2006年8月31日
新書一冊でドイツ通史を扱うというので、「内容薄そー」と思っていたが、これは疑いもなく傑作である。岩波新書久々の名著と断言する。
重要史実を軒並み取り上げながら、通説とはやや異なった解釈を提示し、読者に新たなドイツ史像を与えることに成功している。
新書版の通史としてはおよそ望みうる限りの面白さ。中公新書の『物語イタリアの歴史』に並ぶ価値がある。
即買って、手元に置いておきましょう。
(ちなみに最近『フランス史10講』が出たが、こちらはどうもハズレっぽい。とは言えあくまで私の判断なので、一度書店で手にとってみてください。)
坂井栄八郎 『ドイツ史10講』 (岩波新書) はコメントを受け付けていません。
2006年8月30日
アレクサンドロス大王を主人公にした歴史小説。
史実からさほど離れず、全生涯を描いているので通読すれば非常に参考になる。
相当分厚いが、読みやすく、挫折する恐れはそれほどない。
側近集団の描き方も印象的で、よく頭に残る。
これを読んでから、プルタルコス『英雄伝』の中の「アレクサンドロス伝」を読めば面白いかもしれない。
阿刀田高 『獅子王アレクサンドロス』 (講談社文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月29日
日中戦争の最中、対日協力政権をつくった汪兆銘に同情的な伝記。
くだけた記述で読みやすい。
共産党でも国民党主流でもない第三の視点から見た中国現代史として興味深い。
杉森久英 『人われを漢奸と呼ぶ』 (文芸春秋) はコメントを受け付けていません。
2006年8月28日
前日の『フランコ』よりもっと物議を醸しそうな在日イタリア人によるムッソリーニの弁護論的伝記。
ページ配分が適当でムッソリーニの全生涯が詳しく記されていて便利なので、必ずしも著者の主張に得心のいかない読者でも、通読する価値はある。
今新刊として手に入る日本語で書かれたムッソリーニ伝としては一番良いと思う。
ところでイタリア本国では著者のような立場に反対する勢力ももちろん多いだろう。なかなか興味深いので、イタリアでの「歴史認識論争」の詳細も誰か中立的立場の人が紹介してくれないだろうかと思う。
ロマノ・ヴルピッタ 『ムッソリーニ』 (中央公論新社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月27日
一方的断罪論を排したフランコの伝記。
スペイン内戦の記述も人民戦線側に肩入れせず、客観的に書かれている。
20世紀初頭からフランコ死後の王政復古までかなり詳しく叙述されており、スペイン現代史のテキストとしては一番いいんじゃないでしょうか。
色摩力夫 『フランコ スペイン現代史の迷路』 (中央公論新社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月26日
「帝政ロシアとソヴィエト・ロシアには専制主義的伝統の連続性がある」、「後進国ロシアで革命が起こったゆえに真の社会主義が歪曲されスターリン主義が生まれた」、「帝政ロシア社会の脆弱性ゆえに非マルクス主義の社会史的立場から言っても革命は不可避だった」、「スターリン主義はレーニン主義からの致命的な逸脱であり、両者には深い断絶がある」
以上の主張すべてに強く反対する立場から書かれたソヴィエト史。個人的にはソヴィエト関係で一番得心の行く史書だった。
細かな史実には深入りしない、あくまで大局的な歴史解釈の書。
草思社は時々こういう渋い本を出しているので、世界史愛好者としては侮れない。
少々高いので図書館で一読後、手元に置くため買うかどうか決めても宜しいかと。
マーティン・メイリア 『ソヴィエトの悲劇 上・下』 (草思社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月25日
文化大革命中に書かれた論文集をそのまま収録した作品。
多くの中国研究者が醜態を晒しまくっていた当時、冷静な観察眼を維持したことは高く評価されている。
初心者にはやや詳しすぎるかもしれないが、極めて良質の現代中国政治史であることは間違いないので、挑戦してみる価値はあり。
中嶋嶺雄 『北京烈烈』 (講談社学術文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月24日
