万年初心者のための世界史ブックガイド

2008年5月10日

村嶋英治 『ピブーン (現代アジアの肖像9)』 (岩波書店)

Filed under: 東南アジア — 万年初心者 @ 06:00

第二次大戦を挟んで二度首相になったピブンの伝記という形を借りたタイ現代史。

東南アジア諸国のうちでも、この国の政治的賢明さはずば抜けている。

帝国主義時代に独立を守ったこともそうだし、第二次大戦を最少の犠牲で乗り切ったこともそう。

戦後、東の隣国が過激な社会実験の地獄を見て、西の隣国が退嬰的な閉鎖体制の中に落ち込んでいったのに対して、安定した繁栄の道をたどることができたのもそう。

もちろん内部には少なからぬ軋轢もあったが、戦争と革命に引き裂かれた他の東南アジア諸国に比べれば、(そして日本と比べても)一度も国を誤ったことがないとの評価は当たっている。

19世紀後半からラーマ4世モンクット王、ラーマ5世チュラーロンコーン王と名君が二代続き、近代化政策を進め、東南アジアで唯一独立を維持する。

1910年6世ワチラーウット王即位。

第一次大戦に参戦し、列強との不平等条約の改定を進める。

この時期に限らず、本書を通じて要職に就いている人物で「~親王」という名がやたらと出てくる。

複婚制度のため王族の数が非常に多く、絶対王政時代には各種高官は親王によって占められていたので、覚えにくいし頭が混乱する。

今もサウジアラビアなんかはそんな感じですが。

幸い巻頭に王族一覧表が載っているので頻繁に参照しましょう。

この表は他の本を読む時にも役に立ちそうですね。

個人的にはこれだけで本書を買う価値があると思える。

1925年6世王死去、同母弟の7世プラチャーティポック王即位。

西欧思想の影響で、立憲政治を求める動きが強まる。

地方自治制導入や欽定憲法制定の試みもあったが、その前に人民党を名乗るグループによって1932年立憲革命が起こる。

革命後人民党の内部対立が始まり、33年計画経済の信奉者で左派色の強いプリディが追放される。

その後陸軍の人民党メンバーのうち、プリディ派との和解・妥協を支持するパホンと反対するソンが対立、二番手グループだったピブンが漁夫の利を占め軍内の影響力を強める。

パホンを担いだピブンがクーデタを起こし実権掌握、プリディは帰国し政府復帰、反革命派のボーウォラデート親王の反乱も鎮圧、翌34年にピブンは国防相就任。

35年人民党の専制に反対してプラチャーティポック王退位。

立憲革命の主導勢力たる人民党が議会制民主主義への移行を先延ばしし、暫定的な権威主義体制を続けたのに対し、国王が反対したため以後も王室が政治的自由の象徴としての求心力を持つことになった。

後継国王は7世の異母兄弟の子で幼少の8世アーナンタマヒドン王。

38年ピブン首相就任。

40年フランス降伏と日本軍の北部仏印進駐を機に、失地回復を目論む。

41年カンボジア西部の旧領土を回復、太平洋戦争開戦直後進攻した日本軍と短期間の交戦後、同盟関係に入り英米に宣戦。

戦況が不利になると日本と距離を置き始め、連合国と連絡。

44年ピブン辞任、摂政としてプリディが巧みに舵を取り、連合国から敗戦国ではなく被占領国としての扱いを受けることに成功する。

しかし46年8世王が自室で銃により謎の死を遂げると、無実のプリディにあらぬ嫌疑がかけられ、それを利用して47年ピブン派軍人がクーデタで政権奪取。

(後継国王は同母弟の9世プミポン国王。この方が現在も在位し国民の絶大な支持と敬意を集めている。)

翌48年ピブンが首相復帰。49年、51年の反対派クーデタを失敗させ長期政権続投を目論むが、57年不正選挙批判で反政府デモが起こる中、サリット元帥のクーデタでピブン政権は崩壊。

ピブンは日本に亡命し、64年死去。

内容が詳しく、かなり面白い。

しかし立憲革命前後だけが非常に詳細で、ピブンの首相就任から戦後の第二次政権まではあっさりと済まされているのが玉に瑕か。

それとピブン単独ではなく、サリット、タノム、プラパートなどの軍人政治家を一緒に記述してくれれば、対象時代範囲も広がってより便利だったんですが。

それだと紙数がとても足らないということもあるんでしょうね。

幸い、柿崎一郎『物語タイの歴史』(中公新書)がありますので、戦後タイ史はこれで補強して下さい。

本書もいい本だと思いますし、初心者が読めばかなり有益でしょう。

あと、今気付いたんですが、この「現代アジアの肖像」シリーズにはなぜかカンボジアの巻が無いですね。

シアヌークという絶好の対象人物がいて、この人の経歴をたどればカンボジア現代史が全部叙述できるはずなんですが。

まあ別の本を探しましょう。

広告

WordPress.com で無料サイトやブログを作成.

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。