万年初心者のための世界史ブックガイド

2006年6月30日

カエサル 『内乱記』 (講談社学術文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 20:22

ポンペイウスとの内戦の経緯を記したカエサルの現存するもうひとつの著作。

耳慣れない部族名が頻出する『ガリア戦記』よりいいかと思ったが、かえってこちらの方が読みにくく感じた。

とはいえファルサルスの決戦へ徐々に盛り上がっていく叙述はさすがに真に迫るものがある。

古典的著作の中でも、自分のような初心者にとって、「読める古典」と「読めない古典」があるが、これは前者。毛嫌いせずに手にとってみましょう。

2006年6月29日

カエサル 『ガリア戦記』 (講談社学術文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 19:56

高校世界史でもタイトルを必ず暗記させられる古典中の古典。だが古典といっても、これは初心者でも読もうと思えば読める。

なお塩野氏の『ローマ人の物語』の該当巻を先に読んでおいた方がいいかもしれない。

巻末に当時のガリアの部族分布図が載っているので、面倒臭がらず、必ず本文中の部族の位置関係を把握しながら、着実に読み進むこと。

一つ間違えば、指揮下の軍団もろとも全滅しかねない危険を克服して、ガリア征服を成し遂げたカエサルの冒険譚に手に汗握る。

本書によって、翻訳を通じてでも、カエサルの簡潔、正確、端正な文体を十分感じ取ることができる。

2006年6月28日

岡崎久彦 『繁栄と衰退と』 (文春文庫)

Filed under: オランダ — 万年初心者 @ 20:10

独立戦争から名誉革命までおよそ100年余りのオランダ史。

80年代の日本・アメリカ・ソ連を、それぞれ当時のオランダ・イギリス・フランスに例えるという著者の問題意識が興味深い。

そういうのは抜きにしても、類書が少ないオランダ史なんていう分野で、稀に見る面白い通史に仕上がっていて、非常に貴重。

読みやすいし、確実に世界史読書ラインナップに加えるべき良書。

2006年6月27日

井上靖 『蒼き狼』 (新潮文庫)

Filed under: 中国, 中央アジア — 万年初心者 @ 20:42

チンギス・ハンを対象にした、かなり著名な歴史小説。

大岡昇平に絡まれたり、批判もいろいろあったようだが、素人は別に気にしなくていいでしょう。

『元朝秘史』に基づいて流暢に記された文章で、チンギス・ハン一代の事績についてかなり詳細に知ることができる。

今年はモンゴル帝国建国800年ということで、日経新聞に堺屋太一がチンギス・ハンを主人公にした小説を連載したり、他にも何点か関連書が出ているようだが、初心者はとりあえずこの一冊を読んでおけばいいんじゃないでしょうか。

(なおモンゴル史関係で著名な研究者に杉山正明氏がいる。モンゴルをはじめとする遊牧民に染み付いた「野蛮」「未開」「破壊勢力」のイメージを強く否定し、定住農耕民中心史観や西欧中心史観を強く排撃する人なのだが、どうも定説を攻撃するときのエキセントリックさについて行けず、著作を途中で放り出してしまったことがある。よってこのブログで紹介することは無いと思うが、一般向けにわかりやすい著作を多数出している方なので、書店や図書館で一度手にとってみることをお勧めします)

2006年6月26日

高坂正堯 『世界地図の中で考える』 (新潮社)

Filed under: 史論・評論 — 万年初心者 @ 19:30

妙な言い方だが、高坂氏の著作は世界史愛好者にとっては「栄養価」が高い。

国際政治学関係の本書も、凡庸な通史的書物よりも多くのことを歴史について教えてくれる。

細かな知識より歴史への全般的な考え方を吸収すべき本。

2006年6月25日

高坂正堯 『文明が衰亡するとき』 (新潮社)

Filed under: 史論・評論 — 万年初心者 @ 12:29

古代ローマ、ヴェネツィア、現代アメリカを題材に取った史的エッセイ。

相変わらず平易な表現でありながら、含蓄のある叙述。

特に冒頭のローマ帝国の衰亡を扱った章は貴重。

本書の知識は何でも吸収するつもりで熟読玩味すべし。

2006年6月24日

塩野七生 『海の都の物語 上・下』 (中公文庫)

