万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年5月30日

臼井勝美 『新版 日中戦争 和平か戦線拡大か』 (中公新書)

Filed under: 近代日本 — 万年初心者 @ 06:00

日中戦争について、出来るだけ感情を交えず冷静に史実を描写した本がないかなと探していたところ、灯台下暗しで中公新書にこういう本があった。

1967年刊行の旧版を改訂して2000年に出されたもの。

三部構成で、第一期は1933年塘沽(タンクー)停戦協定による満州事変の一応の終結から37年まで。

第二期は37年7月盧溝橋事件と日中開戦から41年まで。

第三期は41年12月日米戦争勃発から45年日本の敗戦まで。

以上、ごく常識的な区分に沿って細かく説明されている。

第一期では、満州事変以来の日中対立が一時緩和し、両国関係の改善が見込まれたにも関わらず、35年5月頃から始まった日本陸軍の華北自治工作とそれを黙認する高圧的な日本外交によって日中関係が急激に悪化していく様が叙述される。

『広田弘毅』(中公新書)での評価と同じく、本書でもこの時期長く外相を務めた広田と外務次官の重光葵に対する評価は相当厳しい。

私も本書を読んで重光へかなり悪い感情を持つようになってしまった。

岡崎久彦『重光・東郷とその時代』(PHP文庫)では、そんな感じを受けた記憶が全然無いんですが・・・・・。実際その本では重光をマイナスには評価していないのか、私が読みこなせてないのか、単に内容を忘れているだけなのか、わかりません。)

それに対して南京中央政府の実力を認め、中国の統一を阻害せず、満州国の存続という日本にとっての絶対条件のみを固守した上で、蒋介石政権との対話を主張した有吉明駐中国公使、佐藤尚武外相(1937年2月~6月林銑十郎内閣)を著者は高く評価しているようである。

第二期、37年6月近衛文麿内閣成立、7月7日盧溝橋事件勃発、冀察政務委員会委員長宋哲元との交渉で一時現地停戦協定が結ばれるが、日中両軍の衝突は収まらず、8月始め北平(北京)・天津地方を日本軍が制圧、8月半ば第二次上海事変。

長期戦の惧れを考慮しない「対中一撃論」と華北の勢力圏化に拘る姿勢で初期の和平工作は失敗を重ね、戦火は拡大の一途を辿る。

11月杭州・上海方面の中国軍が総退却、12月には南京陥落。

(気になる方がいるかもしれませんので、一応書いておきますが南京事件の記述はごく常識的なもので、左右の極論に流されていません。)

38年1月山東省占領、5月華北と華中の間の要衝である徐州も占領するが、中国軍大部隊を捕捉・殲滅することはできず。

同じ5月に近衛内閣改造、和平推進派の宇垣一成が外相となるが、関東軍から転身してきた、蒋介石と国民党への不信と軽侮に凝り固まっている板垣征四郎と東条英機がそれぞれ陸相と次官になったことによる悪影響に著者は言及している。

10月の武漢および広東の占領で日本の軍事進出はとりあえずの頂点に達するが、事態は完全に泥沼化し、収拾の目途が一切立たなくなる。

以後、中国を屈服させることもできず、それを背後で支える米英の仲介を経て和平に至ろうとするが、その交渉が失敗すると、フランス降伏という好機に乗じて、対独接近による威嚇に走るが、かえってそれに足を取られて米英との決定的対立に直面してしまう。

この辺の極東情勢と欧州情勢がリンクする経緯は他の多くの本でも載ってますが、本書でも熟読して頭に入れましょう。

また近衛以後、平沼・阿部・米内の中間的性格の内閣、第二次・第三次近衛および東条内閣の成立年度や主要史実も憶えた方がいいです。

第三期は端折りますが、ビルマ・ルートをめぐる戦いや1944年の一号作戦(大陸打通作戦)などの描写が興味深い。

基礎に忠実かつ地道な記述でなかなか良い。

高すぎず、低すぎもしない、この程度のレベルなら、多くの人にとって裨益するところが大きいでしょう。

初心者は、自分の考えと違うところがあっても、事実関係の基礎を身に付けるため素直に本書に就いて学ぶべき。

それだけのしっかりした内容を持っています。

広告

WordPress.com で無料サイトやブログを作成.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。