万年初心者のための世界史ブックガイド

2009年3月26日

塩野七生 『ローマ人の物語 32・33・34 迷走する帝国』 (新潮文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 06:00

去年の夏、文庫化された分を今ごろ通読。

前半の巻が単行本として刊行されていた頃は、毎年出るのを待ちかねて必ず発売日に購入したものだったが、後半に入るとかなりテンションが下がって一刻も早く読みたいという気持ちが薄れ気味です。

とは言え、この巻を読み始めると、やはり巧いなあという感想を持ちます。

読者を飽きさせず物語に引き込む話術はさすが。

本書の対象範囲は、セプティミウス・セヴェルス帝の死からディオクレティアヌスの登位まで。

「3世紀の危機」と「軍人皇帝」の時代であり、多数の皇帝が即位する端から次々に暗殺され、帝国が大混乱に陥った状況を描写している。

登場する皇帝は、カラカラ、ゲタ、マクリヌス、エラガバルス、アレクサンデル・セヴェルス、マクシミヌス・トラクス、ゴルディアヌス1世、同2世、バルビヌス、プピエヌス、ゴルディアヌス3世、フィリップス・アラブス、デキウス、トレボニアヌス・ガルス、アエミリアヌス、ヴァレリアヌス、ガリエヌス、クラウディウス・ゴティクス、アウレリアヌス、タキトゥス、フロリアヌス、プロブス、カルス、カリヌス、ヌメリアヌス、ディオクレティアヌス(一部本書の表記を変更)。

以上、何も見ずに書けましたが、たぶん2週間もすればまた忘れるでしょう。

そういう私が言うのも何ですが、西ローマ滅亡までのローマ皇帝は可能な限り全部憶えた方がいいと思います。

この『ローマ人の物語』シリーズやギボン『ローマ帝国衰亡史』という最良のテキストがありますので、初心者でも不可能なことではないです。

以上メモした皇帝のうち、高校教科書にも出てくるのは大浴場建設と全自由民に市民権を付与したアントニヌス勅令で有名なカラカラと、ササン朝ペルシアのシャープール1世に敗れ捕虜になるという不名誉によって記憶されてしまったヴァレリアヌスだけですね。

以前、後者のヴァレリアヌスについては、その敗北がローマ帝国衰退の顕われとして象徴的なんだろうけど、高校レベルでわざわざ名前を出さなきゃいけない人物なのかなと疑問に思っていたんですが、260年に起こったこれは当時やはり驚天動地の大事件だったようで、以後西のガリア帝国と東のパルミラ王国が独立することによってローマ帝国は事実上三分裂し、ゴート族・アレマンニ族・フランク族などの蛮族が帝国の中枢部にまで侵攻する大混乱が巻き起こってます。

とにかくほとんどの皇帝がわずか数年の在位ののち、軍によって暗殺されるということが常態となっていた時代であり、自然死を迎えた皇帝の方が珍しい。

しかし、それでいて絵に描いたような暴君・愚帝はエラガバルスくらいしかいないのが面白い。

ギボン『衰亡史』では、カラカラはカリグラ・ネロ・コンモドゥスと同列の暴帝、マクシミヌス・トラクスは有能な軍人ではあるが残忍で圧制的という評価だったはずだが、本書では両者のマイナス面はあまり触れられていない。

クラウディウス・ゴティクスやプロブスなど相当の名君に思えるし、本書での評価はやや低いが、アレクサンデル・セヴェルスも従兄弟のエラガバルスとは大違いに良心的な青年皇帝ではある。

(アレクサンデル・セヴェルスについて『衰亡史』ではかなり高評価で、「背教者」ユリアヌス帝を賞賛する部分で、アレクサンデル・セヴェルス帝以来久しぶりにその任に相応しい徳性を持った人物といったような文があったはず。)

そしてこの時代で何より特筆すべき皇帝はアウレリアヌス。

短い在位期間中に東奔西走し、上記のガリア帝国・パルミラ王国を打倒、蛮族を撃退し、ローマ帝国を再統一する活躍を見せる。

このアウレリアヌスの事績はギボン『衰亡史』で読んだ時、極めて痛快に感じて強い印象を受けたのをはっきり憶えている。

この人は高校教科書に名前を載せてもいいくらい重要だと思う。

(初心者はこうやって皇帝の月旦評をあれこれ考えながら読み進むのが楽しいんですよねえ。)

何だかんだ言って、やはり面白い。

専門家から見ていろいろ問題があるというのは素人にも想像がつくが、しかし初心者向けの歴史読物としての効用は否定できない。

著者の論評を100%鵜呑みにしないのを前提にして純粋に愉しみのために読むのなら何も問題ないはず。

初心者がこれを読まないという選択肢は事実上無いでしょう。

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