Filed under: イタリア — 万年初心者 @ 12:45

『ローマ人の物語』の刊行以前、塩野氏の代表作と見なされていたヴェネツィア共和国史。

最初「ヴェネツィア史ねえ・・・・もうひとつぱっとしないテーマだなあ」とあまり読書欲が湧かなかったが、上巻末尾にある高坂正堯氏の解説に釣られて読んでみた。

読後、イタリアの数ある都市国家の中で、ヴェネツィアが異色で別格の存在だということがわかった。

ローマやフィレンツェのような華々しさは無いが、怜悧な現実主義に基づく内政と外交を展開することによって、イタリアの都市国家の中で最もよくその独立性を保ったことが、読みやすい文章で叙述されている。

イタリア史入門書としても非常に優れている。

ちなみに中公文庫としては品切。版権が『ローマ人~』の版元の新潮社に移動したらしく、今は新潮社刊の単行本として新刊が入手できる。ただし高坂氏の解説は無い。

2006年6月23日

宮崎市定 『史記を語る』 (岩波文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 19:59

元は岩波新書だが、それが堂々古典的著作として岩波文庫入り。さすが宮崎御大。

史記の目次に沿っての内容紹介と著者自身の学説のわかりやすい解説が並ぶ。

ざっと読むことで、中国古代史のおさらいが出来て便利。

2006年6月22日

アンリ・トロワイヤ 『女帝エカテリーナ』 (中公文庫)

Filed under: ロシア — 万年初心者 @ 20:02

中公文庫には同著者のロシア皇帝伝記シリーズとして、『イヴァン雷帝』『大帝ピョートル』『アレクサンドル一世』が収められているが、そのうち特に前二著では陰惨な記述が多く、ロシアの“野蛮性”“後進性”がやたら強調され過ぎているような気がして、あまり良いとは思わなかった。

そういうことが気にならない人なら、順番に読むとロシア史の基礎ができて便利である。

さて、この作品では亡命ロシア人たる著者のロシアへの「偏見」はあまり感じられず、偉大な啓蒙専制君主エカチェリーナ2世の面白い伝記として純粋に楽しめる。

小領主の娘としての生誕から、ロシア皇太子との結婚、クーデタを経ての即位、ピョートル1世の事業を受け継いだ治世、プガチョフの乱の鎮圧、最晩年のフランス革命への対応などが興味深く綴られている。

ちょっと読みにくい部分もあるが、通読する価値は十分あり。

2006年6月21日

阿刀田高 『新約聖書を知っていますか』 (新潮文庫)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 19:57

キリスト教の使徒のうち、教科書に載ってるペテロとパウロ、両者の区別もつかなかった人(含自分)はまずこれを読みましょう。

一般常識として最低限知っておくべきキリスト教の知識が、これ以上無いほど平易に記述されている。

世界史関係の本を読む上でも、これくらいのことは頭に入ってないと困る。

著者が変な欲を出さず、本当に白紙の状態の読者に最低限のことだけを伝えようと徹しているところが大変宜しい。

2006年6月20日

宮崎市定 『アジア史論』 (中央公論社)

Filed under: アジア — 万年初心者 @ 19:59

主にかつて刊行された「世界の名著」シリーズを再版したものが多い、新書版の中公クラシックスの中の一冊。

それら文字通りの古典に交じって、これは宮崎氏の著作から、巨視的な概観的論文を集めたアンソロジー。

岩波書店刊の全集でしか手に入りづらかった論文が収録されていておいしい。

収録作のうちでは『東洋的近世』が中心だが、その他の論文もコンパクトでありながら、密度が高く有益。

素人が御大の世界史観を知るには、前述の『アジア史概説』より、こちらを勧める。

2006年6月19日

宮崎市定 『アジア史概説』 (中公文庫)

Filed under: アジア — 万年初心者 @ 20:05

宮崎氏の時代区分論を全アジア史にわたって展開した本。

イスラム時代という(宮崎氏の定義による)近世にいち早く達した西アジアの他地域に対する先進性が説かれる。

また、大幅に遅れて近世的発展に達したヨーロッパが極めて短い時間のうちにそれを完成させ、産業革命を中核とする全く新しい近代的段階に達し、アジアへ勢力を拡張する様を描く。

