万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年9月3日

山崎元一 『古代インドの文明と社会 (世界の歴史3)』 (中央公論社)

Filed under: インド, 全集 — 万年初心者 @ 06:00

先史時代からデリー・スルタン朝成立までのインド史。

これは良い。非常に良い。

ごくオーソドックスな形式の通史で非常に読みやすい。

政治・経済・社会・文化、それぞれの歴史が絶妙のバランスで配分され、読者の視野を大きく広げてくれる。

全般的に極めて練られた叙述でとてもわかりやすい。

高校世界史からステップアップできる適当なレベルまでは詳しく、その範囲内ではいかなる曖昧さも残さない説明がなされている。

この時代の大きなテーマであるバラモン教・ジャイナ教・仏教・ヒンドゥー教など諸宗教の盛衰についても明解で取っ付きやすい記述。

例えば仏教に関しては、僧・伽藍・祗園・旦那・菩薩・観音などの言葉の由来と原義を述べているのが興味深い。

これはむしろよくある定番の記述なのかもしれないが、私にとっては十分面白い。

また仏教など新興勢力の挑戦を受けたヒンドゥー教が、ヴァルナ制度を部分的に変容させ、形勢を挽回した経緯もわかりやすい。

古代においてはバラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャの三者が「再生族」でシュードラが「一生族」とされていたのが、中世以降シュードラをも排除せず祭典・儀式に組み込み、一方不可蝕民への排除は強まった。

その過程で教義は大衆化され村落での日常生活に深く結び付けられたヒンドゥー教は、行為や知識よりも熱情的帰依を強調するバクティ信仰の助けも得て仏教を吸収し、後のイスラム教侵入にも耐える力を蓄えた。

なお本書では、インド独立後のアンベードカルによるカースト制批判のための仏教改宗運動も記しているが、最後にヒンドゥー教に対して非常にバランスの取れた穏当な見方を示しているのに注目される。

政治史的部分もよく整理された説明で有益。

グプタ朝滅亡後のわかりにくい情勢も明解に記述されている。

ヴァルダナ朝と前期チャールキヤ朝、パッラヴァ朝の鼎立から、プラティーハーラ朝・パーラ朝・ラーシュトラクータ朝の三つ巴の争いに移る。

プラティーハーラ朝は北インド西部と中部を基盤としたラージプート族の国で都はカナウジ。

ラージプート族とはかつてエフタルと共にインドに入った中央アジア系民族がバラモンの支持を得て古来からのクシャトリヤの身分を主張したもの。

イスラム教徒の侵入に対する防壁となっていたが、11世紀初頭ガズナ朝の征服王マフムードに都が占領されて以後衰退。

パーラ朝はベンガルにあった国家で、インド仏教文化最後の華を咲かせた。

ラーシュトラクータ朝は前期チャールキヤ朝を8世紀半ば滅ぼしデカンを支配し、パッラヴァ朝を圧迫したが、10世紀後半に後期チャールキヤ朝に滅ぼされた。

なおパッラヴァ朝は9世紀末チョーラ朝に滅ぼされる。

この辺は王朝の数が多すぎてややこしいことこの上ないが、(単行本では)285ページに700~1200年までに興亡した王朝を記した地図が載せられているので十分に参照して、そのうち本文に記載のあるものだけ憶えればいいでしょう。

これは本当に素晴らしい。

読んでいて難渋さを感じることは全くと言っていいほど無い。

入門書としてはかなりの充実ぶり。

世界史全集の中の一巻として「これこれ、こういうのを求めてたんですよ」と思わず膝を打ちたくなる。

他の巻も本書と同じような叙述だったらいいのになあと思いました。

強く推奨させて頂きます。

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