万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年7月24日

デイヴィッド・ハルバースタム 『ベスト&ブライテスト  上 栄光と興奮に憑かれて』 (二玄社)

Filed under: アメリカ — 万年初心者 @ 06:00

アメリカのヴェトナム戦争介入の悲劇を描写した本。

翻訳は上・中・下の3巻構成。

版元はサイマル出版会→朝日文庫→二玄社と移動している。

私は、ジャーナリストの書いた時事的同時代史はあまり好きではないんですが、これは一種古典的著作として非常に有名であり、かなり以前から書名も知っていたので、この際一度読んでおくかと手に取る。

表題通り、「最良にして最も聡明」な進歩的ケネディ・ジョンソン政権のスタッフがヴェトナムの泥沼へと足を踏み入れる過程を非常に詳細に描いている。

もし10年前に読んだら、視点がリベラル派(というか正確にはハト派)寄り過ぎるかという感想を持ったかもしれないが、その後小ブッシュとネオコンが「アメリカの保守派に対して持っていた漠然とした敬意」を木っ端微塵にしてくれたので、今読むと違和感はほとんど感じない。

そもそもこの本の視点は、中道・リベラルの支持を受けて誕生したケネディ民主党政権が、国内政治で保守派および共和党の攻撃をかわすためと、アメリカの力への過信と過剰な使命感によって、オーバーコミットメントと軍事優先策にのめり込んだことを批判するというものなので、共和・民主両党の対立の中で、極端に党派的な印象は受けない。

(タカ派・ハト派で言えば、圧倒的にハト派的著作とは言えると思うが。)

予備知識としては、1945~53年トルーマン民主党政権下で米ソ冷戦が激化、49年中国共産化と50年朝鮮戦争が米国内でマッカーシズムという反共ヒステリーを生み、これが足枷となって中華人民共和国承認やむなしとする現実主義派や、第三世界のナショナリズムに理解を示すリベラル派が逼塞、1953~61年アイゼンハワー共和党政権では軍事的対応を優先し中立主義を敵視する硬直した反共政策(ダレス外交)が続くが、60年にケネディが副大統領だった共和党候補ニクソンを破って大統領に当選、社会風潮に変化の兆しが現われつつあると思われた、というようなことだけ理解しておけばよい。

あと、巻頭にある関係年表の事項と年代は、高校教科書の範囲内のものが多いので、大体記憶することが望ましい。

この上巻は1960年暮れ、ケネディ政権発足準備期から61年末南ヴェトナムへの軍事顧問団派遣まで。

以下、内容メモ代わりの登場人物リスト。

(あくまで私的知識と関心に基づいているので偏っていて網羅的ではないですが。)

ロバート・ロヴェット=トルーマン政権で一時国防長官。政権準備期のケネディにマクナマラ、ラスクなどを推薦。

ディーン・アチソン=トルーマン政権国務長官。フルブライトなどと並んで民主党内の伝統主義派。

チェスター・ボールズ=民主党内リベラル派の大物。ケネディ政権初期の国務次官。

アドレイ・スティーヴンソン=ヒューバート・ハンフリーと並んで民主党リベラル派の重鎮。52・56年の大統領選でアイゼンハワーに敗北。ケネディ政権では国連大使。(ファーストネームはアンドレイと書いてる本も見た覚えがある。)

ディーン・ラスク=ケネディ政権国務長官。定見とリーダーシップの無い人物として本書での評価は甚だ低い。

マクジョージ・バンディ=ケネディ政権国家安全保障担当大統領補佐官。同補佐官代理(のち国務省政策企画局長)のウォルト・ロストウ、中巻で詳しく扱われる国防長官ロバート・マクナマラと共にタイトル通りの「秀才エリート」だが、歴史的視野の無いしばしば不正確で意図的誤りを含む統計数字に基づいた、狭い範囲の合理性と効率性を盲信し、アメリカの国力(特に空軍力の効果)を過信し、思慮に欠ける軍事的積極策を採る人物として、本巻では批判の対象とされている。兄のウィリアム・バンディものちに民主党政権入り。

アヴェレル・ハリマン=ソ連専門家のベテラン外交官。第二次大戦終結時の駐ソ大使。鉄道王ハリマンの息子。米外交界の長老だが、ケネディ政権では当初無任所大使という低いポスト。ラオス中立化交渉をまとめる。賢明な自制を説く人物として、本書での記述は好意的である。

ジョン・デイヴィス、ジョン・サーヴィス、ジョン・ヴィンセント=マッカーシズムの中、「容共的」との嫌疑がかけられ国務省を追われたアジア専門家。

ジョセフ・オルソップ=国務省攻撃の最初の引き鉄を引いたタカ派ジャーナリスト。しかし後にマッカーシー批判者に。

マシュー・リッジウェイ=朝鮮戦争中のマッカーサー解任後の後任者。1954年アイゼンハワー政権時代、フランス敗北寸前に陸軍参謀総長として統合参謀本部議長ラドフォードらに反対、インドシナへの軍事介入を阻止する。この上巻では最も高く評価されている人物。

マクスウェル・テーラー=ケネディ政権では当初軍事問題担当大統領特使、後に統合参謀本部議長。南ヴェトナム訪問後に書いた報告が軍事顧問団派遣につながり介入の第一歩となったため、駐南ヴェトナム大使ノルディング、南ヴェトナム援助軍司令部ハーキンズ将軍などと並んで、極めて厳しく評価されている。

エドワード・ランズデール=空軍からCIAに出向したインドシナ専門家。当初は現実離れした楽観論を持つが後には南ヴェトナムのゴ・ディン・ディエム体制の問題点を直視する両義的人物といった描写だったと思う。

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