叙述はダイナミックで相変わらず面白いのだが、あまりに対象範囲が広すぎて、所々教科書的な事実整理の記述が続き、御大の著作には珍しく冗長に思える部分がある。

とは言え、これだけの力作を読まないのも惜しい。

少し気合を入れれば、初心者でも通読は難しくないので、買ってみましょう。

2006年6月18日

司馬遼太郎 『韃靼疾風録 上・下』 (中公文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 12:48

著者のもう一つの中国歴史小説。こちらは17世紀の明・清交替期を描いた作品。

本書でも合間に挟まれる歴史余話が非常に面白い。

ストーリーを楽しみながら、著者の含蓄ある歴史観を吸収できる。

自分は『竜馬がゆく』も『翔ぶが如く』も『菜の花の沖』も『国盗り物語』も『関ヶ原』も、その他著者の代表作と見做されるものを全然読んでないひどい読者なわけだが、本書のようなレベルで日本史の各時代を語ってくれているのなら、「国民作家」として広範な読者を得ているのも十分理解できる気がする。

ただ世界史好きの読者からすれば、あと少し中国史や朝鮮史関連のまとまった著作があればと思うのは望み過ぎか。

2006年6月17日

司馬遼太郎 『項羽と劉邦 上・中・下』 (新潮文庫)

Filed under: 中国 — 万年初心者 @ 14:31

言わずと知れた国民作家の手に成る中国歴史小説。

この作者の膨大な著作のうち世界史関連のものだけに関心があるという、極めて偏った変わり者の読者である自分にとって、これは本当の最高傑作。

人物造詣の巧みさ、的確さは「ああ、きっと史実でもこういう感じだったんだろうなあ」との思いを抱かせる。

ストーリーの途中で時おり挿まれる著者自身の感想、歴史観にも深く頷かされる。(儒教的価値観を持つ人物に異様に点が辛いのをやや別にして)

これだけ読みやすく、面白い歴史小説を措いておくことはない。初心者は即買いましょう。

2006年6月16日

ポール・ケネディ 『大国の興亡 上・下』 (草思社)

Filed under: 近現代概説 — 万年初心者 @ 20:15

1980年代末期、冷戦が終わりかけ、バブル経済絶頂期「日本脅威論」が盛んだった頃に出版され日米でベストセラーになった近代以降の世界の軍事・経済史。

「ある時代の覇権国が国力以上の介入を行う“手の広げすぎ”で衰退し、その間隙を突いて挑戦国が次の覇権国に躍り出る」というテーゼを説いている。

しかし本書の価値は、著者の一般的理論ではなく、解説で高坂正堯氏が言うように、細々とした史実の巧みな描写や、よく練られた統計やデータにあると思われる。

16世紀以後の主要国家の経済力と軍事力の推移、覇権闘争の過程がよく整理された形で叙述されている。

高校世界史の近現代政治史分野の知識を広げるのにちょうどいいテキスト。

2006年6月15日

南川高志 『ローマ五賢帝』 (講談社現代新書)

Filed under: ローマ — 万年初心者 @ 20:07

「養子相続制によって賢帝が続いたローマ帝国全盛期」というイメージのある時代の統治の実状に迫った本。

著者自身の研究や標準的学説を十分に咀嚼し、一般読者向けにわかりやすく書いてくれているところが大変宜しい。

皇帝やその周辺の有力者の経歴を碑文などを手がかりに細かく解読していく方法で、まるで謎解きのように、当時の政治情勢を描き出す叙述はお見事。

世界史関係の新書版は結構な数があるが、本書のように面白くて本当に読むに値する本はかなり少ない。

2006年6月14日

森谷公俊 『王妃オリュンピアス』 (ちくま新書)

