万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年7月1日

山内昌之 『近代イスラームの挑戦 (世界の歴史20)』 (中公文庫)

Filed under: イスラム・中東, 全集 — 万年初心者 @ 06:00

先日に続いて今日も再読本(以前ごく簡単に記事にした単行本版はこちら)。

19世紀を中心にした衰退期のイスラム世界の歴史。

この著者の書くものは政治的価値判断の偏りがなく、非常にバランスが取れているという印象があるが、本書でもその特色が遺憾なく発揮されている。

イスラム世界の前に立ちはだかった近代ヨーロッパが持っていた自由・繁栄・進歩および圧迫・差別・植民地支配の両面性を全編通じて常に意識した叙述。

例えば、『アメリカの民主主義』の著者であるアレクシス・トクヴィルのような明晰な知性が、イスラム教に対して極めて素朴な蔑視と敵意を持ち、アルジェリアに対するフランスの帝国主義的行動を完全に肯定していた事実を挙げる。

(ただ、同じトクヴィルの『フランス二月革命の日々』を読むと、1848年革命でのハンガリー独立運動の指導者コッシュートの引渡しを求めるロシアに対して、毅然として拒否の姿勢を貫いたオスマン帝国を賞賛し、このイスラム教徒たちはロシア人よりもはるかにキリスト教の博愛精神を持っていると評している。)

他にロシアの中央アジア進出に伴う圧政と強引な同化政策を批判すると同時に、衛生面での顕著な改善や奴隷制度の廃止などの事実も記している。

ヨーロッパによる侵略・支配を告発するだけでなく、イスラム社会の側の腐敗・圧政・怠惰・停滞をこれでもかというほど詳細に描いている。

また、イスラム世界が熱い視線を寄せた近代日本の偉業を肯定的に扱う一方、明治後期の日本が徐々に自ら帝国主義化し、ヨーロッパと同じような視点でイスラム・アジア圏を眺めるようになったことも書いている。

このようにどんな立場の人が読んでも、一部は得心がいき、一部は疑問を覚えるという叙述であり、それがバランスが取れている証拠と言えるのではないでしょうか。

記述方法の点では、江戸時代の「オランダ風説書」や幕末明治の日本人の紀行文などを多数採用して、この時代のイスラム史を同時代の日本人がどのように見ていたのかを記しているのに特色がある。

ただ、そういう工夫や様々な角度からの背景説明に紙数を割きすぎて、いわゆる「事件史」的叙述はごくあっさりと済まされており、教科書にも載っているような重要史実について、印象深く脳裏に刻み込まれるという感じはあまりしない。

したがって、読み終えると充実感は確かにあるのだが、通常の政治史についていろいろ細かい知識を得て、それが頭の中で再現できるという意味の効用は少ない。

それが欠点と言えば欠点ですが、ただこれは私個人のかなり偏った感想である可能性がありますので、ある程度割り引いて読んでください。

基本的には良書だと思いますので、皆様もどうぞ。

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