「ドイツ統一の国民的意志の体現者」と「ナチズムの基盤」という両極端の評価を避け、時代の状況における適切な評価を下しながら書かれたプロイセン史。
重くて分厚い本なのでビビってしまうが、写真と図版が多いためであり、本文はそれほど長大ではない。
複雑極まりないドイツ騎士団領とプロイセンの起源の絡まりあいが明確に説明されておりわかりやすい。
後半は同著者の『ドイツ帝国の興亡』とダブる部分が多いが、確認の意味で読めばいいと思う。
少々値は張るが、できれば手に入れておきたい良書。
セバスチァン・ハフナー 『図説プロイセンの歴史』 (東洋書林) はコメントを受け付けていません。
2006年8月23日
これも呉智英氏絶賛の書。「岩波新書から名著が出なくなって久しいが、これはジュニア新書から出た稀に見る良書」と。
フランス革命がもたらしたもののうち、生存権の概念などプラス面と恐怖政治などのマイナス面の両者を公平に述べた本。
細かな史実には深入りせず、あくまで歴史的評価に観点を絞っている。
薄くてちょっと物足りなく思えるが、良質な入門書と思われる。
遅塚忠躬 『フランス革命 歴史における劇薬』 (岩波ジュニア新書) はコメントを受け付けていません。
2006年8月22日
評論家の呉智英氏と宮崎哲弥氏がそろって絶賛していたので手にとってみた。
ジュニア新書ということだけあって、思想哲学関係に全く疎い自分でも得るところがあった。
高校の倫理レベルの次に読む本としては適当ではないだろうか。
岩田靖夫 『ヨーロッパ思想入門』 (岩波ジュニア新書) はコメントを受け付けていません。
2006年8月21日
大ナポレオンの劣化コピーとして悪評のナポレオン3世を、フランス近代化を仕上げた統治者として再評価した伝記。
仏文関係専攻の著者は無味乾燥の教科書的伝記ではなく、一般向けに面白く読ませる伝記を書いてくれている。
途中から通常の伝記的記述からは離れて、金融制度の整備とパリの都市改造の描写が延々と続く。
私の場合、こういう経済史・社会史はわからない。普通ならここで投げ出しているかもしれない。しかし本書の記述はわからないなりに面白い。
副題の「第二帝政全史」の通り、治世の全般にわたってバランス良く取り上げられた良書。
値が張るのはともかく、製本がやたら大きく重いのが唯一の欠点か。
鹿島茂 『怪帝ナポレオンⅢ世』 (講談社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月20日
英国の衰退、ソ連・中国の変動、日本の戦争などを題材に取った講演集。
非常にくだけた表現で、歴史を読む上で重要な示唆を与えてくれる。
ユーモアと知識の入り混じった文章は、世界史初学者にとって非常に有益。
新潮社から以前数巻出ていた高坂氏の講演カセットをCD化してまた販売してくれないだろうか。
高坂正堯 『現代史の中で考える』 (新潮社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月19日
著名な評論家の手に成るイギリス史。戦後保守思想の大家である著者がこういう具体的な歴史叙述を残してくれたことが嬉しい。
ちょっと成り立ちが変わった本で、後半部分は、イギリスで出版された、年代記や文学作品の引用だけから成る英国史の翻訳である。前半はその解説として書き下ろされた福田氏自身の英国史。
叙述範囲は古代アングロ・サクソン王国からチャールズ1世までである。
内容は、あくまで国王と宮廷を中心にした政治史にとどまるが、モロワ『英国史』の項でも書いたように、初心者はまず基礎としてそういうオーソドックスな政治史をマスターしないとどうしようもない。
その後で、社会史・文化史・経済史などに向かえばいいと思う(たまに私のように出発点で堂々巡りするようなのもいるが)。
記述は詳しく丁寧で、例えば複雑極まりない薔薇戦争の過程も、附属の系図を何度も見ながらしっかり読み込めば、必ず理解できるようになる。
その他著者らしい鋭い観察と逆説に満ちた、歴史叙述の醍醐味を満喫させてくれる、文句無しの名著。
福田恒存 『私の英国史』 (中央公論社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月18日