Filed under: ギリシア — 万年初心者 @ 21:08

タイトル見て、「誰だ、それ?」と思われるだろうが、アレクサンドロス大王の母である。

あまり表舞台に立たなかった人物の視点から見たアレクサンドロスの伝記なわけだが、これは疑いもなく傑作である。

当時のギリシア・マケドニアの情勢、大王の東征の事績、大王死後の後継者戦争の過程が実にわかりやすく書かれている。

アレクサンドロス関係の啓蒙書では一番いいんではないだろうか。

ところが、この傑作も品切状態。ネット書店であれば、即買いましょう。

(なお同じ著者で講談社から『アレクサンドロス大王』が出ているが、こちらは細々した戦史の考察や一次資料の信憑性比較検討などが多く、標準的な伝記とは言い難く、初心者向きではない。)

2006年6月13日

猪木正道、佐瀬昌盛 『現代の世界 (世界の歴史25)』 (講談社)

Filed under: 国際関係・外交 — 万年初心者 @ 19:47

何冊か第二次大戦後の国際政治史を紹介しているが、これは講談社から70年代後半に出ていた世界史全集の最終巻。

オーストリア中立化、ユーロ・コミュニズム、ポルトガル自由化など比較的マイナーな史実についても割りと詳しい記述があって便利。

巻末にある、簡単なコメント付きの参考文献リストも有益。

2006年6月12日

岡崎久彦 『隣の国で考えたこと』 (中公文庫)

Filed under: 朝鮮 — 万年初心者 @ 19:55

著者が70年代末期、在韓大使館駐在後に書いた韓国入門書。

冒頭の日韓関係の概論を読んで、「あの岡崎久彦が“自虐史観”を説いている!!」と驚くかもしれない。

といっても本書での著者の立場は「日清・日露の戦いは必然だったが、その後当時としてはいかに非常識な選択であっても韓国の独立を保全する政策を取ったほうが、極めて長期的な視野に立てば、韓国のみならず日本にとっても良かったのではないか」というもの。

半ば惰性の妄想じみた「反日」と身もふたも無い「嫌韓」が衝突する今日、朴政権から80年代中盤までの日韓の保守派同士の連携を「癒着」と片付けていいものかと思う。

日本側は少なくとも植民地統治の全面肯定はしなかったし、韓国側も「北」とその背後の共産国という共通の脅威に備えるため現在より真摯に日本と向き合っていたと思う。

それはともかくとして・・・・・。

日韓関係の概論から始まり、言語・民族と近似性、新羅・高麗・李朝史の簡略なおさらいに至る非常にオーソドックスでわかりやすい入門書。

全くの素人が韓国史を知るには、普通の通史的書物を読むより、こちらを先にした方が良いかも。

随所に現れる著者自身の歴史に対する姿勢や考えも興味深い。

残念ながらこれも新刊書店では手に入れることができない。

本書も含め昔の中公文庫のラインナップは世界史好きにはため息の出る素晴らしさ。

これからも品切の中公文庫を紹介することがかなりあると思うが、何とか少しでも復刊してもらえないでしょうか。

2006年6月11日

ゴーロ・マン 『近代ドイツ史 1・2』 (みすず書房)

Filed under: ドイツ — 万年初心者 @ 22:13

フランス革命からアデナウアー時代までのドイツ史。二段組で分厚い2冊。しかし全く退屈しない。

政治史を中心にした標準的通史だが、史実の取捨選択、主要人物の個性描写、社会・精神の目に見えない変化の巧みな把握、それらを一貫した物語として組み立てていく技量、何を取っても素晴らしい。

特筆すべきはヘーゲル、ハイネ、マルクス、ショーペンハウエル、ニーチェなどの思想家、文化人を扱った章。難しい概念など何一つ使わないにも関わらず、彼らの個性、思想の特色について明確なイメージを持つことができる。

最初読んだときは、ビスマルクとプロイセン的伝統についての評価が厳しすぎるのではないかと感じたが、再読してそれがありきたりのリベラル的立場からのものではないとわかった。

著者の立場は懐疑的な中道自由主義者とでもいうべきもので、偏狭な思想的立場から史実を裁断するようなものではない。ビスマルクやプロイセン・ユンカーについても評価すべき点は正当に認めている。

芸術作品とも言うべき歴史叙述の傑作で、読み終えた後の充実感は極めて大きい。

 

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