万年初心者のための世界史ブックガイド

2007年5月8日

岡倉徹志 『サウジアラビア現代史』 (文春新書)

Filed under: イスラム・中東 — 万年初心者 @ 06:00

9・11同時テロ前年に書かれたサウジアラビア史。

冒頭で1998年ケニア・タンザニア米大使館爆破テロの主犯としてすでに悪名高かった、サウジ出身のウサマ・ビン・ラディンに触れている。

18世紀砂漠の小規模な宗教国家に過ぎなかった第一次ワッハーブ王国から、第一次大戦後ハーシム家をメッカ・メディナから追い出しアラビア半島の大部分を統一したイブン・サウード(本書での表記はアブドゥルアジーズ)の功業までがわかりやすく叙述されている。

また電信電話、自動車、飛行機など近代文明の一切を拒否する宗教厳格派との闘争が建国当初から続いていたことも書かれており、現在の原理主義者と政府の対立の根の深さを思い知らされる。

石油資源の発見と欧米大資本への接近、莫大な石油収入を利用した社会政策などの記述はやや退屈だが、フムフムと言いながら軽く流す。

第二次大戦後、サウジ王国は建国の経緯からイラクとヨルダンの二つのハーシム家王国を敵視し、革命後急進的アラブ民族主義路線を取るナセル統治下のエジプトとの接近も厭わない。

ところが1958年イラク革命でハーシム王国の一つが滅亡すると、自らの君主制が揺らぐのを危惧したサウジはナセルのエジプトと激しく対立するようになり、イエメンの内戦を始めとして資金援助を主たる武器に、あらゆる地域で急進派の膨張を防ぐアラブ穏健派の雄となる。

そしてナセル死後、指導者となったサダトの功もありエジプトはやがて穏健派諸国の一員となり、中東の安定化に大いに資することとなる。

しかし一方でアラブ民族主義の旗印を急進派に独占させないためにイスラエルに対しては厳しい態度を取り続け、1973年第四次中東戦争では遂に石油戦略を発動、全世界で石油危機を引き起こす。

以上の経緯は非常によく書けており、簡にして要を得た説明で、初心者でもわかりやすい。

1979年のイラン革命によるシーア派原理主義と、1990年のイラク軍クウェート侵攻によるサダム・フセインという二つの脅威に直面して王国はアメリカとの関係をかつて無いほど深める。

それに反発してビン・ラディンはじめとする原理主義者の活動が活発化し、西側の圧力もあって専制君主政から一定の自由化・民主化措置を取り始めたところで本書は幕を閉じる。

著者のサウード家に対する姿勢はあまり好意的ではなく、時にはかなり辛らつな記述も見られるが、極端に偏っているという印象も無い。

総合的に見てかなり優れた入門書であり、初心者にも十分勧められる。

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