万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年7月27日

デイヴィッド・ハルバースタム 『ベスト&ブライテスト  中 ベトナムに沈む星条旗』 (二玄社)

Filed under: アメリカ — 万年初心者 @ 06:00

この巻は、1962年から北爆直前の64年まで。

ここで高校レベルのヴェトナム現代史を確認。

1945年  ヴェトナム民主共和国独立宣言

1946年  インドシナ戦争

1949年  ヴェトナム国(バオ・ダイ)、フランス連合内で独立

1954年  ジュネーヴ協定(北緯17度線分割)

1955年  ヴェトナム共和国(大統領ゴ・ディン・ディエム)

1960年  南ヴェトナム解放民族戦線(ヴェトコン)結成

1961年  米ケネディ民主党政権

1962年  米軍事顧問団活動

ここまでが上巻の内容。

ちなみにヴェトナム戦争というのは開始時期がよくわからないという、珍しい戦争である。

1965年米国の本格的軍事介入の時点を採るのは狭義に過ぎるし、南ヴェトナム政権に対する、北ヴェトナムと南の反政府勢力による非正規・ゲリラ戦争という性質から、はっきりとした年代を挙げることは難しい。

『国際政治経済の基礎知識』(有斐閣)の該当項目では、57年・59年・61年などの説を挙げている。

63年11月、腐敗と専制によって支持基盤を著しく狭めていたゴー・ジン・ジエム(ゴ・ディン・ディエム)と弟ゴー・ジン・ヌーの南ヴェトナム政権が、ズォン・ヴァン・ミン将軍によるクーデタによって打倒される。

その直後、ケネディ暗殺、副大統領リンドン・ジョンソンが大統領に昇格。

64年はじめ、グエン・カーン将軍の再クーデタ、同6月ウィリアム・ウェストモーランドがヴェトナム援助軍司令長官に就任。

希望的観測と半ば意図的な情勢判断の歪み、一枚岩の共産勢力とドミノ理論の幻想などに突き動かされて、徐々にヴェトナムの泥沼に嵌まり込む米国の姿を容赦なく描いている。

政策担当者が、主観的には軍部の主張を鵜呑みにせず妥協的判断を下したつもりであっても、実際には知らず知らず政策選択の幅を狭められ勝算の極めて薄い軍事的エスカレーションの途に傾いていく様相に、非常に強い印象を受ける。

政治が常に正確な情報を把握し、文民統制を徹底させてリーダーシップを確保しておくことの重要性を痛感させられる。

本書でのケネディへの評価は両義的である。

軍事介入への第一歩を踏み出したのは間違いなくケネディの決断だが、暗殺前にはヴェトナムを軍事的問題と見做すのではなくその政治的側面を重視し、一部撤退を考慮していたとしている。

なお本書の大きな特徴として、話の本筋の途中でかなりのページを割いて登場人物の描写をしていることが挙げられる。

これが実に巧みで、人物像が即座に脳裏に刻み込まれる。

例えばこの中巻では、国務長官ディーン・ラスクの履歴を語ることで、米ソ冷戦史のおさらいをしてくれている。

この説明もわかりやすく、非常に上手い。

この部分でつくづく思うのが、ジョージ・ケナンという人の偉大さ。

甘い平和主義でも無思慮な好戦主義でもない、本当の良識と叡智に基づく穏健な政策の提唱者として、知れば知るほど敬意と好感を覚えます。

国際関係・外交カテゴリに入っているものと『レーニン・スターリンと西方世界』『二十世紀を生きて』など、ケナンの著作は手当たりしだいにお読みになることをお勧めします。

64年8月トンキン湾事件。

これは高校世界史でも、やや詳しく教えられる場合出てくるが、実際どんな事件だったのかはあまり関係書が無く、本書の記述は貴重。

北の攻撃に向かった南ヴェトナム哨戒艇に随伴していた米駆逐艦が北の魚雷艇と交戦。

米駆逐艦が南の海軍と共同作戦を取っていると北が認識していると暗号解読で知りながら、米軍は作戦を続行し第二次攻撃を受ける。

南ヴェトナム海軍との事実上の共同作戦という事実を隠し、米艦が一方的攻撃を受けたと発表、ジョンソン政権は議会に軍事介入権限を与えることを要請。

この時決議取りまとめに結局応じた上院外交委員長フルブライトはのちに強固な政権反対派となる。

64年末大統領選挙でジョンソンは、極右的な共和党候補ゴールドウォーターに圧勝。

ヴェトナム軍事介入の流れがますます強まる中、それを押し止めようとした懐疑派としてロバート・ケネディ(大統領の弟・司法長官)、アヴェレル・ハリマン、マイケル・フォレスタル(トルーマン時代の初代国防長官ジェームズ・フォレスタルの息子)、ジョージ・ボール、ダニエル・エルズバーグ、ロジャー・ヒルズマン、ヘンリー・カボット・ロッジ、ウィリアム・トルーハート、ニコラス・カッツェンバック、ポール・カッテンバーグなどの名が挙げられている。

武断派のジョンソン、マクナマラ、バンディ兄弟、ラスク、テーラーらにも意見の揺れは見られるし、マクナマラの下にいたジョン・マックノートンなど半ば懐疑派に近い人物もいた。

しかし、総体としては悲劇的な介入への決断に徐々に追い込まれていくところで、本巻は終わる。

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