万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年8月5日

ジェームズ・ジョル 『第一次世界大戦の起源』 (みすず書房)

Filed under: 国際関係・外交 — 万年初心者 @ 06:00

似たタイトルのA・J・P・テイラー『第二次世界大戦の起源』(中央公論社)が、ヒトラーの戦争政策の計画性を否定して大論争を巻き起こした問題の書であるのに対して、こちらは手堅さを感じさせる内容。

だがその分、目の冴えるような鋭い記述や史的解釈は無く、著者自身の意見が控えめであり、やや明解さを欠く叙述が続き、論旨が掴みにくい。

大戦の原因に関するいくつかの見解を挙げながらその限界も指摘するが、その代わりにこれが正しいという説をはっきりと主張するわけでもない。

ちょっと言い過ぎかもしれないし、安易な説を当然視して大声で主張するよりはるかにいいでしょうが、ボーっとしながら読み進むだけだと、読了後何も頭に入ってないということにもなりかねないのでご注意。

というか、それがまさに私です。

途中から気合を入れて、特筆すべきポイントをできるだけ意識して読み取るようにしました。

まず1914年サライェヴォ事件以後の7月危機とそれに先立つ諸列強の外交を概観。

それから大戦の原因・背景の分析に移るが、まず硬直した軍事計画が規定事実とされ、それが危機における政治家と外交官の交渉の余地を狭めていたことを記す。

当時の主要兵站手段であった鉄道輸送に合わせた動員計画が柔軟性を欠いたため、外交交渉のタイムリミットが著しく切迫し、ついに各国の宣戦を地滑り的に誘発したといったことを他の本で読んだ記憶があるが、本書ではその辺り特に詳しい記述がない。

なお、この硬直した軍事計画に政治が引きずられた弊害として一番有名なのはドイツのシュリーフェン・プランですが、『ドイツ帝国の興亡』(平凡社)でセバスティアン・ハフナーが対露対仏二正面攻勢とイギリスの参戦を確実にするベルギー中立侵犯を当然視し、それ以外の作戦計画を放棄したドイツ参謀本部の姿勢を犯罪的とまで言って強く批判しています。

真ん中の「国際経済」の章では、軍需産業と金融資本が国際対立と戦争を惹き起こしたとするマルクス主義者の荒っぽい経済決定論に疑問を投げかけている。

結局、各国の指導者と国民双方に共通する精神状況に大戦勃発の主要背景を見ている模様。

膨張それ自身を目的とし必ずしも経済的利害に基かない帝国主義、俗流ダーウィン主義の生存競争説の国際関係への適用、野放図なナショナリズム、激しい相互不信とそれに伴う軍備拡張、外交危機の続発とそれから生じた「早く決着をつけたい」という大衆心理、近代科学技術に支えられた戦争の破壊規模への無理解など。

やはりドイツの責任に言及することが多いが、他国のそれに比べバランスを失しない程度であり、「プロイセン軍国主義」にすべての責任を被せるようなことはない。

1960年代にフリッツ・フィッシャーという学者が『世界強国への道』という本を出して、第二次大戦のみならず第一次大戦でもドイツの指導的政治家は世界制覇の野心を抱いており、それが大戦の原因だという(あえてわかりやすく言えば「自虐的な」)説を主張し、フィッシャー論争と言われる大きな問題になったそうですが、著者はフィッシャー説に同意しているようには全く見えない。

基本的に俗受けしやすい安易な説に距離を置くという懐疑心を感じた。

よって悪くない本だとは思います。

なお、以上の要約というか感想はもしかして私の誤読が含まれている可能性がありますので鵜呑みになさらないで下さい。

類書としては、大戦自体の経緯を記したA・J・P・テイラー『第一次世界大戦 目で見る戦史』(新評論)があります。

これより詳しいものとしては、リデル・ハート『第一次世界大戦 上・下』(中央公論新社)。(同著者で『第二次世界大戦 上・下』(中央公論新社)もあり。)

大戦の俯瞰的考察に関しては、ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)の該当章を是非。

短いページでよくもこれまでというほど密度の濃い、含蓄のある叙述であり、深く納得させられます。

このケナンの本は初心者必読と思われます。

以上のうち、リデル・ハートの本は両方とも私は未読です。

読むべきだなとは思ってるんですがね・・・・・。

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