万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年7月5日

藤沢道郎 『メディチ家はなぜ栄えたか』 (講談社選書メチエ)

Filed under: イタリア — 万年初心者 @ 06:00

フィレンツェ共和国を事実上支配し、ルネサンスのパトロンとしても有名な一族の盛衰をコジモ・デ・メディチを中心に叙述した本。

14世紀末毛織物工業労働者の反乱であるチョンピの乱で、メディチ家は労働者に同情的態度を取り、寡頭的共和政の主導権を握る上流階級から白眼視されながらも、下層階級からは根強い支持を受ける。

15世紀初頭ジョヴァンニ・デ・メディチが家業の銀行業を大いに発展させ、教会大分裂(シスマ)時の混乱を利用して、自行を教皇庁のメインバンクにすることに成功、巨万の富を築く。

その子のコジモは一族最大の偉才であり、1434年ライバルのアルビッツィ家を打倒、共和制の政治システムを保存しながらも、実質的にはフィレンツェの君主となる。

ミラノ公国・ヴェネツィア共和国・フィレンツェ共和国・教皇領・ナポリ王国という当時のイタリア五大国のうち、特にフィレンツェとミラノは激しく対立していた。

コジモはミラノ公国のヴィスコンティ家断絶を見越してフランチェスコ・スフォルツァの公位継承を支援し、それに加えて1453年ビザンツ帝国滅亡によるトルコの脅威増大も梃子にして、1454年五大国すべてが参加するローディの和を締結。

以後、1494年フランス王シャルル8世がイタリアに侵攻し、イタリア戦争が勃発するまでの40年間平和が維持され、ルネサンスは全盛期を迎える。

他にコジモの文化面での功績として、ブルネレスキ、ドナテルロなどに対する支援について述べられている。

コジモ以後のメディチ家の歴史に関しては簡略な記述。

子のピエロがコジモの遺産を何とか守りきった後、孫のロレンツォ(イル・マニフィコ=「壮麗な」という添え名で知られる)の代となる。

この大ロレンツォの時代をメディチ家全盛期とする見方もあるが、著者はそう考えてはいないようだ。

ロレンツォ死後はシャルル8世の仏軍侵入のあおりを受け、メディチ家は失脚、サヴォナローラの神政的独裁が生まれる。

後、ロレンツォの次男のジョバンニが教皇レオ10世に、甥のジュリオがクレメンス7世に即位するが、メディチ家の企業家・文化のパトロンとしての活力は失われていった。

文章が明解でわかりやすく、なかなか面白い。

文化史の章は私には晦渋なところもあったが、大体何を言いたいかはわかる。

ごく良質な世界史啓蒙書と言えるでしょう。

なお藤沢道郎氏は『物語イタリアの歴史』『同 Ⅱ』の著者でもあります。

このうち前者は中公新書の『物語 歴史』シリーズの最高傑作だと思います。

カノッサ女伯マティルデ、作曲家ヴェルディなど高校世界史レベルではさして重要とは思えない人物を含む10人の伝記で各時代を生き生きと描き切り、しかも教科書に載っているような重要事件は洩れなく記述し網羅性は確保するという離れ業を見事に成功させている。

大学時代、刊行当初の本書を偶然生協書店で見かけて何の気無しに通読し、そのあまりの面白さに驚嘆しました。

初心者が絶対に読むべき本の一つだと思います。

他の著作としては『ファシズムの誕生 ムッソリーニのローマ進軍』(中央公論社)がありますが、こちらは非常に大部な本で、ムッソリーニ政権成立時にのみ特化した史書のようですので今のところ敬遠しております。

藤沢氏のもう一つの顔はインドロ・モンタネッリの『ローマの歴史』および『ルネサンスの歴史』の訳者であります。

この二つの著作も初学者必読。

『ルネサンスの歴史』の訳者あとがきで藤沢氏は以下のように述べています。

普通の人間が歴史に興味を持つ動機は、何と言っても歴史に登場する人物の魅力であって、歴史法則でもなければ思想の流れでもなく、いわんや経済社会的な統計資料でもない。明治以来戦前まで、『プルターク英雄伝』の翻訳が、西洋古代史への日本人の関心をかき立て、その知識の普及にいかに寄与しかかを思い出すのも無駄ではあるまい。

こういう観点から一般常識としての平易な歴史書を出版する意義を強調していた方で、個人的には本当に心から共感し感謝していた方でした。

先日書いたことの繰り返しで、しつこくて申し訳ありませんが、このモンタネッリのイタリア史シリーズの翻訳を何とか完結させてもらえないでしょうか。

「実は藤沢氏が試訳を残されてましたので、適切な監修者が手を入れて出版します」なんてことがあれば最高なんですが、それはいくらなんでもあり得ない勝手な空想でしょう。

中央公論新社編集者の方に新規翻訳を是非企画して頂きたいものであります。

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