (中央公論社)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 06:00

同じ「世界の名著」シリーズの『孔子 孟子』の記事で少し触れたこれを通読した。

結果、事前に思っていたより、はるかに面白く読めた。

まず、巻頭にある前田護郎氏の解説がなかなか読ませる。

前田氏自身信仰を持っている方なのに、戦国時代、日本への最初のキリスト教伝来について、

・・・・・政略軍略商略を基本とする植民地帝国主義の先鋒として大名に武器を与えて教勢拡張に資するなどの手段が繰り返され、キリシタン禁止令がしかれるに至った経緯も今日からみれば当然である。布教の内容自身に中世的要素が多く、アジア諸国の小乗的雰囲気をそのまま日本にも当てはめた傾向があったことも否めない。邪宗の烙印は当時の日本の下した判断として首肯しえよう。

なんて、こんなこと書いていいんですか???、みたいなことが述べられている。

本文は旧約聖書と新約聖書の部分に分かれており、旧約で収録されているのは、「創世記」「出エジプト記」「イザヤ書」「伝道の書」の四つ。

「創世記」を最初から地道に目を通していくと、思っていたよりはるかに楽に読める。

天地創造とアダムとエバ(イヴ)、カインとアベル、ノアの箱舟と大洪水、ノアの息子セム・ハム・ヤペテ、バベルの塔、セムの系列から出たアブラハム・イサク・ヤコブ・ヨセフ、ヨセフのエジプト移住、と順に読んでいくだけで物語として十分面白い。

全巻通じて、一部省略があり、収録されている部分においても全訳ではなく抄訳になるようだが、別に気にならずかえって読みやすいと感じる。

モーセの言行を述べた「出エジプト記」も古典的史書みたいな感覚で楽に読める。

カナン征服についての「ヨシュア記」やダヴィデ・ソロモン王の栄華を記す「列王紀」「歴代志」などは省かれており、次は預言書の内で最重要の「イザヤ書」。

ヘブライ王国南北分裂後の衰退期、王国の腐敗・堕落と外敵侵入の危機的状況下で作られたもの。

全編韻文で綴られており、これはきついだろうなあと思っていたのだが、意外や意外、本書の中ではこれが一番面白かった。

今の世の中やどうしようもなく下らない自分のことを考えると、クリスチャンでないのはもちろん、仏教・神道的な信仰心もカケラも無いはずなのに、いろいろ思うところがあった。

諸書から、割と短めの「伝道の書」を載せて旧約の部分は終わり。

新約ではイエス・キリストの言行を記した「マタイによる福音書」「マルコによる福音書」「ルカによる福音書」「ヨハネによる福音書」に加えて、パウロの書簡から「ローマ書」と「ピレモン書」を収録。

最初目次を見たとき、福音書を四つ全て載せるより、「マタイ」と「ヨハネ」くらいだけにしておいて、「使徒行伝」のいくつかを入れてくれた方が良かったんじゃないかなあと思っていたのですが、実際福音書を読み比べてみると、「あれっ、この話ここでしか載せてないのか・・・・・」と思ったことがかなりあったので、やはり新約の中心である以上、基本テキストを提供するこのシリーズに四つ採録したのは正解だと思います。

子供の頃から断片的に知っていたイエスの教えや説話や奇跡譚を確認しながら読むのは、なかなか興味深いもんです。

ここで12人の直弟子の名前だけメモしましょうか。

二人ずつセットで憶えましょう。

まずペテロ(元の名シモン)とアンデレの兄弟。

ゼベタイの子、(大)ヤコブとヨハネの兄弟。

ピリポとバルトロマイ(元の名ナタナエル)。

トマスと徴税人のマタイ。

アルパヨの子(小)ヤコブとタダイ。

熱心党のシモンとイスカリオテのユダ。

熱心党というのはローマに対して過激な抵抗運動を行った党派、みたいな説があるそうです。

福音書でよくイエスの側にあって名前が出てくるのはペテロ、大ヤコブ、ヨハネ辺りですか(裏切り者のユダは完全な別格ですが)。

何にも知らない超初心者(つまり私)はまずペテロとパウロを区別して、パウロが直弟子には含まれないことからまず憶えて下さい。

なお、よく言われるように「ヨハネ福音書」だけ少し他と毛色が変わっていて、イエスの言行録というものから離れて、より神学的色彩が濃いとされているが、確かに私のような素人が一読しただけでもそれは感じた。

パウロの手紙である「ローマ書」は面白い部分もあるが、やや読みにくい。

「ピレモン書」は二段組で1ページ半という短さで、特にどうということもない。

なかなかいいんじゃないでしょうか。

日本聖書協会の「新共同訳聖書」や、岩波文庫でバラバラに収録されているものなど、多くの版がありますが、初心者がとりあえず通読できる分量で概略をつかむには、これでもいいと思います。

参考文献としては、何と言っても阿刀田高氏の『旧約聖書を知っていますか』(新潮文庫)『新約聖書を知っていますか』(新潮文庫)に尽きます。

この二つは超初心者向け入門書としては最高に読みやすくてわかりやすい。

それと本書を併読すれば、一般常識としてのキリスト教の基礎的知識は得られると思います。

『ギリシア神話を知っていますか』(新潮文庫)『コーランを知っていますか』(新潮文庫)もついでにどうぞ。

ちなみに日本神話に関しては、石ノ森章太郎『マンガ日本の古典1 古事記』(中公文庫)辺りでも読めば最低限の知識は身に付くでしょう。

以下、「イザヤ書」より(一部変更あり)。

げに、見よ、主なる万軍のヤハウェが、

エルサレムとユダから、

その柱石と仰がれる者を除き去る、

すべてのパンの杖、すべての水の柱すなわち、

武将と軍人、裁判官と預言者、

占い師と長老、五十人の長と貴族、

参議と魔術に長けた者、知者と魔法に巧みな者を。

「わたしは青二才を彼らの長とし、

悪童らに彼らを治めさせる」

民は互いに虐げ合い、同胞相はむ。

青二才が年寄りに、若輩が先輩にたてつく。

たまたま、人が兄弟を家でつかまえ、

「おまえにはまだ上着[身分・財産を表わす]がある、われわれの

頭となって、この破局を収拾してくれ」

と言えば、その日、彼は悲鳴をあげて、

「収拾どころか、家にはパンも上着もない。

民の頭などおことわりだ」と答えよう。

ああ、エルサレムは躓き、ユダは倒れた。

その舌とわざがヤハウェに背き、

栄光の目を犯したからだ。

彼らの顔つきが彼らを告発し、

その罪をソドムのように物語る。

あわれなる彼の身の上よ、

まいた種は刈らねばならぬ。

義人はさいわいだ、善行の余徳を受けるから。

悪人はわざわいだ、悪行の報いが臨むから。

わが民は暴君に振り回され、女らに治められる。

わが民は指導者に迷わされ、道案内が道を誤る。

ヤハウェが論告に立ち、民の裁きの座につく。

・・・・・・・・・・

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