17世紀ヨーロッパの三十年戦争の歴史。
わかりやすい記述で、戦争のかなり詳しい過程がよく理解できる。
著者は独文畑の人らしいが、歴史関係でこういう初心者向けの面白い啓蒙書を書いてくれるところは嬉しい。
菊池良生 『戦うハプスブルク家』 (講談社現代新書) はコメントを受け付けていません。
2006年8月17日
日清戦争時の外相陸奥宗光の回顧録。
一次資料に近い本だが、表記を一部現代風に変えているので素人でも読もうと思えば読める。
記述は克明だが、詳しすぎず、適当な概説となっている。
日清戦争について知ろうとする場合、変な入門書読むより、初心者でも本書を熟読玩味した方がいいと思う。
陸奥宗光 『蹇蹇録』 (ワイド版岩波文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月16日
近代以降のドイツ、ロシア、イギリス、日本の歴史から題材を採った史的エッセイ。
例のごとく難解な用語、概念を一切避けながら、実に深みのある文章が続く。
具体的な史実の他、歴史の冷静な見方を示唆する本である。
内容が薄く、つまらない通史を読むくらいなら、本書のような広い視野を持ったエッセイをきちんと読む方が初心者にとっても余程有意義であろう。
高坂正堯 『世界史の中から考える』 (新潮社) はコメントを受け付けていません。
2006年8月15日
シリーズ最終巻。敗戦からサンフランシスコ講和条約まで。
占領下の時代であり、日本人としてあまり愉快な話ではない。
戦争裁判の記述を通じて、今までの近代日本の歴史的評価のおさらいを行っている。
占領行政と押し付けられた改革に対して、著者は相当批判的であり、よく言われる「親米的偏向」は本書については感じられない。
一部問題はあるとしても、このシリーズは初心者向け近代日本史入門書として相当優れていると思われるので、一読をお勧めします。
岡崎久彦 『吉田茂とその時代』 (PHP文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月14日
終戦記念日前だし、このシリーズの紹介を続けましょう。
満州事変以後敗戦までの概説。
前半三分の二あたりまで、破局に突き進む日本の針路を何とか変えようと苦闘する人々を描写し、非常に面白い。
あえて「歴史のif」を多用し、破局的な日米開戦を避けることはできなかったのか歴史的検証を行っている。
1941年の開戦後は救いようの無い敗北の過程であり、読んでいて辛い部分もある。
初心者向けの標準的通史としては相当優れていると思う。
今まで触れなかったが、このシリーズの各巻巻末に参考文献が載っており、そのうち興味の持てそうなものを読んでいくのもいいであろう。
岡崎久彦 『重光・東郷とその時代』 (PHP文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月13日
第一次世界大戦から満州事変直前までの日本外交史。
日清日露の戦いと昭和の動乱に挟まれた、比較的論じられることの少ない時代のせいか、初耳の興味深い話が次々出てくる。
このシリーズでは本書が一番面白い。どれか一冊だけ読むとすれば本書を勧める。
著者の幣原に対する評価は比較的高いが、ワシントン会議における日英同盟破棄をさしたる抵抗も無く許したことに対してはかなり批判的。
岡崎氏は大正時代を近代日本が達成した最良の原点と見なしているが、本書を読めばそういう見方も説得的に思えてくる。
世界史知識の不可欠の一部として近代日本史を学ぶために適当な一冊である。
岡崎久彦 『幣原喜重郎とその時代』 (PHP文庫) はコメントを受け付けていません。
2006年8月12日
秦郁彦氏から盗作だ何だと言われて、中公版は絶版扱い。
それへの反論文を付けて別の版元から出ているが、そういうのが鬱陶しい人は中公版を買っときましょう。
軍事という観点から見た近代ヨーロッパ史。
中盤の組織論はちょっとゴチャゴチャしていて読むのが面倒だが、軍事史の啓蒙書として一読の価値有り。
渡部昇一 『ドイツ参謀本部』 (中公文庫) はコメントを受け付けていません。
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