万年初心者のための世界史ブックガイド

2007年5月31日

ポンペイウス・トログス 『地中海世界史』 (京都大学学術出版会)

Filed under: ギリシア, ローマ — 万年初心者 @ 06:00

ギリシア・ローマの古典すべてを邦訳するという、とんでもない企画である西洋古典叢書の第一期刊行分の中の一冊。

果たして私が死ぬまでに完結するんだろうか。

帝政ローマ初期の歴史家トログスが書いたオリエントおよび地中海世界の通史をビザンツ帝国の歴史家ユスティヌスが抄録した作品。

買いはしましたが、ものの見事に挫折しました。

しばらくして売り払い、再挑戦の機会が無いまま。

このシリーズでは、トゥキュディデス『戦史』の記事で書いた通り、クセノフォン『ギリシア史』も取り組んではみたが、即挫折。

他に私が読めそうなものはというと、『ローマ皇帝群像』(原題『ヒストリア・アウグスタ』)くらいか。

これは正体不明の数人の著者(実は一人との説もある)が書いたハドリアヌス帝から軍人皇帝時代を描いた伝記作品。

信頼性に問題はあるが、史料が少ない3世紀のローマ帝国の重要文献であり、ギボン『ローマ帝国衰亡史』の第一巻の主要なタネ本らしい。

刊行前から出たら絶対読もうと思っていたのだが、店頭に並んだものをいざ立ち読みしてみるとどうも思っていたほどの面白さが感じられなかったので、未だに読めないまま。

結局これまでのところ、この叢書でちゃんと通読したものはゼロ。

今は、「背教者」ユリアヌスの治世を記述し、タキトゥス以降最高のラテン史家と言われるアンミアヌス・マルケリヌスの訳書が出るのを気長に待っています。

一体いつになるのか見当もつきませんが。

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2007年5月30日

石射猪太郎 『外交官の一生』 (中公文庫)

Filed under: 近代日本 — 万年初心者 @ 06:00

戦前の日本を奈落の底に突き落とした政治決定と言えば張作霖爆殺事件の不処罰、冀東防共自治政府を始めとする北支工作、イギリス主導の中国幣制改革への非協力、トラウトマン工作など日中全面戦争早期収拾策の失敗、三国同盟締結、南部仏印進駐、真珠湾奇襲などであろう。

それらと並んで悪名高いのが盧溝橋事件直後の現地停戦協定・不拡大路線を無視した内地三個師団動員で、結局これが日中戦争の泥沼化を招き、遂には日米開戦につながってしまった。

本書は支那事変勃発時の外務省東亜局長として近衛首相、広田外相に対し動員反対を強く働きかけた外交官石射猪太郎による回顧録。

幣原外交の正しさへの信念を持った石射が終戦後自らの外交官人生を振り返って書いたもので、非常に興味深い。

500ページを超える本だが、特に難解な部分も無く読みやすい。

近代日本外交史を学ぶ上で有益な本。

先日も書いたように網羅性を気にして退屈な教科書的書物を読むより、こういう本を一つ一つこなしていく方が結果的に多くのことを得られると思います。

もし標準的な通史テキストを読むのなら、以前記事にした岡崎久彦氏の日本外交史シリーズ(いずれもPHP文庫収録)のような、史実への取捨選択と評価が明瞭になされている面白い本を選ぶことを強くお勧めします。

2007年5月29日

モーリス・キーン 『ヨーロッパ中世史』 (芸立出版)

Filed under: ヨーロッパ — 万年初心者 @ 06:00

またまたまたまた買っただけの本です。御免なさい。

大学時代の一時期、世界史関係の読書においては日本人著者の本より外国人著者の翻訳本を優先して読むべきだという奇妙な考えを持っていたことがある。

そういう観点からこれも買ったはず。

全く歯が立たないほど晦渋という本でもなく、オーソドックスな通史だったと思うが結局碌に読まないまま処分してしまいました。

変な思い込みから読めそうにない本を無理に買ってもしょうがない、というのが本書から得た唯一のものでした。

ただ外国人著者でも評価の定まった古典的著作では、翻訳を出して欲しいものはかなりあります。

カーライル『フランス革命史』とかバーナード・ペアーズ『ロシア史』とかホイットニー・グリズウォルド『米国極東政策史』、ポール・ケネディ『英国海上覇権の盛衰』など。

どこかの出版社がこういう世界史関係の名著を翻訳して安価に提供してくれるシリーズを創刊してくれないかなあとときどき夢想します。

2007年5月28日

杉山正明 『遊牧民から見た世界史』 (日経ビジネス人文庫)

