万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年9月28日

伊原弘 梅村坦 『宋と中央ユーラシア (世界の歴史7)』 (中央公論社)

Filed under: 全集, 中国, 中央アジア — 万年初心者 @ 06:00

北宋・南宋および遼・金・西夏史の巻。

タイトルには現れないが、高麗時代の朝鮮史と雲南の大理国の歴史にも一章が割り当てられている。

第1部の宋史では、冒頭の中国史における宋王朝の意義などに触れた部分が非常に面白く、大きな期待を持たせたが、それも一瞬だけ。

やはりこの巻でも、社会史・経済史・生活史の比重が極めて高く、どうにも爽快感の無い記述。

昔ながらの物語的歴史などは書くつもりはないので別の本で済ませて下さいという事なのかもしれないが、別の本といってもそれほど適切な本が多くあるわけではない。

結局、旧版の宮崎市定『宋と元』でも引っ張り出してくるしかなかったりする。

本書の社会史的記述が全然興味が持てないとか面白くないということはない。

この時代の農民が、地主や王朝に一方的に搾取されて食うや食わずの貧困状態だったというのは実態とはかけ離れているとか、意外な見解を知る部分もある。

しかし、果たしてこれが初心者が最初に読むべき本でしょうか。

「向こう岸にはこういう豊かで面白い世界がありますよ」と言われながら、その間の川に架かっている橋は落とされているといった感がしないでもない。

(下手な喩えですみませんが。)

なお、第1部の終章が高麗・大理国史なのだが、大理国はともかく高麗史が10ページに満たないのは如何なもんでしょうか・・・・・・。

配分がかなりおかしくないですか・・・・・?

前にも書きましたが、やっぱり朝鮮史は独立の一巻を立てるべきだったんじゃないでしょうか。

北アジア・中央アジア史の第2部に入ってもあまり叙述の質は変わりませんねえ。

840年にウイグルがキルギスに破れて、モンゴル高原の覇権を失い、西走して中央アジアに定住し、この地域のトルコ化が進んで「トルキスタン」が成立したということは教科書にも書いてあります。

高校教科書には出ていませんが、そのウイグル人が建てた国が「天山ウイグル王国」であり、この国は、東は遼・西夏のちに金、西はカラ・ハン朝、カラ・キタイ(西遼)に接し、最後はチンギス・ハンに服属する。

本書ではこの国を詳しく取り上げて、その社会、通商、文化に関してかなりのページを割いている。

これも悪いとは言いませんけど、遼・金・西夏の記述量と比べると、やはりアンバランスさは否めない。

この巻も、通読は容易だが不完全燃焼といった感じ。

今風の概説と、自分が求めている初心者向け基本書とのギャップを改めて思い知らされた。

これまで読んだ巻では、イスラム史やインド史など、そもそも出回っている本が少なく、自分自身も知識が特に乏しい分野はかなり面白いと感じたが、中国史やヨーロッパ史などの伝統的分野はやはり厳しい。

私の好き嫌いが激しすぎるのかもしれませんが、この種の社会史中心の概説はどうしても合いません。

私ほど偏った嗜好を持っていない方にとっては良質な入門書と言えるのかもしれませんが。

2008年9月24日

吉成薫 『エジプト王国三千年』 (講談社選書メチエ)

Filed under: オリエント — 万年初心者 @ 06:00

統一国家形成からプトレマイオス朝までの古代エジプト史。

図書館でたまたま見かけて立ち読みしたところ、かなり面白そうだったので買ってみました。

冒頭から三分の二が通常の通史であり、残り三分の一が文化史に当てられており、なかなかバランスの取れた構成。

しかし、読んだ感想は、「決して悪くはないが期待した程でもなかった」といったところ。

前半の政治史の部分に、やや省略と粗さを感じる。

中公新版第1巻『人類の起源と古代オリエント』のエジプト史の章に比べるとやや落ちる気がする。

大部の本ではないが、一応エジプトだけを対象としているのだから、もう少し細かなところまでフォローしてくれればもっと良かったのにと思いました。

しかし、42ページから44ページにある年表は良く出来ている。

主要な王朝名と王名を組み込んだ年表で非常にわかりやすい。

本文を読みながら参照したり、後で眺めて復習したりすれば、極めて有益。

文化史の章では、私の苦手な暦の話があって理解しにくかったり、文芸作品のタイトルとあらすじがズラズラ並べられていたりと、やや苦しい部分もありましたが、古代エジプト人の生活を知る上で、読めばそれなりに役立つでしょう。

