万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年7月30日

デイヴィッド・ハルバースタム 『ベスト&ブライテスト  下 アメリカが目覚めた日』 (二玄社)

Filed under: アメリカ — 万年初心者 @ 06:00

最終巻。

南ヴェトナムへの地上軍派遣をめぐる論争から下巻は始まる。

マクスウェル・テーラーが駐南ヴェトナム大使となり、統合幕僚本部議長はアール・ホイーラーが就任。

文民統制があっても、文官の国防インテリが好戦派だったため、悲劇を防ぐことはできず。

この時期、最も効果的に軍事介入に反対したのは国務次官のジョージ・ボール。

著者は彼をハト派というより欧州重視の現実主義者で、民主党内でアチソンの強硬路線とスティーヴンソン、ボールズのリベラル路線の中間に位置する人物としている。

その他、議会の有力議員であるフルブライトとマンスフィールド、副大統領のハンフリーも懐疑派であり、強硬派だったテーラー自身、北爆には賛成だが、地上軍派遣には反対の立場。

大統領リンドン・ジョンソンにも迷いが見られた。

1965年2月からの北爆は当初地上軍派遣回避のための手段とされたが、ハノイの態度は変化せず、かえって北ヴェトナム軍の南への浸透が激しくなり、現地指揮官ウェストモーランドに押し切られる形で、65年3月海兵隊がダナンに上陸。

これまでの南ヴェトナム軍に随行し指導する軍事顧問団と違って、地上戦闘部隊の派遣はこれが始めて。

同年4月に行なわれたドミニカへの軍事介入がさしたる支障もないまま成功したことも、介入への楽観論を助長した。

当初は北爆のための空軍基地防衛が任務とされたが、後には沿岸部拠点確保と限定的攻勢を経て、内陸部への索敵攻撃へとなし崩し的に任務が拡大される。

陸海空三軍はそれぞれの役割拡大のみを重視し、長期的総合的視野で政府に進言することが無かった。

南ヴェトナムでの事態はますます悪化し、65年末には政策の主導権は軍部に移り、最大で50万人超の米軍が派遣されながら、完全な泥沼化の状況を呈する。

ジョンソン大統領は孤立し、秘密主義の傾向が著しくなり、政権内部にも綻びが目立つようになる。

国務長官ラスクと駐南ヴェトナム大使バンカーが依然強硬論を貫き通したのに対し、66年補佐官マクジョージ・バンディが辞任、確信的な強硬派ロストウに代る。

同年ジョージ・ボールも辞任。

67年穏健化し軍事的ディスカレーションを模索した国防長官マクナマラが事実上更迭され、クラーク・クリフォードが就任。

68年テト攻勢により楽観論の誤りが白日の下に晒され、同年の大統領選で懐疑派のユージン・マッカーシー、ロバート・ケネディが出馬する中、ジョンソンは北爆停止と自身の出馬断念を発表。

結局民主党候補にはハンフリーが指名されるが、共和党候補ニクソンが辛勝。

本書は1972年までが叙述範囲であり、73年ニクソン、キッシンジャーがパリ和平協定に調印、米軍は撤退するが、著者の筆致は両者に対してもかなり厳しいものとなっている。

量は多いが内容はなかなか良く、比較的読みやすいと思う。

訳文もよくこなれている。

とにかく登場人物の描写が極めて巧みで、人物像の明快なイメージが深く脳裏に刻み込まれるのがよい。

それがあまりに流暢なのである種の単純化があるんではないかと、かえって警戒心を持つくらい。

これだけ知名度が高いのも頷ける出来。

ただアメリカの介入過程を詳細に分析する本であり、北ヴェトナムの政策決定、南ヴェトナム政局の変遷、ヴェトナム戦争の結末についてはかなり手薄。

特に南のグエン・ヴァン・チュー政権についての説明が欲しかった。

本書のような視点ではなく、ヴェトコンによるテロ活動や北ヴェトナムの軍事的浸透をより批判的に扱った本ももちろん読めばいいと思うが、立場の相違に関わらず本書の有益さに変わりは無いと感じる。

情報量から言って、高校世界史のヴェトナム現代史をマスターしていても、それだけで取り組むのは少しきついかもしれない。

何でもいいから国際政治史の概説を一冊読んでおくことを勧める。

それから取り掛かれば、知識を大幅に伸ばすことができる有益な本だと思います。

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