万年初心者のための世界史ブックガイド

2006年12月8日

E・H・カー 『カール・マルクス』 (未来社)

Filed under: ドイツ, 思想・哲学 — 万年初心者 @ 06:21

ゴーロ・マン 『近代ドイツ史』 上巻 より

[カール・シュルツの観察―引用者註]

「マルクスのいうことは確かに内容が充実しており、論理的で明確だった。だが私は、あれほど相手を傷つけ、我慢できないほど傲慢な態度をとる人には、一度も会ったことがない。彼は自分の考えと根本的に食い違っている見解に対して、ある程度敬意を払って検討する心遣いを示さなかった。自分に反論する人をあしらうときには、いつでも軽蔑の色が見えすいていた。また自分の気に入らない議論に答えるときには、いつでも同情に値する相手の無知を毒々しく嘲るか、またはそんな議論を持ち出した動機について相手の名誉に関わるような疑念を示した。私は、彼が“ブルジョア”という言葉をいうときの痛烈な嘲笑的調子(唾を吐き棄てるようなと言いたい)を今でもよく憶えている。ところで“ブルジョア”というのは、精神的、道徳的頽廃の泥沼深く落ち込んでいるということをはっきり典型的に示す言葉なのだ。そして彼は自分の意見に楯突く人を誰でも“ブルジョア”として非難した。」

彼が周囲の人々にこのように見えたことは疑いない。証人は余りに数多く、また感想は余りにも一致している。彼が実際にそのような人であったことも恐らくは疑いのないところだろう。彼はとてつもない知性に恵まれると同時に呪われた。このため彼は孤独を強いられ、相手に対して高姿勢だった。妻子に対しては確かに愛情を持っていた。また同情ということも知っていた。彼は産業革命とともに押し寄せた生活の惨めさに激しい怒りを覚えたのだった。彼の精神は逆境にあっても不屈だった。みずから自分に課した超人的任務に対する忠実さは完璧だった。これは賞賛すべき美徳だが、彼の場合は恐るべき権力意志、つまり正しさを押し通そう、自分だけの正しさを押し通そうとする意志にむしばまれていた。彼は、反対し、批判し、または別の考えを抱く人たちを剣で、剣でできないときは、毒に浸したペンで絶滅しようとした。だが、このような人は世界をよりよくすることができない。

こういう「困った人」であるマルクスの生涯を多くの皮肉と多少の同情を持って描いた伝記。

同じマルクス伝でも、高校の時読んだ大内兵衛『マルクス・エンゲルス小伝』(岩波新書)を再読する気はさすがに起きないので、非マルクス主義者による伝記としてはかなり有名なこれを選んだ。

マルクスの生活上の無能力と偏狭な性格、そしてそれがもたらしたトラブルを多く記している(なにしろ無二の親友のエンゲルスとも一度危うく断絶しかける)。

他の社会主義者・無政府主義者との抗争にも重点を置いた記述が興味深い。

またマルクス主義の理論自体を検討した章では、労働価値説・剰余価値説の誤りを私のような阿呆でもよくわかるように説いてくれている。

総合的に見て、読みやすくて面白い、非常に優れた伝記作品。

是非お勧めします。

(なおマルクス死後残された娘たちの不幸については佐藤金三郎『マルクス遺稿物語』(岩波新書)という本がありますので、興味のある方はどうぞ。)

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