少し前に大いに話題になった毛沢東伝だが、ちょっと問題あり。
よく引用されるが、張作霖爆殺がソ連秘密機関の仕業だとか書かれると、どこまで信用していいものやら不安になる。
特に共産党の全国制覇までの前半部分は毛沢東の悪意で何でもかんでも説明しすぎではないか?
言うまでも無く、長征から反右派闘争まで二十年余りの期間、中共は無謬だったなんていう阿呆な与太は全く信じる気にならない。
延安をはじめとする「解放区」の悲惨な実態はその通りだと思うし、整風運動が粛清の恐怖を背景にした洗脳運動だったこと、日本軍や国民党だけでなく共産党も阿片販売を資金源にしていたのも事実だろう。
こういう史実を暴いて毛を強く批判することは当然だと思うのだが、それと毛の「悪魔化」はやはり違うのではないか。
(著者のユン・チアンはじめ毛の統治下で甚大な被害と苦しみを受けた人にとっては、それも実感なのだろうが)
後半、毛が全能の独裁者になった後はこういう違和感はやや薄れる。
しかし内容的には以前記事にした『毛沢東の私生活』とかなり重複してしまう。
建国後の毛は失政の連続なので、離反・失脚した彭徳懐・劉少奇・鄧小平はやや理想化されるほど評価が高いが、周恩来の評価はガタ落ちである。まあこれはしょうがないか。
通して読んでみると面白いとは思うが、全般的評価に関してはちょっと留保せざるを得ない。
私は読了した後、処分してしまった。文庫化された場合また買い直すかどうか迷っている。