万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年8月23日

尾形勇 平勢隆郎 『中華文明の誕生 (世界の歴史2)』 (中央公論社)

Filed under: 全集, 中国 — 万年初心者 @ 06:00

中国古代史の巻で、第1部が新石器時代・殷・周・春秋戦国、第2部が秦漢帝国。

第1部で暦を中心とする話が長々と続くのがひたすらだるい。

こんなことを細かく説明されても全然わからない。

精読してきちんと理解するなんて普通の読者には到底不可能。

私は徹底して読み飛ばしました。

そうでないと絶対挫折する。

ただ論旨が全く読み取れないわけではない。

『論語』や『春秋』といった古典は戦国時代に原型ができたものであり、その内容を遡及させて前代の歴史を再現しようとすると大きな過ちを犯すとか、君主の在位年代について戦国時代から創められた踰年(ゆねん)称元法がそれ以前の立年称元法が行われていた時代にも適用された結果、『史記』をはじめとする史書にある年代に多くの矛盾が生じることになったとかなど。

ちなみに踰年称元法とは前君主が死去した場合、その年は前君主の年として継続し、翌年正月をもって新君主の元年とする方法。

それに対して立年称元法とは前君主死去後、すみやかに新君主が即位し同時に元年とする方法で、現代日本もこれですね。

先帝崩御によって昭和64年は一週間だけの存在で、1989年は昭和64年であると同時に平成元年でもあるわけです。

踰年称元法が戦国時代に現れた意味として、前君主死去から新年までの期間が賢人による新君主即位予定者の補佐とその徳性資格認定の時期と見做されており、それが無条件の血統原理を相対化する働きをし、「下克上」の支配層交替をある程度正当化したからだと述べられている。

以上のような視点の紹介が無意味だとか全く興味が持てないとか言うつもりはない。

しかし初心者向けの世界史全集でこの種のことを延々講じられても徒労感だけが残る。

高校世界史をほぼマスターしている人であっても、古代中国については堯・舜も桀・紂も文王・武王・周公旦も春秋戦国の山ほどある逸話も知らないわけで、そういう読者のうち本書のような記述を求める人がどれだけいるのだろうか。

それに比べて中公旧版貝塚茂樹『古代文明の発見』が読物として極めて優れたものであったとつくづく感じる。

マトモな研究者としてそんな低レベルの歴史物語など書きたくないという気持ちはわかるが、あえてそれを押し殺して執筆するのが一般読者への親切というものではないでしょうか。

旧版は刊行後およそ半世紀にもなろうかという骨董品だし、何でもかんでも新版より秀でているなどと主張するつもりはないが、名の知れている一流の学者が初心者に向けて平易な物語風歴史叙述を、照れもなく淡々と書いてくれた時代はやはり幸福であったなあと感じてしまう。

現在それを実現しようと思ったら、とにかく編集者が著者によっぽどの強権を振るえる体制を取らないとダメですね。

結論として、第1部は本当にゲンナリします。

第2部に入るとごく普通の通史になり、かなりマシになる。

私は中国史の全ての人物のうちで前漢の高祖劉邦とその謀臣である張良が一番好きなので、この辺の話は、政治史・伝記の範囲に収まる限り、いくら詳しくても良いと感じる。

多くの人が三国志に持つくらいの興味を、個人的には秦末から漢王朝成立期に感じるので、劉邦とその臣下の細々した話をもっと載せて欲しいくらい。

以後三国時代までが範囲内だが、後漢の興亡は本書の記述でちょうどいいくらいだが、三国は一般的な予備知識を持っている人ならかなり退屈。

よって第2部は読みやすいが、やや物足りないといった印象。

第1巻に続いて、やはり良好な出来とは思えない。

第1部を飛ばし読みした結果、かなりのスピードで読んで二日で読了できたが、あまり充実感はない。

ただ最近の世界史全集だと、どうしてもこういう形式の記述になるのはやむを得ないんでしょうかねえ。

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