Filed under: アジア — 万年初心者 @ 06:00

去年の6月27日井上靖『蒼き狼』の記事で、杉山氏の本は当ブログで紹介することはないと思うと書きましたが、慢性的ネタ不足なので本書を取り上げてみます。

遊牧民勢力への肯定的再評価を通じて今までのユーラシア史のイメージを一新するという意気込みは大変結構なんですが、不必要に断定的で攻撃的な口調がいちいち神経に障る。

そういう文章への反発から、最初もっともだと思えた定説への批判すらだんだん疑わしく思えてくる。

私は三分の一くらい読んだ辺りで耐え切れず放り出しました。

ただし、私ほど短気でなく、こういう「杉山節」が気にならない方にとっては、本書や中公新版「世界の歴史」および講談社新版「中国の歴史」の杉山氏執筆巻は良質な啓蒙書だと思いますので、一度お試しください。

2007年5月27日

『宮崎市定全集 16 近代』 (岩波書店)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

大学時代この全集の刊行予定を知って、思い切って全巻揃えようか相当迷った。

本来私は歴史家の個人全集など読破する知力も根気も無いのだが、宮崎氏だけは何とか挑戦してみようかという意欲が湧いてくる。

結局一般読書人向け著作の多くが文庫化されているので、買わなかったのだが、この巻だけは手に入れて通読。

数ある中国史家のうち御大だけは私の中で完全に別格の存在である。

著名な学者でこれほど素人が掛け値無しに面白いと思える本を書いてくれる人はいないだろう。

本書の中心の『中国のめざめ』は後に中公文庫に入ったが、その他の概説や論文も一読すれば大いに有益だと思います。

2007年5月26日

堀敏一 『中国通史 問題史としてみる』 (講談社学術文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

恥ずかしながら、また途中で挫折した本です。

副題の通り、中国史の様々な論点についてこれまでの学説を簡単に紹介しながら大局的な視点を提示する本。

内容は濃いがそれほど長大でもなく、初心者でもついていける難易度。

良書だとは思うんですが、どうも個人的な趣味に合わず途中で放り出してしまいました。

通読すればかなり有益な本だとは思いますんで、機会があればどうぞ。

2007年5月25日

来栖三郎 『泡沫の三十五年』 (中公文庫)

Filed under: 近代日本 — 万年初心者 @ 06:00

真珠湾攻撃直前に特派全権大使として米国に赴き、野村吉三郎駐米大使と共に最後の日米交渉に当たった外交官の回顧録。

難解な部分はほとんどなく読みやすい。当時の緊迫した情勢と交渉の概要がよく理解できる。

近代日本外交史の初学者にとって、大まかな史実の枠組みを頭に入れた後は、教科書的な概説を読むのは適当に切り上げて、こういう本をどんどん読んでいった方がいいと思う。

『国際関係学がわかる(旧版)』(朝日新聞社)で著名な日本外交史研究者の北岡伸一氏も教科書的な通史より、個々の研究書や政治家・外交官の伝記から学習に入るのがよいと勧めていた。

最近中公文庫ビブリオで復刊されたのは非常に喜ばしいのだが、このシリーズは早期に品切れになりやすいので、在庫があるうちに確保しておくのが宜しいかと思います。

2007年5月24日

菊池良生 『ハプスブルクをつくった男』 (講談社現代新書)

Filed under: ドイツ — 万年初心者 @ 06:00

1273年ハプスブルク家のルドルフ1世の即位によって神聖ローマ帝国の大空位時代が終了するというのはギリギリ高校世界史の範囲内だが、それから即、同家による世襲が始まったのではなく、安定して帝位が世襲されるようになるのは15世紀中盤以降である。

本書はその狭間の時代のうち特に14世紀に焦点を絞って当時のドイツの政治情勢を描き出したもの。

これは良い。非常に良い。対象となる時代が限られているため記述は詳細で非常に興味深い。それと以前同じ菊池氏の『神聖ローマ帝国』『戦うハプスブルク家』(これらも共に講談社現代新書)を読んだ時にも感じたことだが、この人は歴史の素人への読ませ方を心得ている。新書版にしては内容が非常に濃く読んでいて面白い。

まずボヘミヤ王オタカル2世を破ってオーストリアを奪いハプスブルク家の本拠をスイスから同地に移す基礎を固めた英主ルドルフ1世死後、ナッサウ家アドルフの短期間の治世を経て、ルドルフの子アルプレヒト1世が即位するも、自らの甥に殺害されハプスブルク家は帝位を失う。