必読とまでは言いませんが、まあまあの内容を持つ本ではないでしょうか。

以下、私的備忘録。

前3000年頃 初期王朝時代 第1王朝メネス(ナルメル)王エジプト統一

前2650年頃 古王国時代

前2550年頃 第4王朝 クフ、カフラー、メンカウラー王の三大ピラミッド

前2200年頃 第一中間期 州侯割拠 ヘラクレオポリス侯とテーベ侯の対立

前2040年頃 中王国時代 第11王朝 メンチュヘテプ2世による全国統一

前1991年頃 宰相のクーデタにより第12王朝成立 アメンエムハト1世

前1780年頃 第二中間期

前1650年頃 ヒクソスの第15王朝

(本書ではヒクソスは突発的な侵入・征服ではなく、傭兵などとして徐々にエジプト社会に浸透した末にクーデタで王権を奪取したという解釈がなされている。)

前1540年頃 新王国時代 第18王朝イアフメス王がヒクソス放逐

前1500年頃 トトメス1世、ユーフラテス河畔まで進出

前1470年頃 トトメス3世、義母ハトシェプスト女王に代わって単独統治開始 アジア遠征 ミタンニと戦う

前1360年頃 アメンヘテプ4世(アクエンアテン)によるアマルナ宗教改革

前1345年頃 トゥトアンクアメン(ツタンカーメン)王によるアメン信仰復興

前1305年頃 ラメセス1世 第19王朝開始

前1285年頃 ラメセス2世 カデシュでヒッタイトと戦う

前1070年頃 末期王朝時代

前950年頃 リビア系のシェションク1世、第22王朝樹立

前730年頃 ピイ王率いるクシュ人侵入、第25王朝成立

前671年 アッシリア王エサルハドン侵入 その後アッシュル・バニパル王も侵入

前655年 プサメティコス1世、第26王朝樹立 アッシリアから独立

前525年 アケメネス朝カンビュセス2世侵入

前404年 第28王朝のアミュルタイオス王、ペルシアから独立

前341年 ペルシア王アルタクセルクセス3世、エジプト再征服。

前332年 アレクサンドロス大王、エジプトを占領。

2008年9月20日

桜井万里子 本村凌二 『ギリシアとローマ (世界の歴史5)』 (中央公論社)

Filed under: ギリシア, ローマ, 全集 — 万年初心者 @ 06:00

旧版と同じタイトルの西洋古典古代の巻。

全16巻の旧版なら古典古代が一巻にまとめてあって当然だが、全30巻の新版ならギリシアに一巻、ローマに一巻割り当てても全然おかしくない。

全24巻の河出版でもそうなってる。

しかしこの中公新版ではこれまで軽視されてきた地域の歴史を重点的にカバーする意図からか、従来の世界史全集の一つの山場であった西洋古代史を一巻のみに止めている。

この辺は入門書も、ヘロドトストゥキュディデスはじめ初心者が読める古典的著作も多いし、そうした中ではっきりとした特色と意義のある概説を書くというのは、執筆者にとってかなりのプレッシャーを与える課題ではないかと思う。

本巻が果たしてそれに成功しているか、読了した感想を言いますと・・・・・・「微妙」。

読んでみると「普通」としか言いようが無い。

不十分極まるとは言え、あれこれと関連本を読んでいるので、それに加えてこれを読んでも大して強い印象は受けない。

そもそも細かなデータの掘り下げが圧倒的に不足している。

時代の重要性や史料の豊富さ、今までの研究の蓄積からして、面白い歴史物語を叙述しようと思えばいくらでも可能な分野のはずなのに、このような簡略な通史で済まされたのは非常に残念。

