万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年6月22日

井上寿一 『昭和史の逆説』 (新潮新書)

Filed under: 近代日本 — 万年初心者 @ 06:00

このレーベルはあまり読みたい本が無いんですが、これは例外的に気になっていたので読んでみました。

全7章で昭和改元から敗戦までの政治外交史を概観する本。

「山東出兵は国際協調が目的だった」、「松岡洋右は国際連盟脱退に反対していた」、「戦争を支持したのは労働者、農民、女性だった」というような意外性に満ちた章名。

といって、殊更奇を衒ったいい加減なものではなく、内容は非常にしっかりしている。

当時の政策担当者の視点に立って、情勢の把握と選択の幅を体感させてくれる記述。

連盟脱退や1930~37年の国内政治状況の説明は特にわかりやすく、目の冴えるような思いがした。

個人的な感想を述べると、戦前の歴史を反省する際、軍の暴走や国内のテロリズム、極端な国粋主義の蔓延などの事象の根底には常に、過激で偏狭で得体の知れない世論や大衆心理があったのだから、「民主主義と言論の自由が無かったから、ああなったんだ」という形でまとめるのは、やはり根本的に間違ってるんじゃないかと思いました。

大正デモクラシーが無ければ、昭和の軍国主義も無かったはずだというのは言い過ぎでしょうか。

世論の主流が唱えるお題目が、戦前は右寄りで、戦後はずっと左寄りで、ここ最近はまた右寄りになってきても、その底にある群集心理こそが一番危険なものだということに変わりはないのでは・・・・・(私など間違いなくその種の群集の一員ですが)。

だから「左の大衆運動は間違いだったが、右の大衆運動は正しい」とは全く思わない(もちろんその逆も同じ)。

100%そう信じ込んでる威勢のいい人たちを見ると、バークこの引用文を思い出す。

閑話休題。

各章が時代順に整然と配列されており、章の始めに該当範囲内数年ごとの簡易年表が挿入されているのも親切。

張作霖爆殺事件など、抜け落ちている史実もあるが、200ページほどのボリュームに過ぎない新書版としては、驚くほど網羅性が高い。

これは素晴らしい。

対象となる読者層は幅広く、文章は平易で読みやすいが、得られる効用は極めて大きい。

新潮新書は安直な作りの本が多いなという印象を持っていましたが、本書に関してだけは当てはまりません。

買いましょう。

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