以後ドイツはオーストリアを統治するハプスブルク家、オタカル2世死後土着のプシェミスル朝が断絶したボヘミヤを手に入れたルクセンブルク家、バイエルンの統治者ヴィッテルスバッハ家の三つ巴の勢力が相争う舞台となる。

主にヴィッテルスバッハ朝のルートヴィヒ4世とルクセンブルク朝のカール4世という二人の皇帝とハプスブルク家のアルプレヒト2世(賢公・同1世の子)とその子ルドルフ4世(建設公・カール4世の女婿となる)の二人のオーストリア公の複雑な抗争と連携の過程が巧みに叙述される。

カール4世が有名な金印勅書を発布した背景や細かな経緯・内容もよくわかる。

ブランデンブルク辺境伯領の統治者の変遷などの盲点になりやすい知識も得られる。(同地はまずアスカーニア家支配からヴィッテルスバッハ家→ルクセンブルク家を経て、ニュルンベルク城伯だったホーエンツォレルン家統治に移る。金印勅書で選帝侯になった時点ではヴィッテルスバッハ家領有。)

最初はやや取っ付きにくいかもしれないが、読み進めていくにつれてすごく面白くなってくる。初心者向け入門書としてはかなりの名著。是非お勧めします。

2007年5月23日

江村洋 『ハプスブルク家』 (講談社現代新書)

Filed under: ドイツ — 万年初心者 @ 06:00

初心者向け入門書のロングセラーとして有名な本書を今更ながら通読。

なかなか良いです。

内容は簡略でさほど面白くもないが、歴代君主をざっと一覧できて知識を整理するのに便利。

教科書レベルの次の段階で読むのに大変適している。

前日の『ブルゴーニュ家』もこういう書き方なら良かったんですが。

2007年5月22日

堀越孝一 『ブルゴーニュ家』 (講談社現代新書)

Filed under: フランス — 万年初心者 @ 06:00

駄目。勧められない。

中世末期英仏間で非常に重要な役割を果たしたブルゴーニュ家についての単著ということで手に取ってみたが、2、3章読んだだけで放り出した。

文章がわかりにくいし、何というか話の運び方が下手。

焦点が一定しないあいまいな描写が続き、何が重要な部分なのか読み取るのに苦労する。

私の頭が悪いのは認めるが、初心者が手軽に主要な史実を頭に入れられる本ではない。

読む前にアマゾンのレビューを見てある程度予想はしていたが、全くあれに書かれてある通り。

新書版なんだからもうちょっと整理してわかりやすく書いてください。お願いします。

2007年5月21日

加瀬俊一 『ワイマールの落日』 (光人社NF文庫)

Filed under: ドイツ — 万年初心者 @ 06:00

戦前の外交官出身の著者が記したワイマール共和国史。

読みやすく、内容はまあまあ。

しかしこの分野では林健太郎『ワイマル共和国』(中公新書)という初心者向け啓蒙書の最高傑作があるので、わざわざ本書を読むには及ばないという気がしないでもない。

あとエーリヒ・アイク『ワイマル共和国史 全4巻』(ぺりかん社)というのがあり、林氏も参考文献欄で推奨していたが、初心者には長大すぎて読み通すのは相当苦しいだろう。

私も到底読めそうにありません。

2007年5月20日

G・M・トレヴェリアン 『イギリス史 全3巻』 (みすず書房)

Filed under: イギリス — 万年初心者 @ 06:00

今まで通読しようと2回取り組んで2回とも挫折していた本書を三度目の正直でやっと読了。

このブログでちょっとでもマトモな本をご紹介しようと思って、無理にでも読書意欲をかき立てて読破しました。

読者の方には碌に役立っていないブログでしょうが、書いてる本人の立場からすると今まで読めなかった本も読めて自己充足度は非常に高いです。

さてこの本ですが、極めて重厚で正統派の標準的イギリス通史。

よく整理され明快でわかりやすい史実の描写と、的確・穏当でいかなる意味の教条主義とも無縁な著者の論評が実にうまく混じり合って、歴史叙述のお手本とも言える傑作に仕上がっています。

例えば以下のような文章。

トーリー党は、バークの晩年における反ジャコバン的心情に教えられて、フランス革命のあやしい光に対抗するイギリスの名誉革命体制の真の後継者・護持者たることをみずから誇るにいたった。トーリー主義はジャコバンの「直接行動」とナポレオンの人民的専制に対して、議会政治を擁護する立場に立ったのである。この立場を形成することによって、トーリー主義は世界に対して偉大な政治的貢献をなしたのであって、このことは長い戦争が終わった後に、キャニングのトーリー主義に関する独自の見解が一時ヨーロッパの自由と同義語となった時、きわめて明瞭となった。しかし、トーリーが代表するこの議会主義的立憲体制は、彼ら自身の定義に従えば、「民主制」でもなければ「代議制」でもなかった。それは主として貴族主義的ではあるが、民衆的要素をともない、場合によっては国王の介入する余地をも残した「混合政体」であったのである。