これまでの世界史全集とは異なる記述配分をという意図はわかるが、やはりギリシアとローマを一つにまとめたのは無理があるというか、もったいないというか。

「時代錯誤のヨーロッパ中心主義」という汚名を着ても、ギリシア・ローマで三巻くらい費やしても良かった気がする。

ただ、高校世界史を学んだ以外全く白紙の読者が読めば、比較的良くまとまった通史ということになるのかもしれない。

従来から論じ尽くされてきた分野において、基礎的な史実には全て言及し、物語的面白さは落とさず、定説としての史的解釈と新しい学説を共に紹介しながら、極めて限られた紙数に収めるなんてことは誰がやっても至難の業でしょうから、本書はまだしも成功している方なのかも。

特に本村氏執筆のローマ史の部分はそう思える。

個々の記述で気の付いたことを挙げれば、まずミケーネ文明衰退の原因として、昔の教科書で触れられているドーリア人の侵入ではなく、同時期ヒッタイトを滅ぼした「海の民」の活動を示唆している。

他には、以下の文章を読んで隙を突かれた。

ホメロスの叙事詩で歌われているトロイア戦争は、スパルタ王メネラオスの妻ヘレネをトロイアの王子パリスが誘拐したことを発端にしているが、そのスパルタはアカイア人による王国である。ポリスとしてのスパルタはそれとは違い、ドーリス人がミケーネ時代にスパルタ王国のあったラコニア地方に建設したのだった。

こんなことは物の判った人には常識なのかもしれないが、私自身は盲点を突かれた思いだった。

ローマ史では、前287年ホルテンシウス法によって元老院の承認抜きでその議決が国法となると定められた平民会とはすなわちトリブス民会で、それに対し富者優位だったのがケントゥリア民会(兵員会)であるのを再確認。

短いページながら著名な皇帝の人物像にも軽く触れられており、私の好きなアウグストゥスとユリアヌスについて好意的記述がなされているのが少し嬉しかった。

繰り返しますが、叙述の出来自体はさほど悪くないです。

欠点としては紙数が少ない。それに尽きます。

著者にこれの3倍くらいのページを与えて思う存分執筆してもらえば、もっと面白くなったろうにと思います。

2008年9月17日

川北稔 『砂糖の世界史』 (岩波ジュニア新書)

Filed under: 近現代概説 — 万年初心者 @ 06:00

またまたジュニア新書。読むのが楽ですからね・・・・・。

以前紹介した角山栄『茶の世界史』(中公新書)と似たタイプの本。

カリブ海諸島・ブラジルの砂糖キビ・プランテーションとアフリカ奴隷貿易、イギリス商業革命・産業革命との関わり合いを平易に説明してくれている。

社会史・生活史・経済史を程よくブレンドして、読者の新たな視野を啓いてくれる本。

なかなか評判の良い本らしい。

個人的には目の冴えるような面白さは無かった気がするが・・・・・。

しかし通読して決して無駄にはならない本ではあると思いますので、皆様もどうぞ。

2008年9月13日

小川英雄 山本由美子 『オリエント世界の発展 (世界の歴史4)』 (中央公論社)

