万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年5月20日

小野理子 『女帝のロシア』 (岩波新書)

Filed under: ロシア — 万年初心者 @ 06:00

1994年刊。

18世紀のロマノフ朝ロシアでは、女帝の治世が非常に多かった。

まずピョートル大帝の死後、妻のエカチェリーナ1世が即位したのを皮切りに、姪のアンナ、娘のエリザヴェータが間を置いて在位し、エリザヴェータの甥で養子となったピョートル3世と結婚したエカチェリーナ2世がトリを務める。

タイトルからすると、これら4人の女帝をすべて取り上げてくれているのかなとも思ったが、最初の3人はほんの付け足しで、実質的にはエカチェリーナ2世単独の伝記となっている。

この点、ややガックリきたが、内容自体は悪くない。

著者は、アンリ・トロワイヤ『女帝エカテリーナ 上・下』(中公文庫)に記されている淫蕩で策謀家で抑圧的な専制君主というイメージを本書の中で何度も批判している。

しかし、私個人の印象では、以上のトロワイヤの伝記は同じロシア皇帝伝シリーズの中ではまだマシな方。

このトロワイヤという人は、革命後亡命した家族に生まれたロシア系フランス人という出自のせいでボリシェヴィズムだけでなく、ロシアの伝統に対しても「偏見」に近いような視線で眺めている気がする。

『イヴァン雷帝』『大帝ピョートル』は陰惨な記述があまりに多く(特に前者)、読んでいて嫌になる内容だし、だいぶ時代の下がった『アレクサンドル1世』にも西欧から一方的に見下した教条主義的批判を感じる。

しかし、上記の『女帝エカテリーナ』だけは明らかに読後感が違う。

賢明な啓蒙君主といった印象を強く受ける記述であり、ロマノフ朝では最高の名君ではないかとさえ思った。

トロワイヤの本の中では唯一強くお勧めできます。

話を『女帝のロシア』に戻しますと、この本でもやはりエカチェリーナ2世の功績を高く評価し、その人物に同情的な評価を与えています。

グリゴーリイ・オルローフ、スタニスワフ・ポニャトフスキ、グリゴーリイ・ポチョムキンらの寵臣、ヴォロンツォーフ家出身で後にロシア・アカデミー初代総裁となったエカテリーナ・ダーシコワなどの協力者たちの群像を交えて、その治世を手際よくまとめている。

エカチェリーナの出自や最後のポーランド国王との関係など、意外な史実がありますが、お読みになる前に皆様が興醒めしてはいけませんので、ネタバレはやめておきます。

枝葉の部分が多く煩瑣で冗長なトロワイヤの本よりも、本書の方がコンパクトで話の展開が速いので、退屈しない。

高校レベルの次に読む伝記としては、こちらの方がいいでしょう。

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