トレヴェリアン自身はホイッグ的な穏健進歩史観の持ち主と思われるのだが、それにも関わらずこのような透徹した認識をもっていることが明白なので、心底安心して読める。

(トレヴェリアンは以上の文中に記されている体制から民主制への漸進的移行を是としている。私はこのような安定して非専制的であることを保障された政体からのそれ以上の「進歩」ははっきり言って必要ないんじゃないかという感想を持つのだが、読んでいて違和感を抱くことはほとんどないです。)

1巻はやや取っ付きにくいですが、2巻のテューダー朝成立以降は慣れもあってスラスラ読めると思いますので、そこまで持ちこたえて下さい。

全くの初心者が読むイギリス史入門書としてはやはりアンドレ・モロワ『英国史 上・下』(新潮文庫)の方が良いと思うが、それをクリアした次の段階で是非取り組むべき傑作。

強く推奨させて頂きます。

2007年5月19日

山本茂 他 編 『西洋の歴史 古代・中世編』 (ミネルヴァ書房)

Filed under: ヨーロッパ — 万年初心者 @ 06:00

大学に入って「これで思う存分世界史関係の好きな本が読める」と喜び勇んだ時期、一番初めに買った本。

同時に本書の姉妹版の『近現代編』や有斐閣の『概説東洋史』なども買った。

しかし結局碌に読まないうちに処分しました。

こういう平凡な教科書的書物をいくら読んでも面白くないし、頭に残らない。

この種の概説は余程興味深い史観によって叙述されたものでない限り、強いて読む必要がない。

それより個々の時代や人物について面白い本を読んで、徐々に知識を積み重ねていくのが、私のような初心者が世界史を学ぶ本道だと思う。

買ってカネをドブに捨てたようなものだったが、以上のようなことを悟る授業料だと思えば高くなかったと今では感じる。

2007年5月18日

陳舜臣 『小説十八史略 1』 (講談社文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

この人は中国歴史読物の作者としては大家だし、著作も膨大な数に上るが、どうも好きになれない。

このシリーズも1巻は読んだが、2巻の途中で面倒くさくなって放り出してしまった。

私みたいな万年初心者にとって、本来この人の著作は適当と言えるんでしょうし、読みやすいとは思うんですが、何か物足りない。

とは言え単に私の好みの問題ですから、皆様はどの作品でもいいから書店か図書館で一度手にとってみて下さい。

もし趣味に合えば、著作の数を考えると楽しみが極めて大きいと言えるでしょう。

2007年5月17日

井上靖 岩村忍 共著 『西域 人物と歴史』 (社会思想社 教養文庫)

Filed under: 中央アジア — 万年初心者 @ 06:00

とにかく中央アジア史の本をほとんど読んでいなかったので、少しでも手当てしようと、数年前古書店の100円コーナーに転がっていた本書を手に取り購入・読了。

前半が井上氏の西域史に関係する数人の人物の評伝で、後半が岩村氏の中央アジア史の簡略な概説。

まあまあ面白かった記憶があるが、あまり充実感はなく内容も頭にほとんど残っていない。

以前ラテン・アメリカについても書きましたが、こういうマイナー分野はずば抜けた良書を無駄に探し求めるより、そこそこの内容でいいから各社各種の世界史全集の該当巻を素直に読んだほうがいいんでしょうかねえ。

何も読まないよりその方が遥かにいいとわかってはいるんですが。

2007年5月16日

那珂通世 『支那通史 上・中・下』 (岩波文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 06:00

1998年ごろの記念復刊時に購入。

日本の東洋史学黎明期に現れた名著。

十八史略と同じく、記述範囲は太古から南宋滅亡まで。

しかし全く読みこなせず上巻途中で挫折。

内容がどうこう言う前に、この漢文読み下し文は私にとって1、2ページ読むのも苦しい。

初心者が無理して読むような本ではありませんでした。

ただこの本はまあいいとして、思えば内藤湖南の著作もまともに通読した本は一冊も無い。

さすがにちょっと恥ずかしいので、自分でも読めそうなものを図書館で探そうかと思う。

2007年5月15日

ロミラ・ターパル パーシヴァル・スピィア 『インド史 全3巻』 (みすず書房)