Filed under: オリエント, 全集 — 万年初心者 @ 06:00

第1巻『人類の起源と古代オリエント』の続き。

メソポタミアとエジプト中心の前巻に対して、アナトリアとシリア・パレスチナを併せた「地中海アジア」とイラン高原が本書の地理的叙述範囲。

時代的にはヒッタイトの興亡からアケメネス朝の統一、アレクサンドロス大王の東征とヘレニズム時代を経て、パルティア・ササン朝とローマ東方領の抗争まで。

教科書ではオリエント史の章は大抵アケメネス朝までで区切られているが、このようにイスラムによる征服まで一気に通した方がわかりやすい。

全体的に読みやすいので、これも二日で読めた。

面白さの面ではまあまあじゃないですかね。

以下例によって大雑把な感想や私的備忘録を箇条書きに記します。

第1巻とは異なり、ミタンニ王国は原住フリ(フルリ)人の上にインド・ヨーロッパ語族系の支配層が重なった国という標準的記述になってる。

ヒッタイトはハットゥシリ1世(在位前1650~1620)によって古王国成立。混乱期の後再統一に成功したシュッピルリウマ1世(前1345~)即位によって新王国が成立するが、それはフルリ人の血が濃い古王国とは別系統の王朝で実質的にはフルリ人が支配層となっていた、と前項に比べると教科書的記述とは大いに異なり、「ええっ」と思うようなことが書かれている。

ヒッタイト王ムワタリ2世が前1286年カデシュでエジプト王ラムセス2世と戦う。ハットゥシリ3世はアッシリアからの脅威を受け、ラムセス2世との間に講和条約を結ぶ。

(以上のような古代オリエントの君主名は細かいですが、少しずつ憶えていきたいと思います。)

アラム語が内陸商業の発展につれて広範囲に普及し、イエス・キリストが日常使っていた言語もアラム語だというのは受験時代から教えられていましたが、これがどういう状況なのかいまいちうまくつかめない。ヘブライ語はもう(インドのサンスクリット語のように)旧約聖書という聖典を記した言葉であり、当時のユダヤ人の話し言葉としては使われていなかったということでしょうか。

メディア王プラオルテスの子キュアクサレスが新バビロニアのナボポラッサル王と同盟し前612年アッシリアを滅ぼし、ギュゲスを祖とするリディア王国のアリュアッテス王と国境を定める。

キュアクサレスの子アステュアゲスはアケメネス朝のキュロス2世に地位を奪われる。

本書でも少し触れられているが、以上の君主のうちギュゲスやアステュアゲス、キュロスそしてリディア最後の王クロイソスについてはヘロドトス『歴史』の冒頭の、極めて印象的で面白い挿話に出てきます。

別にこういう王名をいちいち憶えなくても、と思われる方も多いでしょうし、私もそう感じないではありません。

しかし様々な概説書を読んでいく上で、名前を丸暗記しただけの人物であっても、その知識が全体を理解するための足掛かりになるという経験を私自身は何度もしています。

不思議なもので、全く未知の歴史に関する文章のうち、知っている人名や事件が少数あるだけで通読や全体像の把握、経緯の記憶が格段に容易となることが多いのです。

高校世界史が暗記に偏っているとの批判をよく聞きますし、当たっている所も大いにあるでしょうが、通常の歴史書を読む準備段階として避けられないという面もあるのではないかと思います。

話が大きく逸れましたが、よって以下もその種のメモを続けます。

クセルクセス1世後のアケメネス朝の系図として、まず息子のアルタクセルクセス1世。アテネの使節カリアスと交渉し、「カリアスの平和」と呼ばれる平和条約締結。

クセルクセス2世の短期間在位を経て、その弟のダレイオス2世即位。ペロポネソス戦争に介入。

次はアルタクセルクセス2世。弟の小キュロスの反乱を鎮圧。これはクセノフォン『アナバシス』に詳しい。穏和な内外政策を取り四十余年の在位中安定した統治を実現。

アルタクセルクセス3世。前王時代に独立したエジプトを再征服するが、その司令官の宦官バゴアスに暗殺される。

息子のアルセスが即位するが、これもバゴアスに殺される。

傍系のダレイオス3世がバゴアスに擁立されるが、彼がバゴアスを殺し王朝の再建を図る。しかしまもなくアレクサンドロスの東征に遭い、アケメネス朝は滅亡。

疲れました・・・・・。パルティアとササン朝については細かな系図は避け、全体的なことだけ。

詳しくは、講談社旧版の足利惇氏『ペルシア帝国』を見たほうがいいかもしれない。

パルティアは東北部の遊牧系イラン人が建てた国家で、ササン朝はアケメネス朝の故地である南部ファールス地方の農耕系イラン人国家。

そのせいか、ササン朝は自らをアケメネス朝の正統を継ぐ国家と見做し、それに対してパルティアはヘレニズム文化の影響を受けた非イラン的な、アレクサンドロス帝国の後継国家と主張した。

