万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年12月19日

塩野七生 『ローマ人の物語35・36・37 最後の努力』 (新潮文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 06:00

例年通り夏に文庫化された今年の分を、数ヶ月経ってようやく通読。

つくづく思うことが、やはり読みやすい。

どんなにやる気の出ない時でも、このシリーズ(特に文庫版)はスラスラ読める。

単行本の1、2巻を読んだ時のように、何の留保もなく絶賛する気持ちはかなり薄れているのだが、この読みやすさだけは認めざるを得ない。

本書はディオクレティアヌス帝とコンスタンティヌス大帝を扱った巻。

単行本では13巻目、残り2巻しかないが、それで4世紀前半(337年)コンスタンティヌスの死までか、毎回思うことだがやはりペースが遅いなあ、全巻の末尾は常識的に考えれば476年西ローマ帝国滅亡までだろう、これでちゃんと終わるのかね、と単行本を立ち読みしたときには思っていた。

(結局、最後は西ローマ滅亡ではなく別の時点になったわけですが、該当巻が文庫化されるまでネタバレはやめておきましょう。)

内容的に、まず何より挙げるべき特徴は、ディオクレティアヌス・コンスタンティヌス両者の事業が、ほぼ全て否定的に扱われていること。

共和政から帝政への移行を、歴史の必然であったとしつこいほど繰り返し説いてきた著者であるが、前期帝政から後期帝政への移行においては、やはりある種の「堕落」を認める立場の模様。

取り上げられている皇帝は、ディオクレティアヌス、マクシミアヌス、ガレリウス、コンスタンティウス・クロルス(1世)、セヴェルス、マクシミヌス・ダイア(ダヤ)、コンスタンティヌス(1世・のちの大帝)、マクセンティウス、リキニウス。

この時代にディオクレティアヌスが四分統治制(テトラルキア)を導入、東方正帝・副帝、西方正帝・副帝の四人が帝国を統治する体制となる。

その中で以上の皇帝たちが正帝になったり、副帝になったり、引退したり、病死したり、敗死したりする経緯はやや複雑だが、物語としてかなり面白い。

年代として、ディオクレティアヌスの登位284年は覚えた方がいいでしょうし、せめて3世紀末だということは頭に入れておく。

紆余曲折を経て、313年ミラノ勅令の時点では帝国西部はコンスタンティヌス1世単独統治、東部はリキニウスとマクシミヌス・ダヤが分立、ミラノ勅令は同盟関係を結んだコンスタンティヌスとリキニウスの共同声明の形で出されたもの。

リキニウスがマクシミヌス・ダヤを倒し帝国東部を完全に支配するが、315年コンスタンティヌスに敗れドナウ流域領を喪失、その後しばらく小康状態が続くが324年コンスタンティヌスはリキニウスを打倒、帝国全土を単独支配下に置いた後、325年ニケーア公会議、330年コンスタンティノープル遷都。

人名区別として初心者が注意すべき点は、コンスタンティウス・クロルス(1世)の息子がコンスタンティヌス(1世・大帝)。

父親がコンスタン「ティウス」、息子がコンスタン「ティヌス」。

少し先走りますが、次巻で出てくるであろう、コンスタンティヌス大帝の三人の息子たちが、コンスタンティヌス(2世)、コンスタンティウス(2世)、コンスタンスであり、もうややこしいことこの上ないが、仕方ないのでしっかり記憶する。

四分統治制導入当初、東方正帝ディオクレティアヌスと並んで西方正帝の位に就いたマクシミアヌスと、その両者の引退後東方正帝ガレリウスの下で、東方副帝に起用されたマクシミヌス・ダヤもご注意。

最初がマクシミ「アヌス」、後者がマクシミ「ヌス」。

マクシミヌス・ダヤについては、前巻『迷走する帝国』で出てきた、アレクサンデル・セヴェルス帝暗殺後に即位したマクシミヌス・トラクスがいるので、それぞれ添え名で区別して下さい。

なおそのマクシミヌス・トラクスに反対して立った諸皇帝のうち、ブピエヌス帝のことをギボン『ローマ帝国衰亡史』では、「マクシムス」帝と表記しており、それでさらにややこしい思いがしたのを覚えている。

マクシミアヌスの息子がマクセンティウス。

これも多分次巻で出てくると思うが、コンスタンスを殺して一時期帝国西部を支配した僭帝マグネンティウスと上記マクセンティウスを混同しないようにする。

最初西方副帝となり、コンスタンティウス・クロルス死後西方正帝に挙げられたが、すぐにマクセンティウスによって攻められ敗死したセヴェルスを『終わりの始まり』に出てくるセプティミウス・セヴェルス、上記『迷走する帝国』のアレクサンデル・セヴェルスと区別したいのだが、本書でもギボン『衰亡史』でも単にセヴェルスとしか載っていない。

仕方ないので、久しぶりに『古代ローマ人名事典』を引いてみると、フラヴィウス・ヴァレリアヌス・セヴェルスと書いてあった。

(直後のローマ字綴りではヴァレリアヌスではなく、ヴァレリウスに見えるんですが・・・・・。それとこれ、どれが個人名なんですかね?ヴァレリウス?通常は個人名・氏族名・家名の順だといっても、後期帝政期には命名法に混乱があったそうだし、フラヴィウスが個人名とは思えないんですが。)

とんでもない値段なのでなかなか思い切れなかったが、買って手元に置いておくとこの事典はたまに役立つ。

内容面に話を戻すと、帝国衰亡の原因として、軍制・税制など制度史の話は頻繁に出てくるが、コロヌス・コロナートゥスがどうとかいう狭い意味での経済史の話が出てこない。

(コンスタンティヌス大帝の職業世襲化令などは記されているが、コロヌスという言葉自体全然見た覚えが無い。)

また著者自身とも親交があった高坂正堯氏が『文明が衰亡するとき』の第一部古代ローマの章で展開した衰亡論のうち、大きな部分を占めるローマ帝国の「大衆社会化現象」という切り口のような叙述も、本巻含め、このシリーズにはほとんど見られない気がする。

結論。

やはり面白いことは間違いない。

この巻も十分読ませる。

最初の方の巻と違って、完璧な出来の入門書とは言えないかもしれないが、初心者が読んで損をしたと思うことはまず無い。

さて、残り2巻ですか。

次でいよいよ背教者ユリアヌス帝が登場しますね。

来年夏が、大変楽しみです。

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