万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年4月22日

石井美樹子 『王妃エレアノール』 (朝日選書)

Filed under: イギリス, フランス — 万年初心者 @ 06:00

『世界史のための文献案内』(山川出版社)を眺めてて、たまたまタイトルが目に付いたので、これを読んでみた。

12世紀に生きたフランス王妃の伝記。

1988年に平凡社から同じタイトルで出たものの増補改訂版で1994年刊。

この王妃は名前を知っている人の方が珍しいくらいだし、そもそも夫のルイ7世自体が高校世界史で出てくる人物ではない。

ルイの息子のフィリップ2世は必ず記憶しなければならない重要な国王だが、フィリップはルイと別の妃との間に生まれた子供であり、エレアノールの実子ではない。

では、なぜこういう人物を主人公にした結構な厚さの伝記を読む気になったのかというと、彼女がルイ7世と離婚し、実家である広大なアキテーヌ公領を婚資として、後にイギリス国王ヘンリ2世となるアンジュー伯ヘンリと再婚し、リチャード1世とジョン王の母となったため。

あの高校世界史でも出てくる、「フランスの西半分がイギリス王の封土」という状況を作った女性とも言えるのだから、考えてみれば超重要人物である。

アキテーヌ公爵家は代々ポワトゥー伯爵とガスコーニュ公爵を兼ね、現在のフランスのおよそ四分の一を占める大諸侯で、パリ周辺のイル・ド・フランスのみを領有するカペー王家よりも強勢を誇っていた。

王権強化のために、アキテーヌのエレアノールとカペー王家のルイの政略結婚が行なわれるが、夫妻揃って行軍した第2回十字軍が完全な失敗に終わった後、性格の不一致などがあり別離。

フランス東部の雄シャンパーニュ伯と並ぶ有力諸侯アンジュー伯ヘンリと再婚したことにより、ノルマン朝以来の支配地ノルマンディーを含めて、英仏海峡からピレネー山脈に至る広大な「アンジュー帝国」が出現する。

(息子の結婚で大西洋に突き出た半島のブルターニュも勢力下に入れたように書かれているから本当にフランス西半分全てがイングランドと同一の君主に統治された状態になっている。)

離婚後もルイ7世は男子に恵まれず、その娘がエレアノールとヘンリ2世の間の王子(名は父と同じヘンリ、のち父より先に死去)と結婚していたので、場合によっては英仏両国が完全に一人の君主の下に統合される可能性すらあったらしい。

しかしルイの三度目の結婚でフィリップ2世が生まれ、彼がジョン王から大陸の領土のほとんどを奪い返すのは高校教科書の通り。

その前から父のヘンリ2世およびヘンリ王子、リチャード、ジェフリー(ブルターニュ公女と結婚)、ジョンら息子の間には紛争が絶えず、この不和をフランス王に利用されて、アンジュー帝国はあっけなく瓦解する。

ちなみにエレアノールの娘とカスティリャ王アルフォンソ8世との間に生まれた娘がフィリップ2世の息子ルイ8世と結婚し、その両者から聖王ルイ9世が生まれることになります。

これはとても良い。

人物描写が非常に鮮やかで巧みであり、良質の歴史小説を思わせる。

大変読みやすく、史実が明解なイメージを伴って、頭に深く刻み込まれる。

話の本筋だけでなく、周辺的な事項も丁寧に論じられており、曖昧さを感じない。

この辺の時代は複数国に跨る王家間の婚姻関係が複雑でわかりにくいが、詳細な家系図を添え、親切に繰り返し言及するので理解しやすい。

400ページ超と選書にしてはかなり長いが、ほとんど苦にならない。

一日一章のペースで読めば無理なく通読できるでしょう。

中世ヨーロッパ史として相当の名著だと思います。

しかし、これが新刊書店で手に入らないのは痛い。

痛すぎる。

刊行から15年も経てばやむを得ないのかもしれませんが・・・・・。

まずは図書館で借り出して、ご一読下さい。

それで気に入って、ネット古書店で非常識な価格でなければ、注文して手元に置いておくのも悪くないと思います。

広告

WordPress.com で無料サイトやブログを作成.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。