著者によるとそれにはかなりの誇張があり、ササン朝によってペルシア的伝統とされた文化も実はパルティア時代に形成されたものが多かったそうで、パルティア時代とその前後とのはっきりとした断絶を認めない立場を取っている模様。

本書ではパルティアを「アルサケス朝」と記すことが多いのは、同王朝をアケメネス朝・ササン朝と同列に扱うという理由からだろうか。

他には、後に突厥と同盟してエフタルを滅ぼすホスロー1世が、最初は父王共々エフタルの援助を得て王位に就いていたとかの意外な史実が興味深い。

最後のローマ東方領についての記述は平凡。あまり面白くない。

総合的評価を点数にすると・・・・・・50点か60点ですかね。

可もなく不可もなくといった感じ。

挫折するほど悪くはないですから、さらっと済ませて次行きましょう。

2008年9月10日

中村元 田辺和子 『ブッダ物語』 (岩波ジュニア新書)

Filed under: インド — 万年初心者 @ 06:00

類書が続きます。

先日の『仏教入門』の原始仏教の部分を補強しようとこれを手に取る。

中高生向けのジュニア新書だけあって、非常に読みやすいガウタマ・シッダールタの伝記。

というか、小学校高学年でも読めるんじゃないですかね、これ。

表現は極めて平易ながら、著者の一人の中村元氏は偉大な仏教学者で世界的に有名な方のようですから、内容はしっかりしたものでしょう。

もっと取っ付きやすい本として手塚治虫の漫画『ブッダ 全12巻』(潮出版社ビジュアル文庫)を読んで、本書の記述との違いを探してみるのも良いでしょう。

中村氏は講談社旧版の「世界の歴史」と文春「大世界史」のインド史の巻も執筆されているようです。

氏に関するエピソードとして、執筆した「仏教大事典」の膨大な枚数の原稿が紛失したのでもう一度最初から書き直したという「伝説」をある本で読んだ記憶がありますが、本当なんでしょうか。

さて、本書で入門の入門を終えた後、仏教関係で何を読むべきか。

岩波文庫に中村氏の訳で『ブッダのことば スッタニパータ』『ブッダの真理のことば・感興のことば』『ブッダ最後の旅』といった原始仏典が収録されているが未読。

中央公論「世界の名著」に原始仏典および大乗仏典の巻がそれぞれあるようだが、これを読むのは相当キツそう。

『歎異抄』(岩波文庫)や『立正安国論』(講談社学術文庫)をはじめとする日本仏教の古典もなかなか読めそうにない。

せめて最初に挙げた『ブッダのことば』くらいは気の向いた時読んでみますか。

しかし、振り返ってみれば『聖書』も『論語』も『コーラン』も恥ずかしながらほとんど読んだことがない。

これらもそれぞれ中央公論「世界の名著」に該当巻があるようだが、たぶん読めないでしょうねえ・・・・。

2008年9月7日

松尾剛次 『仏教入門』 (岩波ジュニア新書)

Filed under: インド — 万年初心者 @ 06:00

宗教史について全く白紙の状態の読者が本当の初歩の初歩を知るために読む本として、世界の三大宗教のうちキリスト教とイスラム教に関しては、阿刀田高氏の『旧約聖書を知っていますか』『新約聖書を知っていますか』『コーランを知っていますか』があるが、『仏典を知っていますか』は出ていないのでこれを読む。

ジュニア新書だけあって、極めて読みやすい。

全体の半分以上が日本仏教の記述で占められており、原始仏教とその後のインド仏教については三分の一ほどのページが割かれているに過ぎない。

この点、世界史読書の面からするとアンバランスかもしれないが、日本仏教の部分も一般常識として知っておくべきことばかりなので読んでも無駄にはならないでしょう。

仏教について、高校の世界史や倫理の時間で習ったことしか知らない読者(つまり私)が読んで十分有益な内容。

その気になれば一日で読了できるし、図書館で一度借りてみても宜しいんじゃないでしょうか。

類書を挙げると本当にキリがないのですが、岩波刊のものとして、岩波新書の新赤版に同じタイトルの『仏教入門』が、青版に『仏教』『お経の話』が収録されているようです。

私も機会があれば読んでみたいと思います。

2008年9月3日

山崎元一 『古代インドの文明と社会 (世界の歴史3)』 (中央公論社)

