万年初心者のための世界史ブックガイド

2007年9月12日

塩野七生 『ローマ人の物語 29・30・31 終わりの始まり』 (新潮文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 06:00

文庫版で出ているのは今のところ、この巻までです。

アントニヌス・ピウスの治世の復習から始まり、哲人皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスを経て、混迷の軍人皇帝時代初期まで。

タイトル通りこの巻から帝国衰亡の叙述に入るが、そこに五賢帝最後の二人を入れていることからわかるように、両アントニヌス帝への著者の評価はかなり低い。

冒頭でアントニヌス・ピウスに改めて触れているが、前巻ではあっさりした感じで肯定的でも否定的でもなく簡単に済ませていたのが、本書では相当厳しい記述。

個人としては温和で良心的な人物であっても、皇帝としては、前任者ハドリアヌスの遺産をただ食い潰して必要な措置を取らず、後世に大きな問題を先送りした人という評価である。

続くマルクス・アントニヌス帝もその高潔な人格に賛辞を呈されるものの、有能な統治者とは認められていない。

ただし息子のコンモドゥス(コモドゥス)に帝位を継承させたことを失敗とは断じていない。

そうしなければ間違いなく内乱の危険があったとしている。

南川高志『ローマ五賢帝』(講談社現代新書)でも、五賢帝時代の「養子相続制」など実際には存在しなかった、単にマルクス帝までの四人に男の実子がいなかっただけの話だと書いてあった。

とは言えコンモドゥスが史上ネロ、カリグラと並ぶ暴君の汚名を着たことも事実である。

世界史上、「不肖の息子」は数あれど、「親との落差」という点では疑いなく最悪レベルではないか。

コンモドゥス暗殺の後、ペルティナクス、ディディウス・ユリアヌスの短期の治世を経て、帝国はブリタニアのクロディウス・アルビヌス、シリアのペスケンニウス・ニゲル、パンノニアのセプティミウス・セヴェルスの三者間の内戦に突入する。

結局セヴェルスがニゲル、アルビヌスを各個撃破し、帝国の秩序と統一を回復するが、その政策は軍人階層の社会からの隔離と特権化、中央政府の財政破綻を促し、後世に大きな問題を残す。

この巻は結構面白いです。両アントニヌス帝への評価など意外な記述が多く、興味をそそられる。

物語の展開と著者の史的批評がよく組み合わさっており、良質な啓蒙書として十二分に使える。

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