万年初心者のための世界史ブックガイド

2010年3月6日

J・L・ガディス 『冷戦 その歴史と問題点』 (彩流社)

Filed under: 国際関係・外交 — 万年初心者 @ 06:00

著者名のカタカナ表記がやや違いますが、『ロング・ピース』(芦書房)の著者と同一人物です。

他に『歴史としての冷戦』(慶應義塾大学出版会)(邦題がルイス・J・ハレーの本と同じ)も出ています。

この『歴史としての~』は叙述範囲が限られており、1962年キューバ危機までで、しかもやや読みにくい印象を得ていたので、代わりに記事タイトルの本を読んでみることにしました。

原著は2005年刊、冷戦後に入学してきた若い学生向けに書いたテキストだそうです。

結論を言うと、悪くは無いが期待したほどでも無いといった感じ。

第二次世界大戦直後から1990年代初頭まで、冷戦の全期間が扱われているものの、米ソ両大国指導層と国民の情勢認識や心理状態に焦点を絞って叙述が進められており、他の主要国も含めた細かな事実関係の記述ではさして得るところがない。

高校教科書の戦後史の部分をマスターしていればなんとか読みこなせるレベルではあるが、現代史テキストとしての網羅性は低く、本書だけでは明らかに不十分。

基礎的なことが頭に入った人がざっと読んで、新たな史的解釈を得るための本と言うべきではないでしょうか。

「訳者あとがき」でも書いているが、年代順に事実を記すのではなく、ある問題点を取り上げてその説明の中で史実を並べていくという形式。

その話の展開の仕方は(特に前半の章は)かなり上手いと思う。

第1章「恐怖への回帰」は大戦終結から朝鮮戦争まで、冷戦最初の5年間における米ソ対立の展開。

第2章「死のボートと救命艇」、核兵器の出現による「恐怖の均衡」成立、それによる抑止作用。

第3章「命令と自発性」、米ソのイデオロギー対立。

第4章「自立性の出現」、東西両陣営での中国とフランスの自立化傾向、米中接近。

第5章「公正さの復活」、ウォーターゲート事件、CIAの工作活動をめぐるアメリカ国内の政治的道義性に関する議論と1975年ヘルシンキ全欧安保協力会議の人権条項がソ連圏にもたらした影響など。

第6章「主役たち」、1970年末から二極体制の状況を動かすのに貢献したレーガン、サッチャー、ワレサ、ヨハネ・パウロ2世などの活動。

第7章「希望の勝利」、1989年東欧共産圏崩壊と冷戦の終結。

個人的感想だが、気になった点を記すと、スターリン政権など全体主義体制を表わすのに「権威主義」という言葉を用い、それと民主主義を対比させていることに何とも言えない違和感。

国際政治の本でそういうことに拘ってもしょうがないのかもしれないが、少々首を傾げた。

なお、本書での著者の見解について書くと、自国の欠点や失敗を十分認めながらも、基本的にアメリカの果たした役割に高い評価を与えている。

極端な夜郎自大的主張には思えないのでそれはまあいいんですが、気になる人がいるかもしれない。

ただ私としては、「ナチズムと共産主義を封じ込めて崩壊させたアメリカの役割は十分認めますが、しかしそれを民主主義の勝利とするのは如何なもんでしょうか、左右の全体主義はあなた方が嫌う君主や貴族の堕落ではなく、民衆の愚劣さや狂信が生み出したものですよね」と一言釘を刺したくなる。

版形が大きく300ページ余りあるが、比較的読みやすい。

補助的テキストとして使用するなら、それなりに役に立つと思います。

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