Filed under: インド, 全集 — 万年初心者 @ 06:00

先史時代からデリー・スルタン朝成立までのインド史。

これは良い。非常に良い。

ごくオーソドックスな形式の通史で非常に読みやすい。

政治・経済・社会・文化、それぞれの歴史が絶妙のバランスで配分され、読者の視野を大きく広げてくれる。

全般的に極めて練られた叙述でとてもわかりやすい。

高校世界史からステップアップできる適当なレベルまでは詳しく、その範囲内ではいかなる曖昧さも残さない説明がなされている。

この時代の大きなテーマであるバラモン教・ジャイナ教・仏教・ヒンドゥー教など諸宗教の盛衰についても明解で取っ付きやすい記述。

例えば仏教に関しては、僧・伽藍・祗園・旦那・菩薩・観音などの言葉の由来と原義を述べているのが興味深い。

これはむしろよくある定番の記述なのかもしれないが、私にとっては十分面白い。

また仏教など新興勢力の挑戦を受けたヒンドゥー教が、ヴァルナ制度を部分的に変容させ、形勢を挽回した経緯もわかりやすい。

古代においてはバラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャの三者が「再生族」でシュードラが「一生族」とされていたのが、中世以降シュードラをも排除せず祭典・儀式に組み込み、一方不可蝕民への排除は強まった。

その過程で教義は大衆化され村落での日常生活に深く結び付けられたヒンドゥー教は、行為や知識よりも熱情的帰依を強調するバクティ信仰の助けも得て仏教を吸収し、後のイスラム教侵入にも耐える力を蓄えた。

なお本書では、インド独立後のアンベードカルによるカースト制批判のための仏教改宗運動も記しているが、最後にヒンドゥー教に対して非常にバランスの取れた穏当な見方を示しているのに注目される。

政治史的部分もよく整理された説明で有益。

グプタ朝滅亡後のわかりにくい情勢も明解に記述されている。

ヴァルダナ朝と前期チャールキヤ朝、パッラヴァ朝の鼎立から、プラティーハーラ朝・パーラ朝・ラーシュトラクータ朝の三つ巴の争いに移る。

プラティーハーラ朝は北インド西部と中部を基盤としたラージプート族の国で都はカナウジ。

ラージプート族とはかつてエフタルと共にインドに入った中央アジア系民族がバラモンの支持を得て古来からのクシャトリヤの身分を主張したもの。

イスラム教徒の侵入に対する防壁となっていたが、11世紀初頭ガズナ朝の征服王マフムードに都が占領されて以後衰退。

パーラ朝はベンガルにあった国家で、インド仏教文化最後の華を咲かせた。

ラーシュトラクータ朝は前期チャールキヤ朝を8世紀半ば滅ぼしデカンを支配し、パッラヴァ朝を圧迫したが、10世紀後半に後期チャールキヤ朝に滅ぼされた。

なおパッラヴァ朝は9世紀末チョーラ朝に滅ぼされる。

この辺は王朝の数が多すぎてややこしいことこの上ないが、(単行本では)285ページに700~1200年までに興亡した王朝を記した地図が載せられているので十分に参照して、そのうち本文に記載のあるものだけ憶えればいいでしょう。

これは本当に素晴らしい。

読んでいて難渋さを感じることは全くと言っていいほど無い。

入門書としてはかなりの充実ぶり。

世界史全集の中の一巻として「これこれ、こういうのを求めてたんですよ」と思わず膝を打ちたくなる。

他の巻も本書と同じような叙述だったらいいのになあと思いました。

強く推奨させて頂きます。

WordPress.com Blog.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。