Filed under: インド — 万年初心者 @ 06:00

ブックガイドを名乗りながら、どこもかしこも穴だらけの当ブログですが、伝統的な西洋史・東洋史の範囲外の第三世界の歴史が特に酷い。

少しは反省して、手始めにまず本書に取り組むことにしました。

以前から存在は知っていたのだが、ちょっと長いし私にはレベルが高すぎる気がしたので敬遠していた。

しかし一度手にとってみると意外なほど容易に読み通せた。

1、2巻がインド人史家ターパル女史執筆でインダス文明からデリー・スルタン朝まで、3巻がイギリス人史家スピィア氏執筆でムガル朝からイギリス統治時代と印パ分離独立まで。

ページ配分が適切で、この手の概説にありがちな近現代史の肥大化に陥っておらず大変宜しい。

内容的には1、2巻では特に社会史と文化史の記述が多い。

しかしやや細かすぎる固有名詞を無理に憶えようとせず、その時代の社会の様相を大まかに理解すればよいと割り切れば、私のような人間でも実に興味深く読める記述である。

また私にとって南インド史は鬼門だったのだが、本書くらい詳しく説明されるとごく大雑把ながら少しは頭に残る。

サータヴァーハナ朝、ヴァカタカ朝、パッラヴァ朝とチャールキヤ朝、ラーシュトラクータ朝、チョーラ朝と復興チャールキヤ朝、パーンディヤ朝、バフマニー朝とヴィジャヤナガル王国とうろ覚えながら主要な王朝名くらいは頭に浮かぶようになった。

史実の解釈についても全巻通じて穏当であり、バランスが取れていると感じた。

例えば3巻の植民地時代においてはイギリスの統治を美化・正当化することもなく、インド側の欠陥・弱点から目を逸らすこともしない。

この辺の均衡の取れた叙述は最近の本では望み難い気がする。

総合的にみて非常に優れた概説書。

高校教科書レベルの知識しかなくても何とか通読できる。

かなり古い本ですが、個人的にはインド史の基本テキストはこれで十分という気がします。

2007年5月14日

塚本哲也 『エリザベート ハプスブルク家最後の皇女』 (文芸春秋)

Filed under: ドイツ — 万年初心者 @ 06:00

著者は刊行当時確か防衛大学の先生だったはず。

表題の主人公の人生を軸に、第一次大戦から1955年の中立化あたりまでのオーストリア史を精彩に富んだ筆致で描いている。

第一次大戦後、民族紛争と独ソ両大国の支配と左右の全体主義の脅威に脅かされてきた中欧・東欧・バルカン半島の歴史を鑑み、緩やかな統治体制の下で多民族の平和的共存を実現していたハプスブルク帝国を再評価する視点から叙述されている。

それは大いに結構なんですが、著者の親オーストリア感情の裏返しからか、所々反プロイセン的偏見と思えるような記述が散見され、初読の際、個人的にはそれが気になってしょうがなかった。

私がそういう点で特に神経質なのは自覚してますので、他の人から見たら全然気にするようなことではないかもしれません。

非常に良質な歴史物語と言っていいんじゃないでしょうか。

今は文庫版も出ているようですから、私もそれを買って再読してみようかなと思います。

2007年5月13日

任文桓 『愛と民族 ある韓国人の提言』 (同成社)

Filed under: 朝鮮 — 万年初心者 @ 06:00

鄭大均氏の『日本のイメージ』(中公新書)で引用されているのを読んで古書店で購入。

これは非常に面白い。

著者は1907年生まれ。日本に留学し苦学の末朝鮮総督府に就職、独立運動には加わらず面従腹背のうちに密かに同胞の利益を少しでも図ろうとする。

戦後は「親日派」扱いされ、朝鮮戦争では人民軍に危うく拉致されかけ、死線を潜る体験をする。

その後李承晩政権の閣僚として国家の再建に尽力するまでを記した自伝。

鄭氏は別の著作で、本書の魅力を語ることによってどこかの出版社が復刊を決意してもらえないかと思っていると書いていたが、私も全く同感である。

日韓関係史として出色の出来。

本書が入手困難なのは非常に残念である。

2007年5月12日

栗本慎一郎 『幻想としての文明』 (講談社)

Filed under: 史論・評論 — 万年初心者 @ 06:00

私はこの人の言うことがどうも無視できない。

本書も一歩間違えば「トンデモ本」だし、巻末の近未来予測には的外れと思える部分もあるのだが、これだけ大風呂敷を広げられると個人的には反発を感じるより、鵜呑みにしないまでも素直に感心してしまう。

極めてユニークな文明論なので一読しておくのも良い。

なおしばしば取り上げているホイジンガ『朝の影のなかに』の書名を始めて知ったのも本書においてであり、そのことだけでも感謝したい著作ではある。

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